第15話 勇者の妹との遭遇(イラストへのリンクあり)

 外街には雑多な建物が多く、地面は舗装されていない。また人の数も多いので、思うように行動できない。

 それでも兵士達を何とか動かして、目的となる建物を包囲する。

 神殿騎士団第三部隊隊長であるルクルスは、団長であるボーウェンから今回の作戦の指揮を任されている。

 ルクルスの背後では外街に住む者達が好奇の目で成り行きを見ている。


「何でこんな事をしなければいけないですかね。ルクルス隊長。外街の奴らがどうなろうが知らないですよ。まあ、可愛い女の子は別ですが」


 部下の言葉に神殿騎士ルクルスは頭が痛くなる。


「文句を言うな、ヒュロス。もしかするとマンティコアがいるかもしれないのだ。市民に被害が出たらどうする?」


 神殿騎士ヒュロスはルクルスより八歳下の十九歳。昨年叙任を受けたばかりである。

 ボーウェン騎士団長の甥であり、貴族の出身である。

 その出自の良さもさることながら、剣の才能も、魔法の素質も持っている。

 平民の生まれであり、魔法の才能がないルクルスとしては羨ましいかぎりである。

 ただ、そのヒュロスは非常に素行が悪く、任務を投げ出して、遊びに行ったりする事など珍しくない。才能がなくボーウェン騎士団長の甥でなければ、とっくの昔に騎士団を追い出されている。

 ルクルスはボーウェンのおかげで騎士になる事ができた。

 その恩義があるからこそ、ヒュロスの面倒を見ているのである。


「それにしても、人が多いですね。あの建物にマンティコアがいるのですか?」

「そうだヒュロス。あれ戦士団黒の牙の本拠地だ。そして、調査からマンティコアがいる事が確実だと思われる」

「なるほど、それにしては少し大げさすぎませんか?」


 ヒュロスは周囲を見て言う。

 周囲には神殿騎士だけでなく、重装歩兵に弓兵、それに魔術師もいる。

 しかし、ルクルスはこれだけの兵力でも足りないと見ている。

 三年前、ルクルスもマンティコア討伐に加わった。その時に多くの騎士が犠牲になったのである。


「ヒュロス。お前はマンティコアと戦っていないからわからないかもしれないが、これでも足りないぐらいだ。甘く見るな」


 ルクルスはマンティコアが潜んでいる建物を睨む。


「ところで、隊長。あの女の子達は一体何です? あの子達もマンティコアと戦うのですか?」


 ヒュロスが見ている先に武装した女性が集まっている。

 それは、この包囲している部隊の中で異質であった。

 中には侍女の格好をしている者や、日傘を持っている者もいる。

 まるで、見物に来ているようであった。


「あれは勇者レイジ様の妹君の部隊だ。絶対に変な考えを起こすなよ」


 ルクルスはヒュロスが女遊びをしているのを知っている。

 しかし、相手が悪い。

 光の勇者レイジは女神に愛された者である。

 数多の凶悪な魔物を退治して、多くの人々を救っている。

 ただし、英雄色を好むと言うが、多くの女性を側に侍(はべ)らせている。

 その女性達に手を出せば怖ろしい仕置きが待っているだろう。

 それは妹君であっても変わらない。 

 そして、勇者の妹には問題がある事をルクルスは知っていた。


「へえ、あの美人で有名な勇者様の妹君ですか、それは頑張り甲斐がありますね」


 ヒュロスの言葉にルクルスは頭が痛くなる。


「お前はこの辺りを爆裂魔法で更地にしたいのか?」

「えっ? どういう意味です?」


 ヒュロスが首を傾げる。


「以前に妹君にちょっかいかけた馬鹿がいてな……。怒った姫君が魔法を使おうとして暴発させた事があるんだ。おかげで表通りに被害が出た。だから、絶対に手を出すな。これは命令だ! それから、いつでも突入する準備をしておけ!」


