こまどり

ゆきさめ

まえがき


 ひいん。からから。

 ひいん。からから。


「小鳥の一座が来ましたよ」


 大きな釣鐘型をした小屋はまるで、そう、あたかも鳥籠のようであった。

その見世物小屋の内装は質素極まりない。椅子とも呼べないような、木製の長椅子が並べられたその先、少し高くされた舞台がある。この舞台と客席を分けるのが、白く塗られた鉄製の柵だ。

 この小屋の客は、子どもたちであった。ゆえに、客が舞台へ寄らないようにしているのかもしれない。


「小鳥の小屋へようこそ」


 この見世物小屋には、紳士が一人。

 洒落た背広に絹帽を被っていて、象牙の柄の立派な杖を片手に気取ってみせる。

 その紳士の後ろ、見目麗しく着飾った子どもたちがいた。男も女も関係なく、豪奢な衣装を纏う彼らは、一様に美しかった。


 不自由になった足を引きずって歩く、あるいは足を別のもので代用しているような子どもたちであったが、それは美しさに拍車をかけるものでしかない。

ふらふらと危うげに歩く様はまるで雛鳥であった。永遠の雛鳥であった。


「さあ、可愛い駒鳥たちをご覧に」


 杖を一振りして、紳士が微笑む。


 ひいん。からから。

 ひいん。からから。


 駒鳥の鳴き声を真似る子どもたちが不器用に、しかしどこまでも器用に舞う姿の、美しいことといったら……。


 ひいん、から。から。


 駒鳥の雛鳥たちの行く先は、もうどこにもない。大きな釣鐘型をした小屋の中にしか、もう、ない。


 ひいん。からから。


「今季もまた、来ましたよ」


 ひいん。からから。

 ひいん。からから。


「小鳥の一座が来ましたよ」


 ひいん。からから。

 ひいん。からから。


「今夜も山では誰か鳴きますか?」



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