第10話 小人の塔

 ピュグマイオイ。


 ピュグマイオイは小人ととも呼ばれ人間の指先から肘ぐらいの大きさしかなく、力が弱い種族である。

 そのため、ゴブリン1匹であってもピュグマイオイにとっては脅威である。

 しかし、だからといってピュグマイオイを侮ってはいけない。

 ピュグマイオイは鳥や虫と会話が出来て姿を隠す能力に長けている。

 鳥に乗る事ができるので手紙の配達等を行う。

 また、情報通であり、その得られた知識を売っていたりもする。

 そのピュグマイオイ達はエルドにもいたりする。


 コウキ達はそのピュグマイオイを訪ねて、街の中心部へと行く。

 正門から大通り進み広場がある。正面にはエルドの政庁があり、ピュグマイオイが住むのはその隣の建物である。

 建物は塔のように高く、一般に小人の塔と呼ばれ、王宮の次に高い建物である。

 その一階は人間の職員が働く郵便局である。

 郵便局では受け取った手紙を仕分けしてピュグマイオイに渡し、ピュグマイオイから受け取った手紙をエルドの至る所に配達する。

 もちろん、今回は手紙を出しに行くわけではないから用はない。

 情報を得たい時は奥の部屋に入る必要があり、誰でも入る事はできない。

 これはピュグマイオイ達を守るのが目的であり、怪しい者を近づけないようにするためである。

 ピュグマイオイ達は勇者の名の元に保護されており、エルドの中でピュグマイオイ達を傷つける者は大罪だったりする。

 勇者達は公費でピュグマイオイ達を守る戦士を雇っており、勇者とその仲間、貴族、公認の団体の長、以上の者から紹介を受けた者のみが入る事が出来る。

 奥の部屋の扉の前には人間の大男がいる。ピュグマイオイを守るための戦士のようだ。

 ボームはその戦士に紹介状を渡す。

 戦士は紹介状を見ると怪訝な顔をする。

 子どもが紹介状を持っている事を不思議に思っているようだ。

 

「なぜ子どもが紹介状を持っているのか? 不思議に思わないでもないが、規約により入る事を許可しよう」


 戦士はかなり怪しんでいるが規約により、扉を開けてくれる。

 コウキ達は中へと入る。

 中は思った以上に広く、着色された板ガラスが外の光を取り入れているので部屋は明るい。


「あれ、誰もいない?」


 ボームは周囲を見て呟く。

 部屋は広く、奥には大きな机が置かれている。

 それ以外は何もなく、誰の姿も見えない。


「おかしいな? 階段もないから上に行く事もできなさそうだ。どういう事だろう?」


 オズの言う通り部屋には階段がなく、上に行けなさそうであった。


「いや? 何か気配を感じるよ……」


 コウキは周囲を見る。

 先程から何者かの気配を感じるのだ。

 それは探るような気配である。


「ほう、中々感が良いのがいるではないか。人間ヤーフの子が来るとは珍しいのう」


 突然声がしてコウキ達は声のした方を見る。

 すると誰もいなかったはず机の上に小さい人が座っている。

 小さい人は長い髭を生やしており、コウキ達を鋭い目で見ている。

 どうやら、姿隠しの魔法を使っていたようだ。


「儂はタッキュ、見ての通りピュグマイオイだ。ここに来たという事は何か知りたい事があるのだろう。何だ?」


 ピュグマイオイの老人タッキュは鋭い目でコウキ達を見ると質問を促す。

 コウキ達は顔を見合わせる。


「あの……。僕達、貴族の大畑様が殺された事件の犯人をさがしてるんです」


 ボームはおそるおそる尋ねる。


「ほう、あの事件の犯人をだと? 既に勇者様達が捜索しておるはずだがの……。御主達にやる事があるかの?」


 タッキュは長い髭を触って言う。


「それでもです。ただ、何もしないのは嫌だったんです」


 コウキはそう言うとオズを見る。

 オズは俯いたままだ。


「何か事情がありそうだの。まあ良いじゃろう。しかし、我らも全てを知っているわけではない。答えられない事もある。それに無料というわけにもいかん。それは良いな」

「はい」


 コウキ達は頷く。


「では早速じゃが、最初の質問である、犯人については答えられん。まあ、この答えにも料金はいただくのじゃがな……。これは特別に無料じゃ。犯人は知らぬ。次の質問は金を取る。よく考えて質問せよ。それとも、もう聞くことはないのかの?」


 タッキュはそう言って次の質問を促す。

 再びコウキ達は顔を見合わせる。


「えーと、次は何を聞いたら良いかな?」

「すまない。何も思いつかないな……。コウ、君は何か聞くことを思いつかないかい」


 そう言ってオズはコウキを見る。


「難しい。何を聞いたら良いかな」


 問われてコウキは首を振る。


「御当主様からこんなにもらったんだ。何も使わないのはもったいないよ……」


 ボームは悲しそうな顔をする。

 

「そうだね。折角自分達のためにここまでしてくれたのに」


 コウキも頭を悩ませる。


「とにかく何でも良いから聞こう。ボーム。何か少しでも怪しい事はないかな?」


 オズは一応提案する。

 あまりにもあやふやな質問である。

 問われたタッキュも返答に困るであろう。

 しかし、コウキ達には何も思いつかない。


「うーん。わかった一応、聞いてみる。あの最近怪しい事はありませんでしたか?」


 ボームはおそるおそる聞く。


「何ともあやふやな問いじゃな……。だが、規約により、銀貨一枚をもらおう」

「はい」


 タッキュがそう言うとボームは銀貨を一枚タッキュの前に置く。

 銀貨一枚はかなり金額だ。

 その金額にしているのはつまらない質問をしてくる者を避ける意味もある。

 あやふや質問をするのはかなりもったいない事であった。


「では、問いに答えよう。まず、最近がいつ頃か? 特に指定がないから儂の思う最近の出来事で答える。今後はそこもしっかり考えて質問する方が良いぞ。また、怪しい事とというのもそれぞれの者の主観によるから、儂の思う怪しい事で答えるぞ。今後はもっと具体的に聞くがよい。儂が思う最近の怪しい事は虫の大量発生じゃ。何者かの作為があるかもしれん」


