第24話 闇を払う者と光を照らす者1

 気配からクロキはチユキ達が逃げた事を感じ取る。

 目の前の仮面の者は困惑した様子で、何もせずにクロキを見ている。


「何者だ! 貴様!!」

「ええと、それはこちらのセリフだと言いたいのだけど……」


 クロキも困惑して答える。


(そっちこそ何者だ? レイジの仲間達に勝つぐらいだから、神族並みの力を持っている事は間違いない。だけど、エリオスの神とも思えないし、モデスの知り合いとも思えないな)


 もしそうなら、モデスから何か一言があっても良いはずだとクロキは思う。


「何故、この領域の中で動ける! 力を奪われるはずだ!!」

「そんな事を言われても……」


 クロキは黒い霧を生み出した闇の魔力をたどって来てみると扉があり、中に入るとレイジの仲間の女の子達が捕らわれていた。

 そして、思わず2人を助けてしまったのである。

 

(おそらくこの怪しい奴が、この黒い霧を生み出した張本人なのだろう)


 そう考えるクロキも顔を隠しているので、他者が見たら怪しい者だろう。

 しかし、目の前の不気味な仮面を被った者はさらに怪しいはずであった。


「勇者の仲間に貴様のような奴はいなかったはずだ! 答えろ! 何者だ貴様!?」


 その言葉からクロキはモデスとは関係の無い者だと判断する。


「別にレイジの仲間になった覚えは無いし、なるつもりも無いよ」


 むしろレイジの仲間扱いをされた事でクロキは気分が悪くなる。


(まあレイジの仲間を助けたので、そう思われても仕方がないだろうけどね。しかし、この仮面の男ははこの国に災厄をもたらそうとしている。何者かはわからないが止めさせてもらおう)


 クロキは武装を魔法で呼び出す。それまで着ていた服が消え暗黒騎士の姿になる。


「暗黒騎士だと!!」

「何故だ! 何故あの裏切り者の手下がここにいる!」


 クロキが暗黒騎士の姿になった事で仮面の者が驚きの声を出す。


「裏切り者? 何の事だ?」

「ふん知らぬとは言わせぬ! 偉大なる母の最愛の息子でありながら 裏切ったモデスの事に決まっているであろう!!」


 仮面の者は吐き捨てるように言う。

 クロキはその言葉に衝撃を受ける。


(モデスが裏切り者? まったく聞いていない話だ)


 ナルゴルに帰ったらモデスに聞いてみようとクロキは思う。


「それに何故、暗黒騎士が勇者の女を助ける? お前達にとっても敵であるはずだ」

「助けたわけではない。あなたはモデスの敵なのだろう、それなら自分の敵でもある。敵の邪魔をするのに理由がいらないでしょう?」


 実際はこの国を助けるためなのだが、クロキはそういう事にしておく。


「ふん、そう言う事か。どうやって嗅ぎつけたのかは知らぬが、邪魔をするなら死んでもらおう!!」


 仮面の者がクロキに対して身構える。

 本当は偶然である。しかし、ここまで重なるとクロキはこの事が必然のような気がしていた。

 

「たかが暗黒騎士風情が破壊神ナルゴル様の片腕である、このザルキシスを止められると思うな!!」


 その言葉はクロキが初めて聞くフレーズだった。

 もちろんザルキシスという名に聞き覚えは無い。


「死者の魂を凍らせる深淵の牢獄よ我が呼び声に応えよ!!」


 ザルキシスの言葉に部屋の温度が急激に下がる。

 ザルキシスが使おうとしている魔法はクロキは知っていた。

 この世界には神々ですら恐れる深淵があり、行くあてのない死んだ者の魂はその深淵に捕らわれる。いわゆるこの世界における死後の世界。

 そしてその深淵の奥底には死者の魂を捕える氷の牢獄。

 ザルキシスはその冥界の氷獄を呼ぼうとしているのだ。

 それはクロキがルーガスから教えてもらった最上級の氷結魔法だ。


(だけどその魔法では自分を倒す事はできない)

 

 クロキは体から黒い炎を呼び出す。


「全てを焼き尽くす暗黒の炎よ我が盾となれ!!」


 クロキが叫ぶと黒炎が障壁となって現れる。

 ザルキシスが放った冥界の氷獄と黒炎の障壁がぶつかり互いを打ち消し合い消える。


「黒い炎。まさかランフェルド……、いや違う。そうか、貴様が噂の暗黒騎士だな」


 ザルキシスと名乗った者の言葉にクロキは驚く。


(えっ? 噂になってたの!? 噂になるのは好きではないのだけど)


