詩集~春を待ちわびるうた

清水川涼華

啓蟄(けいちつ)を過ぎても

 朝一番の 蛇口から出る水

 今日はたまたま 温かい

 昨日は両手が 凍える冷たさだったのに

 今日はそこそこ 温かい


 窓に張り付く 薄氷の膜が

 昨日と違う 模様になって

 日差しを通して きらめくと

 壁に映った 木々の影もゆれる


 玄関を出ると 溶け残った雪

 踏みしめると ガリガリと音がする

 風は相変らず 突き刺さり

 空は相変らず 重苦しい


 雨かと思えば 雪になる

 雪かと思えば 風が吹き荒れ

 卒業式は みぞれを浴びて

 涙も一緒に 流れていたね


 人の生活は変わるのに

 自然の動きは いまひとつ

 足踏みしたまま 進まない

 ここでは空気が 追いつかない


 この辺りでは 生き物たちは

 まだまだ暗い 土の中

 いつか出てくる その日のために

 もう少しだけ 待機中

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る