 そう言ってルクルスは建物を見る。

 建物にいるはずの黒の牙達に変化はない。


「何だか静かすぎませんか? 隊長? 中に誰もいないような感じがしますが」


 ヒュロスの言う通りであった。


「確かに静かすぎる。もしや気付かれた? 見張りはどうなっている?」


 ルクルス達は、昨日の時点で建物には見張りを付けていた。

 その見張りの報告では黒の牙の団長と幹部は、この建物から出ていないはずである。


「まずいですね。隊長。出し抜かれたのかもしれません」

「わかっている。誰か中の様子を見て来い!」


 ルクルスの命令で十名の兵士達が中に突入する。

 そして、しばらくして戻ってくる。


「大変です! 中に人気をほとんど感じません!」


 その報告にルクルスは慌てる。


「くそ! やられた! 全員突入だ!」


 ◆


 黒の牙の本拠地を大勢の兵士が取り囲んでいる。

 クロキはその様子を野次馬に混じって外から眺める。

 時刻は昼だ。

 この世界では基本的に夜は兵を動かさない。

 なぜなら、魔物の多くは夜行性であり、夜の闇は人間に味方する事はないからだ。

 黒の牙の団員達は人間だけど、兵を指揮する騎士達の考えは変わらないらしい。


「ドズミ達は無事にこの国から出たかな?」


 クロキはドズミの事を考える。

 ドズミとは短い間であったが、交流があった。彼女もできて幸せそうにしていた。

 できれば無事でいて欲しいとクロキは思う。

 その彼は既に聖レナリア共和国を出て、彼女と共に故郷に帰っているはずであった。


「うーん? 人間ヤーフの事なんかわからないでヤンス。でも逃げる時間はあったはずでヤンスよ」


 ナットの言葉にクロキは頷く。


(時間はあった。ドズミはうまく逃げたかな?)


 クロキはドズミとの別れを思い出す。ドズミはなぜか泣いていた。

 レネアとの結婚を祝してかなりの宝石を渡しておいたので、すぐに困る事はないだろう。

 他の団員達にはゲンドルが溜めこんだ金を分配したので、大丈夫だと思うことにする。

 彼らには今度は真っ当な人生を送ってもらいたい。

 それにしてもナットに神殿の様子を探らせていたおかげで、先手を打つことができた。

 この建物を見張っていた者もナットのおかげで特定できた。

 だから、クロキは魔法を使い見張りの目をごまかし、黒の牙の団員達を脱出させたのである。

 今あの建物にいるのは団長だったゲンドルのみだ。

 理由はゲンドルを連れて逃げるのは難しい事と、ゲンドルの治療をしてもらえるのではないかという期待からである。

 結局ゲンドルは元に戻らなかった。しかし、神殿の治療院なら元に戻せる可能性もある。

 だから、彼を回収してもらいたいとクロキは思っている。

 クロキは包囲をしている者達を見る。彼らの事は調査済みである。

 もっとも良い武装をしているのは神殿騎士達だ。

 白鳥の騎士とも呼ばれる彼らは白いフルプレートの鎧を着ている。このフルプレートはドワーフが作った物だ。ドワーフの技術により、軽く丈夫に作られている。

 武装は馬の上からでも攻撃が下に届くようにと、柄の長い長剣ロングソードを装備している。

 盾は馬に乗った時に足まで守れるようにと、長細い凧のような形をした騎士盾ナイトシールドを持ち、その盾には女神の聖鳥である白鳥の絵が、青地に描かれている。

 兜にも白鳥の翼を模した飾りを左右に付けていて、優美である。

 これらの装備は全て支給されたものだとクロキは聞いている。

 普通、騎士の装備は自前のはずであった。

 騎士になるのは裕福な王や貴族の子弟であり、国が支給しなくても用意できるからである。

 その騎士の前には巨大な盾と槍を持った兵士達がいる。

 聖レナリア共和国が誇る、重装歩兵達だ。

 四角の大盾を持ち、個の強さよりも集団で戦う訓練をしている。

 盾を持ち密集して壁を作り、敵の攻撃を防ぐ。

 武装は長槍で、密集して使うと針鼠のようになる。

 過去にケンタウロスの部族と戦争になった時には重装歩兵は活躍したらしい。

 その後ろには弓を持った軽装の兵士達が配置されている。重装歩兵の後ろから弓を射ち、援護するのが目的だ。

 魔術師らしき者の姿も、ちらほらと見える。

 魔物の中には魔法を使うものもいる。そんな時は彼らの知識と魔法が役に立つだろう。


(かなりの兵力だなあ……。少し大げさすぎないだろうか?)


