第20話 迷宮都市ラヴュリュントス6 戻れない?

「うそ、レイジ君達の気配が途絶えている……」


 迷宮の中、レイジ達を追いかけているシロネは足を止め、辺りを見渡して気配を探りなおした。

 シロネはナオ程ではないが、感知能力がある。

 しかし、その気配が途切れてしまった。 

 これでは後を追うのは難しい。


「確かにおかしいですね。もしかすると迷宮が変化して道が変わったのかもしれません」


 珍しくカヤが焦った表情をする。


「どうしよう。このままだと迷子になるだけだよ」

「確かにそうですね……。シロネ様。申し訳ございませんが、一度戻った方が良いかもしれません」

「そうだね。この様子だとキョウカさんが心配だもの」

「申し訳ございません」


 嫌な予感がしたシロネとカヤは共に頷くと来た道を戻るのだった。

 




「まずいわね。本当に迷宮が変化しているなんて」


 チユキは親指の爪を噛む。

 シロネ達があまりにも遅いので小休止していたが、それでも来なかった。

 ナオが様子を見に戻ろうとしたところで、来た道が変化している事に気付いたのだ。


「嘘!!こんな大掛かりな事が起こったのに気付かなかったなんて」


 リノが驚く。


「でも、ナオちゃんは気付きかけていたような」


 サホコはナオを見る。

 確かに2階へ降りる際、ナオが迷宮が動いている気がすると言っていたことをチユキは思い出す。

 あの時は確信が持てず、そのまま進んでしまった。


「申し訳ないっす……。はっきりと気付かなかったっす」


 ナオは謝る。

 

「いや、ナオのせいじゃない。この感じ……。おそらくロクスの時みたいな仕掛けで、感覚が狂わされているんだ」


 レイジが迷宮の先を見て言う。

 その言葉にチユキは頷く。

 本来のナオは察しが良く、異変があればすぐに気付くはずだ。

 しかし、今回は気付きかけただけで見落すなんて、ナオらしくない。

 だから、迷宮に何らかの魔術的な仕掛けがあると考えるべきだろう。


「なるほど、そう考えると辻褄が合うわね。で? どうするのレイジ君? ロクスの時のように力を奪われてはいないようだけど」

「もちろん先に進む。おそらく、帰してくれなさそうだからな」


 迷宮の主の意志を感じたのだろうか、レイジは不敵に笑う。




 シズフェ達は来た道を戻る。

 前方にはゴーダン達がいる。

 共に撤退中であった。

 迷宮の道はかなり広いので大人数で移動する事ができる。

 通路の壁が淡く光っているので視界にも困らない。

 また、来る時に多くの魔物を倒したためか、新たな魔物にも出会わず、今のところ問題なく戻れている。


「それにしてもすごい人達だったね……」


 マディが歩きながら言う。


「確かにあれはすごいな……。私が精霊と話が出来た時でもあれ程うまく精霊とは仲良くできなかった」


 ノーラは精霊の舞姫リノの事を思い出して言う。


「聖女様もすごいですわね。あれほどの治癒魔法を使えるのですから」

「ナオって娘もすごいな。あの狭い中であれ程の動き出来るなんてよ」


 レイリアとケイナがそれぞれを誉める。


「賢者様の魔法もすごかった。私じゃいくら勉強してもあれだけの魔法は使えないよ」


 続けてマディが賢者チユキを誉めると、勇者達の事を言い合う。


(ノヴィスには悪いけど、あれこそが本当の勇者様よね)


 シズフェは共に戻るノヴィスを見る。

 ノヴィスはどことなく不機嫌だ。

 もしかすると、ノヴィスはレイジ様に対抗意識を持ったのかもしれない。


「ノヴィス、何不機嫌そうな顔をしているの?」

「別に……。不機嫌じゃない」


 その表情を見てため息が出る。

 シズフェはノヴィスを小さい頃から知っているが負けず嫌いだ。

 だけど、対抗意識を持つ事は意味がないとも思う。

 なぜなら、光の勇者レイジは麗しき女神レーナ様に選ばれた存在だ。

 勇者と呼ばれる人は他にもいるけど、女神様に愛された勇者はレイジ様だけである。

 シズフェはノヴィスに同情する。


「もう、あなたじゃレイジ様に敵うわけないじゃない! 対抗したって無駄よ!!」

「なっ!!!」


 シズフェが言うとノヴィスが変な声を上げて睨む。

 その顔を見て思った通り図星だったのだとシズフェは思う。


(やっぱりレイジ様に変な対抗意識を持っていた。大人になりなさいよ)


