第10話 晩餐の後で
「首尾はどうだ、アトラナクアよ」
闇の中、ザルキシスは横にいる者に話しかける。
そこにいるのは1人の女性である。姿だけなら普通の人間だ。
その姿は絶世とまではいかないが美しく、人間の男の1人や2人なら虜にする事ができるだろう。
彼女は人間の振りをしてこのミノン平野に潜伏している。
人間の時はアトラナと呼ばれる彼女は先程まで勇者レイジ達と食事を共にしていた。
そして、誰も怪しむ事のない夜明け頃に抜け出してザルキシスの元まで来たのである。
「はい、今頃光の勇者達は寝ている頃にございます。計画は順調です」
「そうか、お主の正体は気付かれておらぬだろうな」
「顔を会わせましたが、どうやら私の正体に気付いてはいないようです」
「ククク、そうかそうか、お主の本当の姿を見たら勇者も驚くであろうな」
「嫌です、ザルキシス。この姿もまた私の真実の姿。あのナオとかいう小娘も私にもう1つの姿が有る事に気付かないようでした」
アトラナクアの言葉に少しだけ怒りが含まれているのをザルキシスは感じる。
もう1つの姿の事を言われるのが嫌なのだろう。
アトラナクアは人狼のように人間の姿とは別にもう1つの姿を持っている。自身すらも嫌うその姿を見れば、男共はそのおぞましさに我に帰るだろう。
アトラナクアはこのザルキシスに従属する女神である。
死の運命を与える彼女は生命のある者を絡めとる。
そして、アトラナクアは潜む事に特化した能力を持っている。いかに感知能力に優れた者でも神族とは気付かないだろう。
「確かにそうだな、すまないな……アトラナクアよ」
「いえ、気にしておりませんわ。あのいけすかないレーナの大事な者を奪えるのですもの。つまらない事など気にしませんとも」
その口調から絶対に気にしているのを感じる。それだけアトラナクアはもう1つの姿が嫌いなのだろう。
そして彼女はレーナを嫌っている。おそらくあの美しさに嫉妬しているのだろう。
「そうか……。ならば進めようかのう」
「ふふ、レーナの勇者達をこの地におびき寄せる事には成功しました。後は迷宮に誘わなければなりません」
アトラナクアの言葉に頷く。
まずはこの地域で大きな騒ぎを起こして光の勇者をおびき寄せる。その事には成功した。
次はラヴュリュスの迷宮におびき寄せなければならない。
「そこでエウリアの出番というわけか、アトラナクアよ」
「はい、ザルキシス。あの勇者をおびき寄せるには女の涙が必要です。あの娘には頑張ってもらいましょう。光の勇者もエウリアの正体には気付いていません。まあ、実際に下等な人間。含まれている血にまで気付かないでしょう」
「なるほど、それならうまくいきそうだ」
「はいザルキシス。勇者達を見事に釣り上げて見せましょう」
そう言ってアトラナクアは笑う。
そして釣られてザルキシスも笑う。
「くくく、レーナの勇者よ。食いついて来るがよいぞ」
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