決まりました

 章吾さんのところにお泊りして二週間たった。今日は章吾さんが帰ってくる日だ。

 駅まで迎えに行くとちょうど改札から出てくるところだったので、「お帰りなさい」と言ってから一緒に歩き出す。


「親父さんはなんか言ってたか?」

「特には何も。だけど、相談したいって言ってくれたことが嬉しかったみたいで、一人で頷いてたよ」

「そっか」

「あと、牛木さんの娘さんや皆さんにお土産があるから、持って行ってくれると嬉しいな」

「わかった」


 渡された荷物がない代わりに、今日私宛に章吾さんからクール宅急便で荷物が届いてた。中身はなんと新鮮なお魚と干物、わかめなどの海産物。

 それを見た母が嬉々としてたし、さすがに食べきれないからと章吾さんのおうちにもお裾分けして来た。

 で、牛木さんの娘さんに渡すぬいぐるみなんだけど、兄にお願いしてもっと大きいものを作ってもらった。今回持って帰ってもらうのはミニシリーズの残りの五機ともともとあった25センチのやつ、そして特別に作ってもらった四番機。

 その四番機の大きさはなんと50センチ。娘さんが何歳か聞いていないけど、抱いて眠るのにはいいかもしれないと思ってる。

 ちなみに、四番機はふたつ作ってもらい、びとつは私の分だったりする。あと、浜路さん用に三番機を作ってもらうことになっていて、これも今日出来上がっていたりする。もちろん兄にはお金を渡しましたとも。


(あまり大きいと迷惑かなあ……)


 浜路さんは可愛いものや三番機が好きな人みたいだし、気に入ってくれるといいなあと思いつつ、迷惑そうだったら章吾さんに預かっててもらうか着払いで送ってもらおうと思っている。そのことも伝えると、章吾さんは苦笑した。


「わかった、浜路さんに渡すよ。だけど、これで最後にするんだぞ?」

「うん! ありがとう、章吾さん!」


 苦笑したけど、優しい目をして私の頭を撫でる章吾さん。その荷物を持って帰るのって章吾さんなんだけどな……。

 まあいっかと思いつつお喋りしながら歩いていると、あっという間に家に着く。あがってもらってダイニングに通すと今日はすでに両親が揃っていて、母がお茶を淹れてくれた。


「相談したいことがあるそうだが、どうした?」

「はい、ひばりさんとの結婚のことなんですが……」


 そう前置きした章吾さんは、私に話してくれたことと同じことを父に話す。章吾さん曰く、ブルーインパルスのお仕事の関係上、どんなに早くても年末のお休みの時か来年の一月以降じゃないと、式は挙げられないそうだ。


「ふむ……」

「僕としては、籍を先に入れてもいいと考えています。ですが、僕の両親はともかく、僕やひばりさんだけで決めていい話ではないし、江島さんのご都合もあるかと思ったのでご相談させていただきました」

「そういうことか」


 章吾さんの話に、両親も難しい顔をしながら頷き、溜息をつく。

 まあ、そこは仕方がないよね。勝手に結婚してあとから問題が起きたとしたら、親としては複雑だろう。だけど前もって相談したならば、何か起こった時に双方の親が力になってくれる場合もあるかもしれないし。


「まあ、『式を挙げるまで籍を入れるな』なんて硬いことは言わないし、籍を先に入れてもいいだろう。だが、できれば先に基地の寮なり官舎なり外なり、二人が住むところを決めたらどうだろう? 籍はすぐに入れることはできるが、住むところはすぐに決まるわけじゃないからな」

「そうですね。どのみち上と相談しなければなりませんし」

「だろう? 式はあとでもいいがまずは住むところを探して、それから籍を入れても遅くはないだろう。ただ、章吾くんも忙しいだろうし、ズルズルと決められないのも困るから、期限を設けたらどうだろう」