 シズフェは喉元まで出かかった言葉を飲み込む。


「まあ、そう言うなよシ~ズフェ♪」


 ケイナがシズフェの後ろから抱き着く。


「ケイナ姉?!!」


 シズフェが振り向くとケイナはにやにやと笑っている。


「にししし、ノヴィスはな、光の勇者が最後にシズフェを誘ったのが面白くないんだよ。そうだよなノ~ヴィス」

「ケイナ姉!!!」


 ノヴィスが叫ぶ。


「私がレイジ様に誘われたたのが面白くない……。なんで?」

「そりゃシズフェを取られ……もがもが」


 ノヴィスは慌ててケイナの口を塞ぐ。

 その様子にシズフェは良くわからず首を傾げる。


「良くわからないけど。レイジ様が私を誘ったのは社交辞令だよ。私なんかを本気で相手にするわけないじゃん」


 シズフェはレイジ様から2人きりで飲みに行きたいと言われていたが本気なわけがないと思っている。

 何しろあんなに綺麗な女性達がいるのだから、一緒に飲んでも面白くないはずであった。


「はあ……シズフェにはわかんねえか……。ありゃ本気だった……」


 ノヴィスは首を振りながら言う。


「もう、何わけのわからない事を言っているのよ! そんな事よりもテセシアに戻りましょ!!」


 私はそう言って歩き始める。


(どう考えてもレイジ様が私なんかを誘うとは思えない。そもそも、私がレイジ様に誘われた所でノヴィスに何の関係があるのだろう?)


 シズフェは訳が分からなくなる。

 そのシズフェの後ろから仲間達のため息が聞こえる。


「もう、どうしたのよみんな? 一体何なの? それよりも早く戻りましょう」


 シズフェは少し怒りながら早歩きになる。

 なるべく急いで戻らなければならなかった。

 少し進んだ時だった。

 突然、前を行くゴーダン達が立ち止まる。


「どうしたんだ? 何で止まるんだ?」


 ゴーダン達が突然止まったのでノヴィスは疑問に思う。


「気を付けろ! 何者かが近づいて来る!」


 ゴーダンがそう言った時だった。

 曲がり角から何者かが姿を見せる。

 姿を現したのは人間だ。

 その姿と恰好から同じ自由戦士である事がわかる。

 中には見た顔もいる。

 最後尾に付けられていた者達だ。


「あら、貴方達はお兄様と一緒にいた方達ね。どうしてここにいるのかしら?」


 自由戦士の中心から1人の女性が出てくると近づいて来る。

 シズフェはその人物を知っていた。 

 光の勇者レイジと同じように美しい顔立ちである。

 レイジ様の妹であるキョウカ様であった。


「あ、貴方はキョウカ様!? 実は撤退中なのです。レイジ様がこれ以上付き合うのは危険だと……」

「あら、そうなの? じゃあこの先にお兄様が? でも変ですわね。私達も戻る最中のはずなのに」


 そう言うとキョウカは首を傾げる。

 キョウカと一緒にいた自由戦士達も首を傾げて各々話し合う。

 話を聞いたシズフェは彼らもまた撤退中である事を知る。


「待ってくれ、その話が本当ならおかしいぞ? 最後尾が撤退中なのに、何で俺達と鉢合わせるんだ?」


 横で聞いていたゴーダンが口をはさむ。

 シズフェはその言葉に頷く。

 確かにおかしかった。 

 

「そういえば、シロネさん達とは出会いませんでしたの? お兄様の所に向かったはずですわ」

「えっ? シロネ様? 戻る途中では出会いませんでしたが?」


 シズフェがそう言うとキョウカ様は驚いた顔をする。


「どういう事ですの?」


 キョウカは答えを求めるように周りの者を見るが、答えられる者はいなかった。


「取り合えず、こっちの道に行ってみようぜ」


 ケイナがキョウカ達が来た方向とは違う道を示す。

 その言葉にシズフェ達は頷くと、共に先に進む。

 

「まずいな、行き止まりだ」


 自由戦士の誰かが呟く。

 確かに行き止まりであった。

 ノーラや他の野伏が調べるが隠し通路などはない。

 

「仕方がありませんわね。戻りますわよ」


 キョウカがそう言って振り向いた時だった。 


「待ってくれ! 何者かが近付いて来る!」

 

 野伏の1人が声を出す。

 シズフェ達が来た方向から何者かが姿を現す。

 姿を現したのは2体の人間よりも巨大な影、牛頭人身の魔物ミノタウロスである。

 2体のミノタウロスは立派な鎧を身に付け、巨大な戦斧を持っている。


「ふふムネスキ兄さん。おっぱいの大きな可愛い女の子がいるよ」

「そうだなチチスキ。他の兄弟に黙って抜け駆けした甲斐があったというものよ」


 2体のミノタウロスはキョウカを見て舌なめずりする。


「ミノタウロスだと? まさかこんな時に。野郎共武器を構えろ!」


 ゴーダンが言うと自由戦士達は武器を構える。


「男はいらない。欲しいの女の子だけ。こっちの綺麗な子と、後そっちの子が欲しいな」


 チチスキと呼ばれたミノタウロスはキョウカとシズフェを指さす。

 気持ち悪い目で見られたシズフェは背筋にぞわっとした悪寒が走る。


「我らは偉大なる雷光の主ラヴュリュスが子であるムネスキ・チチスキ兄弟! 可愛い娘よ我らの相手をしてもらうぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る