アルテーロ解決編
アンデッド出現の報は、アルテーロの町を騒がせていた。戦士ギルドに魔法士ギルド、罠士ギルドにまで町からの協力要請が届き、町の防備へと駆り出されていた。
何故か罠士ギルドの人数が少なかったり町中で強盗か何かと思われる事件が発生した形跡があったりと忙しい夜ではあったのだが、それでもアンデッドが町に入り込むのを防がねば明日の朝は来ない。
唯一どうにか出来そうな神官も一人ではどうしようもないし、他の町に伝令を飛ばすにも状況をもっと確認出来なければどうしようもない。
凄まじい名馬を持っていると噂の騎士アルフレッドはいつの間にか町から居なくなっているし、そのアルフレッドに宿を提供していた罠士ヒルダも大金を叩き付けて馬を調達すると、森に向かって走っていったという。
更に狩人達の話を聞いてみれば、森に向かったのもアルフレッドらしいということが判明する。
アルフレッドがどのくらい強いかはアルテーロの町の人間には分からないが、まずはアンデッドが活発化する夜をどうにか耐えきり調査団を派遣。そう結論を出し誰もが眠れない夜を過ごした、その次の日の朝。
見張り台に居た警備兵が二頭の馬と、その上に乗る人間の姿を発見した。
「え、あれは……」
今日は爆走していないようだが……その馬と二人の姿には見覚えがある。
「伝令! 騎士殿と罠士の女が帰ってきたぞ!」
並んで走る二頭の馬が町の門へとやってくる頃には、閉じられていた門が慌てたように開かれ警備兵達が走り出る。
「え、な、何!?」
「騎士殿、お帰りなさいませ! かの森へ行っていたと伺いましたが、その……」
門の前でスレイプニルを停めたアルフレッドは警備兵の言葉に頷いてみせる。
「原因となったモノについては排除した。何処かにアンデッドが残っている可能性は否定できないが……今後アンデッドが爆発的に増えるという事態にはならないはずだ」
「おお……しかし、その原因とは。やはりネクロマンサーですか?」
「えっと……似たようなものだと思うわ。あの貴族のお坊ちゃまが連れてた従者がそういうのに特化した魔法士だったみたい」
警備兵の質問にヒルダが答えると、警備兵はアルフレッドに確認するように視線を向け……アルフレッドはそれに頷いてみせる。
「そ、うですか……ちなみに従者というのは」
「珍しい意匠の服を着たご老体だ。ドーマと名乗っていた」
「すぐに確認をとります。とにかく、町の中へ」
道を開けた警備兵達に促され、アルフレッドとヒルダは町の中へと入っていく。
何処か暗い雰囲気の漂っていた町中だが、アルフレッドが森に居たことは恐らく狩人達が話したのだろう。帰ってきたアルフレッドとヒルダの姿を見て自然と歓声が上がり始める。
「おお、騎士様だ……騎士様がお帰りになったぞ!」
「てことは、アンデッド達が倒されたんだ!」
死しても尚蠢くアンデッドになるという事は、普通に生きる人間にとっては何よりも恐ろしい事だ。
アンデッドに殺された人間がアンデッドになるというのは根拠のないデマではあるが、そんなものを信じている人間だって居る。
だからこそアンデッドが恐れられネクロマンサーが嫌われるのであり……それが倒されたとなれば、これ以上に明るいニュースは中々ない。
「騎士様ばんざーい!」
「アルフレッド様ばんざーい!」
そんな声が聞こえてくる中を、アルフレッドとヒルダは進んでいく。
歓声に応えるようにゆっくりと町中を進む二人にあちこちから歓声が響き……といってもアルフレッドが主でヒルダはおまけみたいなものだが、従士的な扱いなのかヒルダにも好意的な視線が投げかけられヒルダは居心地悪そうに身体を揺らす。
「う、うーん……なんかこういうの慣れないわね。しかもあたしは……」
役に立ってないし、と言おうとしたヒルダをアルフレッドの言葉が止める。
「胸を張れ、ヒルダ」
「え?」
「俺の仲間だろう? 君は。俺は、君には随分助けられている」
そんな事を言うアルフレッドに、ヒルダは何と返せばいいか分からずに言葉に詰まる。
助けられている。そんな事を言われても、ヒルダは言われるような事をした覚えなど無い。
むしろ、足を引っ張っているだけにしか思えない。
「……それ、本気で言ってる?」
「ああ、本気だ。君が居なければ俺は、この町で宿一つ取れないままだったかもしれないしな」
「出来れば罠士として役に立ちたかったわ……」
といっても、そんな罠士の技能を活躍させる機会もなかったからどうしようもない。
こんなもので認められても、ヒルダとしてはあまり嬉しくもないのだ。
だから、ヒルダは隣を進むアルフレッドに向かって指を突き付ける。
「これから見てなさいよ。「ヒルダが居なきゃダメなんだ」って言わせてやるから」
「……それは愛の告白か何かか?」
言われてヒルダは自分の台詞を反芻し……一気に顔を真っ赤にする。
「ち、ちちち、違うわよ! そういうんじゃなくて仲間として!」
「冗談だ」
爽やかに笑うアルフレッドを見て、ヒルダはからかわれているのだと理解し叫びたくなるのを必死に抑える。
「……意外とアンタ、タチ悪いわよね」
「そうか?」
「そうよ。正義バカだと思ってたけど、なんか所々黒いわよ」
言われて、アルフレッドは「ふむ」と頷いてみせる。
「……君の影響かもな?」
「ちょっと、人のせいにしないでよ!」
「ハハハ」
笑いながら馬の足を速めるアルフレッドを追い、ヒルダは併走する。
傍から見れば恋人か何かのように仲の良い二人の姿に、アルテーロの町にもまた暖かな空気が戻り始めていく。
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