 タッキュはそう答える。

 少し気になる答えであった。

 虫の大量発生はエルドで問題になっている事は誰でも知っている。

 その大量発生に誰かが関わっているというのだ。


「誰かが虫を発生させたのですか?」


 コウキはタッキュに聞く。


「悪いがその質問には儂は答えられん。これは金を払えという意味ではないぞ。より詳しい者がおるからな、より良い情報を与えるのが誠意というものよ。ピン! ポン! おるか!?」


 タッキュはそう言うと天井に向かって叫ぶ。

 すると天井の一部が開き、2名のピュグマイオイが顔を見せる。

 顔つきからしてコウキ達と同じように子どものようだ。


「どしたの、タッキュ爺!?」

「質問は終わりー!?」


 ピンとポンと呼ばれたピュグマイオイの子どもは楽しそうに聞く。


「違うわ! ファブルじゃ! あいつを呼んでこい!」

「ええー! あれを呼ぶのー!」

「嫌だよ! あいつの飼っている虫さ、怖いんだもの!」

「何を言っとる! さっさと呼んで来い!」

「「ぶー!!!」」


 ピンとポンは不満そうな顔をしながら顔を引っ込める。


「しばし待て。専門家を呼んだ。虫の事はそやつに聞け。」


 タッキュはそう言ってコウキ達にしばらく待つように言う。

 しばらくすると、ピンとポンが戻ってきて天井から顔を覗かせる。


「タッキュ爺! ファブルいないよ!」

「また、耕作地に行ったんじゃないかな!」


 ピンとポンは報告する。


「何!? いないのか! もしかして調査に行っておるのかもしれんな。すまんな御主達。ファブルは我らの仲間で最高の虫博士にして虫使いじゃ。奴に虫の事を聞いてわからなければ、このエルドでわかる者はいないじゃろう」


 タッキュは申し訳なさそうに言う。


「あの、どちらに行かれたのですか」


 オズは一応聞く。


「うーむ、これは料金に……。まあ良いじゃろう。実はな勇者様達に依頼されておるのじゃよ。虫の発生原因をな。それでファブルはよく耕作地に行くのじゃ」


 タッキュは説明する。

 ファブルは虫の知識においては賢者と呼ばれるチユキをも超える。

 そのため、勇者達はファブルに虫の発生原因を調べるよう依頼したのである。

 虫の発生場所はエルド郊外にある耕作地であり、ファブルはそこに行っているらしかった。



「そうなのですか……。それじゃあ仕方がないですね」

「うむすまんな、他の質問にしてくれ」


 タッキュは申し訳なさそうに言う。


「うーん、どうしようか?」


 次の質問をどうしようかとボームはコウキとオズに聞く。

 

「わからないな。さっきの質問だってかなりあやふやだったのだし」


 オズの言う通り。

 何を聞くのか、しっかり考えてこなかったのは失敗である。


「2人とも、一度出直さない? 折角銀貨をもらったのに、このままだと無駄にする気がする」


 コウキがそう言うとオズとボームは頷く。


「そうだな。コウの言う通りだ」

「うん、そうだね。ごめんなさい。一度出直してきます。今度はちゃんと調べて来ます」


 コウキ達はそう結論して頭を下げる。


「うむ、それが良いかもしれんな。若い時の失敗はしておくものじゃ」


 タッキュはうんうんと頷く。


「でも、これからどうしよう? 何を調べようか?」

「そうだな。コウはどう思う?」

「うーん。そうだ耕作地に行ってみないか! 折角得られた情報なのだし! 行ってみようよ!」


 コウキはそう言ってオズとボームを見る。

 ここに来て得られた情報はこれだけだ。

 だから、そこに行ってみようと思ったのである。

 

「そうだね、得られた情報で、一番良さそうなのはそれだけだしね……」

「ああ、コウの言う通りだね。じゃあ行ってみようか」

 

 ボームとオズは頷く。


「ほう耕作地に会いに行くのか? ならばファブルを探してくれんか? 奴は中々帰って来ん。誰か様子を見に行かせたいが、ピンとポンでは不安じゃし、他の者は忙しいでな。どういう状況になっているのか状況を教えて欲しいんじゃよ。もし、教えてくれたら次は一度だけ無料で質問に答えてやろう」


 タッキュはそういって笑う。


「どうする? コウ、ボーム。別に構わないと思うけど」

「僕も別に構わないよ」

「自分も同じ」


 コウキ達はタッキュの依頼を受ける事にする。


「そうか、じゃあ待っておれ。すぐに手紙を書こう」


 タッキュはそう言うと机に置いてある、紙とペンを使って手紙を書き始める。

 程なくして手紙を書き終えるとボームに渡す。


「さあ、これを渡してくれ。じゃが、気を付けるのじゃぞ。耕作地とはいえ、城壁外じゃからな」

「「「はい」」」


 コウキ達はそう返事をすると小人の塔を後にするのだった。





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 そして、告知です。来週はお休みします。

 理由はリアルが忙しいからです。限定近況ノートも作成する暇がなかったりします。

 ごめんなさい<(_ _)>

 

 ちなみに公認の団体は魔術師協会や商人協会等があります。

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