 クロキは頬をぽりぽりと掻く。

 人間達の間にも暗黒騎士の噂が広がっている。その噂の多くは良くないものばかりだった。

 それにクロキは元々目立つのは好きではない。

 噂になるのは嫌であった。


「勇者を倒す程の実力者である貴様がここにいるとはな……オルアも運が無い」


 ザルキシスがため息を吐く。

 クロキは魔剣を呼ぶと、ザルキシスに向ける。


「これで終わりですかザルキシスさん? なら黒い霧を消して欲しい、あといろいろと聞きたい事がある。教えてくれませんか?」


 一応クロキは聞く。

 もっとも、答えるはずがなかった。


「何を言っている? まだ終わらん! 我が最強のアンデッドよ!!」


 ザルキシスが後ろに下がると。何か巨大な物体が出て来る。


「これは……ドラゴン?」


 出てきたのはドラゴン。大きさならグロリアスに匹敵ぐらいである。

 だが普通のドラゴンではない。骨などがむき出しになっている。


「この部屋を守るために配置しておいた火竜の肉体を使ったドラゴンゾンビだ。貴様には敵わないだろうが火炎耐性もあり簡単には倒す事はできまい。その間に勇者もこの国も滅ぼしてやろう」


 クロキはゾンビとなった竜を見る。


「元はグロリアスと同じ竜だったんだよな……」


 クロキはグロリアスを大事に思っている。

 その竜が死してなお、安らかに眠ることさえ許される事なく使役される。

 クロキは目の前の竜に同情する。


「行けドラゴンゾンビ! 暗黒騎士を足止めしろ!!」


 ザルキシスの命令によりドラゴンゾンビが体当たりをしてくる。

 クロキはその攻撃を体で受け止める。

 吹き飛ばされこそしないが体に衝撃が走る。


「ぐっ!!」


 衝撃により、クロキは思わず声を出す。


「良いぞ! そのまま暗黒騎士を抑えておけ!!」


 ザルキシスの笑い声。

 クロキはその笑い声に構わず、竜の頭を抱き抑えると目を閉じて意識を集中させる。

 竜の意識の中でクロキは何か黒い糸のような物を発見すると、糸に魔力を送り込み断ち切る。


「誇り高き竜よ。死してなお縛る糸は断ち切った。安らかに眠れ……」


 クロキがそう言うとゾンビとなった竜が大人しくなる。


「馬鹿な! ドラゴンゾンビを手懐けただと!!」


 竜にクロキを押さえ付けそのまま部屋を出ようとしたザルキシスが驚愕の声を出す。

 死んだ竜が咆哮を上げる。

 すると死んだ竜の魂がクロキの中に入り込む。


「そうか……自分と一緒にいたいのか」


 もちろん一緒にいたいのならクロキに拒む理由はない。

 竜の肉体が消滅していく。


「くっ!なんなのだ貴様は!? このような者はエリオスの神にもいなかったぞ!!」


 ザルキシスの怒声。


「ええい! やめだ! 撤退させてもらおう!!」


 ザルキシスの体がぼやける。


「逃がすか! 火炎縛ファイアバインド!」


 クロキは中に入った火竜の力を使い、炎の縄で捕えようとする。

 しかし、一歩遅く届く前にザルキシスは消えてしまう。


「転移封鎖の魔法を使っておけば良かったな……」


 後悔する。


(色々と聞きたい事があったのだけど、こうなったらナルゴルに戻ってモデスに聞くしかないか……。それよりも。今は黒い霧を消す方法を探そう)


 クロキはザルキシスが何か残してないか探す。

 するとどこからか強い魔力の流れを感じる。魔力を感じる方へと行って見ると赤く光る巨大な魔法陣を発見する。

 魔法陣は中心から放射状の線とそれを繋ぐ線で描かれており、まるで蜘蛛の巣を連想させた。

 そして、その魔法陣からは黒い霧のような物が吹き出している。


「おそらくこれが黒い霧を呼び出しているんだろうな……」


 クロキは魔剣を構え魔法陣を斬り裂く。

 すると紅い光が消えそれまで感じていた魔力が消える。


「これで黒い霧は消えると良いのだけど」


 クロキは地上の様子を気に掛けるのだった。

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