第124話 真夏の夜の夢(3)

会はお開きになり、夏希と高宮は一緒に帰っていく。


夏希は少し酔っ払ってしまい、足元がふらつく。


「大丈夫?」


「下駄って歩きづらい、」


ゆかたのまま帰ってきてしまった。


「そっかあ。痛い?」


「ううん、 平気。 足だけ靴じゃおかしいもん、」


と笑った。


そして高宮の腕をぎゅっと取って彼にもたれかかった。



はあああああ


ほんっと、かわいいなあ


今日は長くなった髪もルーズに結って、うなじも色っぽいし。



高宮は夏希のマンションの近くまで来て、キョロキョロと周囲を見回し、


「ね、ウチに来なよ。」


と彼女に囁く。


彼女のところに行くと、また『監視人』がうるさいし


「え?」


夏希は恥ずかしそうにうつむく。


高宮は彼女の肩を抱いて、耳元で


「ダメ?」


と囁いた。


それにゾクっとした。


「あ、は、はい・・」


いつもの彼女じゃないくらい、しおらしい声だった。



それがまた


萌え状態で。



非常に


興奮した状態で


夢中で彼女を抱いてしまった。


「ちょ、ちょっと、まって。」


思わず彼を制しないといけないほどで、夏希は戸惑う。


「・・待てないよ、」


高宮は彼女の体に夢中でキスを浴びせる。


ゆかた姿の彼女に


こんなことや


あんなことしたりして。


興奮しないほうがどうかしてる。



ってくらい、もう自分の気持ちを抑えきれない。



その時



ビリッ!!



という音が薄暗い部屋に響きわたり


「えっ!」


二人は思わず目を見合わせた。


夏希がおそるおそる右腕を見ると、ゆかたの袂部分が大きく切れている。



「わーっ! ゆかたがっ!」


夏希は動揺した。


高宮も同時に動揺したが、ハッとして、


「も、それどころじゃないって!」



この盛り上がった気持ちを盛り下げてたまるか!


そんな気持ちで再び彼女の上にのしかかった。




「も~、コレ・・どうしよう、」


夏希はベッドに寝たまま、ゆかたがぱっくり切れてしまった箇所を恨めしそうに見る。


「ダメかな。」


高宮も心配そうにそれを見る。


「今日、初めて着たのに、」


ガッカリする彼女に、


「ごめん、おれのせいだし。 買ったところで直せるかな、」


と申し訳なさそうに言う。



ほんと


さっきはちょっと怖いくらいだったのに、


最中とは


ぜんっぜん


違う。


やっぱり


あの時の彼と今の彼は


おなんなじなんだ。



夏希はつくづくそう思った。


だけど


今は。


夏希はうつぶせになって高宮の手をぎゅっと握った。


そしてお互いに目を合わせて微笑む。


もう


ぜんぜん、怖くない。




翌朝、夏希は破れたゆかたをきれいにたたんで、買ったところに持って行って直してもらおうと思ったが。


また


お金遣わせちゃうなァ。


高宮に悪い気がしてしまった。




「あれ?どーしたの?」


日曜日だったが、夏希は午後から仕事にでることになっていた。


事業部に行くと、南がいた。


「今日、ちょっと仕事で。 昨日はごちそうさまでした、」


ペコリとアタマを下げた。


「シンデレラみたいに、元にもどっちゃったなあ、」


そこにいた八神も笑う。



夏希はハッと気づいたように、


「あ、あの! 南さん、何でもできるんで。コレなんですけど!」


紙袋からゆかたを出した。


「ん? ゆかた? どうしたの?」


「ココ、破れちゃって。」


と、昨日破いてしまった箇所を見せた。


「買ったトコに直してもらおうと思ったんですけど、なんかまたお金かかっちゃうなあって。 南さん、直せませんか? 縫ってあるところが切れちゃっただけなんで。」


説明する夏希に



南と八神はじーっと彼女の顔を見た後、同時にぶっと吹き出した。

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