 クロキは包囲している者達を眺めながら歩く。


「うん? 何だ、あれ?」


 クロキは思わず呟く。

 包囲している者達で明らかに異質な者達を見付けたからだ。

 華やかな女の子達が集団でいるのだ。

 その装いから外街に住む者ではないのがわかる。

 彼女達は上等な衣服を身に付けていた。

 戦士のような格好の女の子もいれば、侍女の姿をした女の子もいる。 

 その雑多な集団は包囲をしている者達の中で浮いていた。

 クロキはその女の子達の中心を見る。


(何だ? かなり綺麗な子だぞ? どうしてここにいるんだ?)


 中心にいた女の子はかなり綺麗な子だった。

 そして、クロキはどこかで見た事がある気がした。

 その女の子はいかにも育ちが良さそうなお嬢様のようであり、髪は明るく、気が強そうなのが印象的だ。

 着ている服も装飾品も周りの女の子よりも遥かに上等な物のようである。

 そのお嬢様がこの女の子の中心のようであった。


(何者だろう?)


 クロキは女の子を見て疑問に思う。


「クロキ様。あれは爆裂姫でヤンスよ」


 ナットがお嬢様を見て言う。


「爆裂姫!? 何それ!?」


 クロキは何じゃそりゃと思いナットを見る。


(爆裂姫なんてあまりにも変なネーミングだ)


 クロキが疑問に思うとナットが説明する。


「なんでも、爆裂魔法で、色々なものを壊すそうでヤンス」

「はあ……」


 ナットの説明にクロキは間抜けな声を出す。


「それから、確か勇者の妹だったはずでヤンスよ、クロキ様」

「えっ?」


 ナットの言葉にクロキは驚く。


(勇者の妹だって!? だとすれば彼女はレイジの妹と言う事になる)


 クロキはレイジに妹がいた事に驚くと同時に、召喚された者が魔王城に来た者だけではない事にも驚く。

 クロキの時は一人ぼっちだった。その事に理不尽さを感じる。


(ちょっと不満だけど、これはある意味チャンスだよな)


 クロキはレイジの妹に何とか近づけないだろうかと思う。

 そもそもクロキは勇者達の様子を見に来たのだ。機会を逃すべきではない。

 クロキは耳をすませる。


(あれ? 何も聞こえない)


 クロキはこの世界では超人になっている。耳をすませればある程度遠くの声も聴くことができる。

 だけど女の子達の会話はまったく聴こえない。


(もっと近づいた方が良いかも)


 クロキはそう思ったが、包囲をしている者達が多くて近づけない。


「あっ! どうやら、突入するみたいでヤンス!」


 肩に乗っているナットが神殿騎士達の様子を見て言う。

 彼らは数名を先行させた後、一気に突入するみたいだ。


「突入だ!」


 この包囲している者達の指揮官らしき者が叫ぶと、重装歩兵が、次に神殿騎士が中へと突入する。

 レイジの妹の周りにいる女の子も何人かが突入する。

 そのため、レイジの妹の周りが少なくなる。


(これはチャンスかもしれない)


 クロキは彼女達に近づく事を決める。

 だけど、ゲンドルの事も気になった。


「ナット。君は突入した者達の様子を見に行ってくれないか?」

「はい。わかったでヤンス」


 ナットはクロキの肩から降りると、突入した者達の方へと行く。


(さて近づくか)