「そうですね……」


 確かに期限が決まってたほうが、章吾さんも探しやすいかもしれない。それに、探すにしたって章吾さんの職場に近いところがいいと思っている。

 私はどこだっていいんだ、章吾さんがいてくれれば。


「ひばりはどこに住みたいって希望はあるか?」

「私? 章吾さんの職場に近いとこなら、どこでもいいよ?」

「寮や官舎でも?」

「うん」


 こないだ泊まったところも官舎というか寮だったらしいんだけど、壁が薄いとかっていうのはなかった。薄いとほら、なんというか恥ずかしいし。

 ただ、食材の買い物や私の仕事をどうするのかっていう問題があるけど、そこは章吾さんと話し合えばいいだけのことだ。

 そして両親との話し合いで、期限は章吾さんの夏休みまでとなった。


「相談に乗っていただき、ありがとうございます」

「いやいや。俺も相談してくれて嬉しかったしな」


 だいたいの話し合いが終わったのか、章吾さんも両親もどこかホッとした顔をしていて、そのあとはしばらく自衛隊関連の話をしてた。……さすが父、私にはわからないこともあったけど、めちゃくちゃ章吾さんに理解があった。


「ひばりはこの通り、理解はあっても関心のない子だから、もしかしたら苦労するかもしれんが……」

「そこがいいんです。何も知らなくても、僕の仕事を理解して支えてくれれば、それだけでいいんです。我侭ひとつ言わないから心配ではあるんですがね」

「言わないよ、そんなこと。私だって章吾さんが忙しいことくらいはわかってるし、疲れた顔をしてるのに『どっか連れてって』なんて言わないよ。過酷なお仕事だっていうのくらいはわかってるんだから、お休みの時くらい章吾さんにはゆっくりしてほしいもん」

「ね? こういうひばりさんだから、いいんです」


 珍しく照れたように笑う章吾さんに、父は目を丸くして見ている。


「章吾くんがいいならそれでいいさ。まあ、式はおいおい考えるとしようか」

「はい」


 雑談も終わったようだし、母がお昼ご飯を出してくれた。それを食べたあと、電車の時間が来るまで私の部屋でゆっくりしてもらうことにした。


「ごめんね、章吾さんが来るまで作業してたから散らかってるけど……」

「構わないよ。ひばりがどんなものを作ってるのか、興味あるし」

「そう?」


 クッションを出して、章吾さんにそこに座ってもらう。作業机の上には途中だったアクセがそのまま乗っていて、せっかく座ったのに立って作業机を覗く章吾さん。

 今作っているのは店舗に出す夏物商品で、涼しげなブルーや太陽をイメージした黄色やオレンジを使ったものを中心に、腕輪やピアス、イヤリングやネックレスを作っている。

 ビーズと作業できる場所、ネット環境さえあればどこでも作れると言ったら、関心したように見ていた。


「そういえば、このブルーインパルスの四番機もビーズで作ったんだよな?」

「うん。でも作ったのは結局ふたつだけで、家でも売ってないの」

「ガックの彼女にもあげなかったのか?」

「うん。だから、これを持ってるのは、私と章吾さんだけだよ」


 美沙枝が何か言ってきたら作ろうと思ってたんだけど、彼女は結局何も言ってこなくて、その分店にあるミニシリーズを買うようになった。そんな話をしたら章吾さんは嬉しそうに笑って、私を抱きしめてきた。


「……ほんと、ひばりは可愛いこというよな」

「そうかな、ん……」


 顎を捕らえられて横に向かされると、章吾さんがキスをしてくる。そのまま舌が入り込んでくると同時にチュニックに手が入り込んできて、不埒なことをされた。

 そして急速に高まる快感と章吾さんの動きに翻弄されてしまった。


「章吾さん……」

「どうしてもひばりが抱きたかったから。来月来れるかどうかもわかんなかったし」


 ここまで性急に求めてくることがなかったから正直びっくりした。


「ごめんとはいわないよ」

「うん……私も嬉しかったし……」

「……またそんなこと言って。時間があるならゆっくり抱きたかったんだけどなあ……」


 溜息をついた章吾さんはまたキスをしてくると、そろそろ時間だからと荷物を持って外へ行こうとするのを止め、持って行ってもらう紙袋を渡すとその大きさに顔を引きつらせる。


「ひばり……これ、全部お土産、かな?」

「うん。浜路さんにはピンクのラッピングで、牛木さんのは黄色のラッピング。あとクッキーと焼菓子の詰め合わせは他の皆さんに。もちろん、浜路さんのにも牛木さんのにも同じものが入ってるよ」


 浜路さんや他の人の分はともかく、牛木さんとは約束をしたしね。


「ま、まあ軽いからいいけどさ」

「駅までは自転車に乗せていくよ?」

「大丈夫だ」


 そんな会話をしながら、駅まで一緒に歩く。寂しいなあと思いつつも結婚するまでは我慢! と言い聞かせ、章吾さんを見送った。



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