第12話 黒いピラミッド
ジプシールとアポフィスの境界は黒い雲に覆われ薄暗い。
その黒い雲の下にはブラックピラミッドが不気味な魔法の光を放っている。
ピラミッドは元々黒くはなかったが、アポフィスの者達が奪った後に表面を黒く塗り潰した。
黒い表面には蛇の女王を示す邪眼の紋章が白く描かれ、ジプシールの方角を睨んでいる。
周囲にはキングコブラの頭を持つ蛇人やスケルトン達が武器を持ち、ピラミッドを守っている。
また、上空には
そのブラックピラミッドの中を1つの影が歩く。
死の司祭カーネフ
影はそう呼ばれる者だ。
元は人間であり、ジプシールの地にある国のファラオであった。
彼はファラオであると同時に優秀な死霊魔術師でもあった。
しかし、死霊魔術を極めたいと思ったカーネフは死の神ザルキシスを崇拝する事で願いをかなえようとした。
その願いはザルキシスに届き、カーネフは死の眷属となったのである。
死の眷属となったカーネフは体から瘴気を発するようになり、肉体は削げ落ち、
ジプシールの魔術師でもあったカーネフはその知識を使い、ピラミッドの強奪を手伝った。
その功績により、カーネフは小神と呼べるほどの力を与えられ、ブラックピラミッドの管理者となった。
カーネフはブラックピラミッドの中心である
瞑想している者こそが、カーネフが崇める神、ザルキシスであった。
「我が主。どうやら、姫様が戻って来たようです。いかがいたしましょう?」
「ザファラーダが? 良いだろう通せ」
ザルキシスはカーネフに命じる。
許可がない限り誰も通さない。
それは、鮮血の姫であっても変わらない。
カーネフはそれを律儀に守っている。
しばらく、すると紅い衣を来た女が入って来る。
鮮血の姫ザファラーダである。
「ただいま。戻りました御父様」
戻って来たザファラーダはザルキシスの目の前で平伏する。
その後ろには配下である7名の
いずれも元人間の男達だ。
「戻ったかザファラーダ。その様子を見るとイシュティアを捕えそこなったようだな」
ザルキシスはザファラーダの様子からイシュティアを捕らえそこなった事を知る。
イシュティアが支配するイシュス王国には蛇の女王を崇める者達が潜んでいて、常にアポフィスへと情報を送っている。
イシュティアがジプシールに来たことを知ったザファラーダは捕らえるために向かった。
しかし、攫う事ができなかったようであった。
ザファラーダはザルキシスの百を超える子等の中で一番強い力を持つ。
特技として、敵の感知能力を阻害する事ができる。
つまり、奇襲を成功させやすいと言う事だ。
しかし、失敗した。
しかも蛇の王子ダハークも加勢していたのにである。
いかに
「申し訳ございません。御父様。実は
「何? 光の勇者? レーナの飼っているあの光の勇者か?」
ザルキシスは自身の12の目を開きザファラーダを見る。
光の勇者と呼ばれるレイジはエリオスの女神レーナの子飼いの勇者で、その力は神と互角だと噂されていた。
「はい、あのいけ好かない糞女神レーナの勇者です。御父様。自分の方が少し美しいからと言って、他者を見下すあの女神でございます……。ふふふふふ」
ザファラーダは笑って言う。
しかし、その目は笑っていない。
「しかも!! あんな美しい男を飼っているなんて妬ましい!! キー!!!!! 何でお前達は光の勇者より美しくないの!!! こうしてやる!!! こうしてやる!!」
ザファラーダはそう言うと、後ろにいる3名の
綺麗な顔から皮がはぎ取られ、その下の肉がむき出しになる。
もっとも、再生能力が高い吸血鬼なのですぐに元に戻るだろう。
「姫様。それぐらいで、おやめ下さい。主の前でございます」
その吸血鬼騎士は他の6名と違い巨体であった。
灰色の髪に青ざめた顔をして、巨大な黒い甲冑と黒い外套がさらに男の体を大きく見せている。
名はベイグ。
ベイグもまた人間だった者であり、鮮血の姫ザファラーダを崇め吸血鬼となった。
そして、ザファラーダを守る
「ハアハア…。あら申し訳ございません。御父様」
3名の
ザファラーダは強いがザンドと同じく性格に難がある。
我が娘ながら面倒臭いとザルキシスは思う。
「良い。しかし光の勇者が来ているとはな。ディアドナの崇める者共からそんな報告は受けてはおらぬぞ」
「しょせんは下等な者共。情報に漏れがあったようです」
「そうか……。しかし、なぜ奴らがここへ? まさか、このブラックピラミッドを取り戻すためにイシュティアが連れて来たのか!!」
そう言うとザルキシスの目が赤く光る。
ピラミッドは建造中にイシュティアの息子ハルセスから奪ったものだ。
そして、ピラミッドを完成させ、
イシュティアが自身の息子のためにレーナから光の勇者を借りたのかもしれなかった。
「今このピラミッドを返すわけにはいかぬ!!」
ザルキシスは大声を出す。
ヘイボスの設計図を元に作ったブラックピラミッドの能力は凄まじい。
うまく使えば、このザルキシスの本来の力を取り戻してくれるだろう。
忌々しいエリオスの者とはいえ、ヘイボスはまさに天才であった。
奴隷としてなら生かしても良いとザルキシスは思う。
最初ザルキシスはこのピラミッドに興味はなかった。
しかし、カーネフからピラミッドの事を聞き、興味を持った。
そして、蛇の女王から助力をへて、ダハークと共にピラミッドを奪ったのである。
強力な魔道装置であるピラミッドを使えば、ザルキシスの肉体を再生する事ができる可能性があった。
だからこそ、返すわけにはいかないのである。
「どうなさいますか? 御父様?」
「ザファラーダよ。ディアドナに連絡を取れ。念の為に援軍を送ってもらうのだ」
「はい御父様」
ザファラーダはベイグ達を連れて退室する。
「カーネフよ。儀式を早める。贄を連れて来るのだ」
「我が主よ。儀式の準備はまだ整っていません」
「構わぬ。もし、このブラックピラミッドを失えば、もはや、力を取り戻す事は出来ぬだろう。不完全であっても儀式を進める」
「わかりました。我が主」
そう言うとカーネフは頭を下げ退室する。
別室にはザファラーダと
その多くはジプシールから攫った者達で、中には高位の生命体であるスフィンクスもいる。
魔力の源である
本来なら少々の贄では肉体の崩壊を遅らせる事しかできないが、強力な魔道装置であるブラックピラミッドで極限まで増幅させて、再生する。
「そして、いよいよ、これを使う時が来たか……」
法衣から一つの書物を取り出す。
死者の書。
古竜に天使の皮を紙にして、その血で神聖文字を綴った強力な魔道書。
数百年の時をかけて完成させた、世界に二つとない宝具である。
書物を開くと血で書かれた神聖文字が赤く光る。
「死者の書よ!!贄共の
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
いつものより短いです。
もう少しエジプト風味を入れたいのですが、うまくいかないです。
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