 クロキは外套のフードを深く被ると、精神を集中して隠形の魔法を発動させる。

 そして、そろりそろりと近づく。

 レイジの妹は隣にいる侍女と話をしている。

 侍女は背が小さく、髪を団子状に後ろに高く結んでいる。ただ顔が能面のように表情がない。

 勇者の妹は表情豊かに話しているのに対して、侍女は必要最小限しか口を動かさない。

 傍目から見ると人形に一方的に話しかけているように見えるだろう。

 ある程度まで近づくと突然声が聞こえるようになる。


「どうやら、突入を開始したようです、お嬢様」

「そうね、カヤ。待ちくたびれちゃったわ」


 勇者の妹があくびをする。


「それにしてもおかしいですね。戦っている感じがしません。中に誰もいないのかもしれません」


 カヤと呼ばれた女性が首を傾げる。


「あら、つまり逃げられたという事かしら?」

「どうやら、そのようです。お嬢様。こちらの動きが読まれていたようです」

「そうなの? それはつまらないわね。マンなんとかという魔獣もいないのかしら?」

「マンティコアです、お嬢様。その魔獣がいるかどうかはわかりません。もし、姿を見せた時はここからなるべく動かないでください。この辺り一帯の空間を魔法で防御します。今も少しは魔法が……」


 突然カヤという侍女が途中で言うのをやめる。


「どうしたのです、カヤ?」


 レイジの妹は自らの従者の様子に首を傾げる。


「いえ、何でもありません。それからお嬢様。少し移動してもらう事になりますが、よろしいですか?」

「ええ、別に構わなくってよ。本当にどうしたの、カヤ?」

「ネズミが一匹迷い込んだようです。あなた達はお嬢様を守るのですよ」


 カヤという侍女が護衛であろう女の子達に命令する。

 その時だった。

 クロキは咄嗟(とっさ)に身をかがめる。

 それまで、クロキの顔の、それも顎があったところを何かが高速で通りすぎる。


(回し蹴り!?)


 突然カヤという侍女がジャンプし、クロキのところまで飛ぶと、回し蹴りをはなったのだ。

 それも、後ろを向いていたにもかかわらず、正確に顎のところをだ。

 クロキの反応があと少し遅れていたら確実に当たっていただろう。

 そして、顎に当たっていたらクロキは昏倒していたかもしれない。


(見破られた!)


 クロキの隠形の魔法は間違いなく発動していた。

 現に、このカヤという侍女以外は気付いていなかったみたいである。

 しかし、このカヤという女性はあっさりとクロキの魔法を見破った。

 クロキはその事に驚く。

 回し蹴りを放ったカヤはそのまま体をひねり、身を屈めているクロキにかかとを落す。


(黒のレース!)


 クロキの動体視力は確実にカヤのスカートの中を捉える。

 いつもなら、もっと眺めたいと思うところだが、今はそれどころではない。

 クロキは転げるように横に逃げ、踵をさける。

 踵の落ちたところの地面が砕け散り、土が周囲に飛ぶ。


「私の攻撃を避けるとは! 何者ですか!?」


 カヤが叫ぶ。しかし、クロキには答える余裕がない。カヤから離れるべく後ろに飛ぶ。

 踵落としを避けられたカヤは、すぐに追撃をしかけてくる。


「地衝列波!」


 カヤが自らの拳を地面に叩き付ける。

 すると、衝撃波が地面を伝わりクロキを襲う。


「ちょ! 待っ!」


 後ろには人がいる。クロキは同じように拳を地面に叩きつけて衝撃波を殺す。


「隙あり!」


 カヤが一気に間合いを詰める。素早く動いているのに体の軸がぶれていない。

 見事な動きだとクロキは思う。


「鋼貫崩拳!」


 カヤが拳を突き出してくる。


(なんの!)


 クロキは身体をほんの少しだけ後ろに反らす。

 そのほんのわずかの間合いのずれをカヤは修正しようとして体勢を崩してしまう。


(今だ!)


 とっさにクロキはカヤの手を取り投げ飛ばしてしまう。


(やばい! とっさに投げてしまった!)


