第16話 とまどい(5)

「し、斯波さんは・・何も言わないんですか??」


夏希はさらに萌香に食いついた。


「二人きりで行く時は内緒で。 どうしても断れない時もあるし。私がお食事におつきあいをすれば、仕事もスムーズに行くかなってわかるときは。」


萌香は笑った。


「内緒・・」


「彼も、いちいちうるさいから。 私はそういうののあしらい方もわかってるから心配しなくってもいいんだけど。」


ちょっと恥ずかしそうに言う。


「やっぱ・・そーなんだァ・・」


夏希はがっくりした。


「加瀬さんは何となく危なっかしいから高宮さんも心配なのよ。 ホント、おごってあげるって言われたら危ない状況でもついていっちゃいそうだし、」


萌香は笑う。


「そ! そんなこと!」



ないです!


と胸を張りたかったが、



・・否定はできない。



その日の夕方だった。


夏希が外出から戻ると、いきなり斯波が怖い顔でずんずんと近づいてきた。


「な・・なんスか・・?」


もうその顔で威圧されてしまった。


「ちょっと来い、」


アゴでそう指図された。


「は・・」



なんだろ。


絶対に褒められたりする状況じゃない!


パッと傍らの萌香を見ると、夏希に手を合わせて何やら申し訳なさそうな仕草をしている。


「????」


わけがわからず、彼について応接室へ行った。



「おまえ、レックスの牧村さんと二人でメシ、行ったんだって?」



ドキンとした。



それか・・。


「は・・はあ。 美味しい焼肉屋があるよって、言われて・・」


小さな声でいった。


「んで? あの人にコクられたとか?」



さらにドキンとした。



さっき栗栖さんが申し訳なさそうにしていたのはこのことか。


と理解した。


「ま、牧村さんはいい人だけど? 仕事もおれらに気を遣ってくれて、いつも無理言ってもにこやかにやってくれるし。 根っからの善人だけどさ。 二人っきりで行ったらダメだろ!」



叱られた・・。


「で、でも。 仕事上のつきあいだって、」


夏希は一生懸命言い訳をしようとしたが、


「おまえはそんなこと考えなくてもいいの!」


バン、とテーブルを叩かれた。


「男と二人で焼肉屋に行くなんて、めちゃくちゃ気を許してると理解されてもしょうがねえんだぞ!」


「はあ???」


「おまえ、ほんっとに隙だらけだから。 牧村さんはおまえよりすっごい年上でバツイチだけど、一応独身だからな。 しかも、おまえ高宮とつきあってんだろ?」


「はあ・・」


「それなのに! いくら遠くにいるからって他の男とメシなんか、しかも焼肉なんか行ってもいいのかよ!」



まさか


焼肉が


こんなに尾を引くとは。



夏希は斯波の大声に下を向いてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る