 クロキが使った投げ技は頭から落すものである。

 このままだとカヤの頭は地面に叩き付けられるだろう。

 クロキは慌ててカヤの背中に手を添えてお尻から落ちるようにする。


「うっ!」


 カヤの呻き声。

 いくら、お尻とはいえ痛いだろう。


「すっ、すみません!」


 クロキは思わず謝ってしまう。


「カヤに何て事を!」


 クロキが顔を上げるとレイジの妹がこちらに向かって来るのが見える。

 カヤと違い、その動きは素人である。

 また、レイジの妹は長いスカートのためか走り難そうであった。

 クロキがそう思ったときだった、レイジの妹は右足を左足にひっかけてしまい。そのまま倒れてしまいそうになる。

 このまま倒れれば顔を地面にぶつけてしまうだろう。


「あぶないっ!」


 おもわずクロキは彼女の体を受け止める。

 ふにっ。

 クロキの手にやわらかい感触。


「何をするんですの!」


 何とクロキは受け止める時に胸を鷲掴みにしてしまっていた。


「このヘンタイ!」


 レイジの妹が叫ぶと、その体から強力な魔力が放出される。


(これはもしかして爆裂魔法!? ちょっと! まずい! こんなところで!)


 クロキは急いで魔力を両手に集めると、発動した魔法を掴み放り投げる

 そのとき、フードが少しずれてしまう。


「えっ?」


 レイジの妹の驚く顔。彼女とクロキの目があってしまう。

 その時だった。轟音が鳴り響く。

 振り向くと黒の牙の最上階がなく、その場から煙が上がっている。


「しまった!」


 クロキは思わず叫んでしまう。

 咄嗟に投げてしまったので、外街の外まで届かなかったようだ。

 あのままだと建物は燃えてなくなってしまう。


(ナット無事でいてくれ!)


 クロキはフードを直すと、急いで建物へと走る。

 建物から突入していた者達がわらわらと脱出している。

 クロキはその者達を躱しながら建物へと近づく。


「クロキ様~!」


 ナットの声。

 脱出する者達に混じって走って来るのが見える。


(さすがナット! 逃げ足が速い!)


 火ネズミは危険察知能力が高いのだろう、異変に気付いてすぐに逃げ出したようであった。

 クロキはナットを回収すると急いでその場から離れる。

 背中から建物が崩れる音がする。


(急いでここから離れないと!)


 横目で見る限り、クロキを追いかける者達はいない。

 おそらく建物に入っている者達を助けるのに忙しいのだろう。

 クロキは路地裏へと逃げ込む。そして、クロキは振り向くと誰もいない事を確認する。

 そこで一息つくと、ナットを見る。

 特に怪我をしていないようだ。


「大丈夫かい? ナット?」

「何とか大丈夫でヤンス。クロキ様こそ大丈夫でヤンスか? 何かあったのでヤンス?」


 建物に入っていたナットには、何が起こったのかわからないようだ。


「ははは……。自分は大丈夫だよ。でも失敗だった」


 クロキは力なく笑う。レイジの妹に近づいたのは失敗だった。

 これで、レイジ達に存在が気付かれたに違いない。

 これではこれから先、情報収集が難しくなるだろうとクロキは思う。

 カヤの動きを思い出す。


(マンティコアよりも手ごわかった。それに拳も鋭かった。あれは武道を学んだ者の動きだ)


 クロキは経験からカヤが何か武道をしている事を見抜く。 


(あの強さ。この世界の人間とは思えない。もしかすると彼女も召喚された者なのかもしれない)


 それに良く考えるとカヤの顔は日本人のようであった。

 この世界の人種は西洋っぽい顔立ちをしているが、黒髪に日本人っぽい顔付きの者がいないわけではない。だから気付くのが遅れた。


「これからどうしよう」


 クロキは頭を抱える。

 路地裏を歩きながらこれからの事を考える。


(やっぱり、レイジ達に近づくのは難しいな……。これじゃあナットに頼りきりになっちゃうよ。本当の事を言うべきかな?)


 ナットならば情報収集が容易だ。

 ただし、クロキは一応勇者とは敵同士ということになっている。


(彼らとあまり争いたくないと聞いたら、ナットはどう思うだろう?)


 クロキは悩む。しかし、良い考えは浮かばなかった。

 そして、左の掌を見る。


「柔らかかった……」


 クロキはレイジの妹の胸の感触を思い出すのだった。


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


キョウカ&カヤのイラスト

https://kakuyomu.jp/users/nezaki-take6/news/16817330661712462988

 

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