章吾さんちにお呼ばれしました

 なんだかんだと過ごしている間に十一月もあっという間に終わり、十二月になった。章吾さんは忙しいみたいで、入間基地の航空祭のあとに【十二月の冬季休暇までそっちに行けない】と連絡があった……泣いた絵文字付きで。

 電話でも同じことを言ってたんだけど、すっごいガッカリした声だったのには笑っちゃった。

 まあ、仕方ないよね……全国に行ってるし、スケジュールを見る限りびっしりだもん。会いに行きたいのはやまやまだけど、私も何気に忙しいから無理だって言ったら余計にガッカリさせちゃったみたい。

 で、あいた時間にバーティカル・キュービッドがどの機体でやるのか調べたら、ハートの部分が五番機と六番機、矢が四番機と知って、どうしてあんなにも感動したのかわかった。章吾さんが矢をやってたからだって思ったら、嬉しくて涙が出ちゃった。


 ふと、左薬指に嵌っている指輪が目に入り、つい顔がニヤけてくる。そして慌てて誰もいないことを確かめて顔を真顔に戻すんだけど、それでもつい笑顔になるのは幸せだからかな?


 まさかあんなところでプロポーズされるとは思ってなかったし、指輪まで用意してくれているなんて思ってなかったけど、とても嬉しかった。バイト中は食材を扱ってる関係上、違反になるから外してるけどね。

 で、今年も大量の発注が来たり、お店用にバッグチャームを作ったり、兄が作っているぬいぐるみの綿入れの手伝いをしたりしているうちにあっという間に十二月も終わりに近づき、章吾さんが帰って来た。

 今年はクリスマス前にヘリコプターに乗ったりはしなかったけど、ゆっくり過ごすことにしていたし、クリスマス当日に去年も行ったイタリアンレストランで食事をして、帰りはラブホに連れ込まれました。


 一緒にお風呂に入り、身体の洗いっこをした。三ヶ月ぶりなせいか、章吾さんの手が愛撫するように私の身体を滑る。お風呂ではやめてほしいよ、ほんと。逆上せるから。

 そう言ってしっかり釘を刺したとも。

 お風呂からあがるとラブホに備え付けられていたバスローブを着て、ベッドの上でキスをしていたんだけど、突然やめてしまって戸惑う。


「たまにはひばりからキスしてみる?」

「え……」


 章吾さんからいきなりそんなことを言われて固まる。


「俺とひばりだけなんだから……やってほしい」


 色気たっぷりにそんなことを言われて、つい頷いてしまった。それに、どうすれば章吾さんに喜んでもらえるかって悩んでいたせいもある。

 章吾さんの前に膝立ちになり、日に焼けた太い首に腕を回すとその唇にキスをした。


「ん……っ」

「うん……上手だよ。こんどは俺のほくろを舐めて」


 そう言われて章吾さんの下唇の右にあるほくろをそっと舐める。それが嬉しいみたいで、何度もキスとほくろを舐めるよう要求された。

 そして愛撫を重ねられ、章吾さんが何か言ってるけど、私はそれどころじゃなくて……。

 章吾さんも私も互いを求めるように名前を呼んだりキスをねだったりして、愛を確かめあった。

 そこまではよかったんだけど、終わってから入間基地でのバーティカル・キュービッドがどの機体でやるのか調べた話をしたら、それがまずかったようで……。


「お、気づいたか。じゃあ、俺のハートなひばりちゃん、早速俺の愛の矢を受け取ってくれ」

「え……あっ、ちょっ!」


 時間をかけて私を抱いた時は二回もしないんだけど、よほど私の言葉が嬉しかったようで、終わったばかりだというのにいきなり激しく抱かれたのだった。

 ……終わったあとは、足腰が痛かったけどね!


 翌日は私もバイトがあったし、章吾さんも高校の時のクラス会があるとかで会えなかったけど、その次の日はドライブデートした。今年は私が二十九日まで休みがなくて午後からしか会えなかったけど、それでも食事だったり所沢に買い物に行って、夜は抱かれて……な生活をしていた。

 そして今年も初詣に行くことに。だけど今回は明治神宮じゃなくて、地元だ。

 今回は元旦に章吾さんちにお呼ばれしているから、そっちを優先させた結果、地元になったというわけ。要は結婚のご挨拶。

 祀っている神様は違うかもしれないけど去年のお礼を言って、今年も章吾さんの健康と無事を祈る。そして神社をあとにすると家まで送ってくれた。


「明日九時ごろ迎えに来るな」

「うん。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 そっと抱き寄せられてキスされる。キスが終わると私の頭を撫で、章吾さんは帰って行った。


 そして元旦。家族に新年の挨拶をし、今年は成人式をするけどまだ学生だからという理由で弟に多少なりともお年玉をねだられてそれを渡す。章吾さんちでも食べることになるだろうからとお雑煮を少しだけ食べた。

 そして章吾さんが迎えに来たので、手を繋いで歩く。章吾さんの実家は我が家から歩いて十分のところにあるらしい。まさかそんなに近いとは思わなかった。


「章吾さんじゃないけど、緊張する~……」

「ははっ! やっと俺の気持ちがわかった?」

「うん……」


 胸がずっとドキドキしてて、背中もなんだか嫌な汗が出てくる。緊張しないように頑張って章吾さんとお喋りをしているものの、近づくにつれて無言になっていく。


「大丈夫だって、ひばり。ほら、着いたよ」

「……」


 見上げたおうちはごく普通のおうちで、駐車場には章吾さんが乗ってる車もあった。それを横目に見つつ、章吾さんに促されるまま中へと案内される。


「章吾、おかえり。そちらの方がお付き合いしている方?」

「ああ。ひばり、俺のお袋」

「はっ、初めまして! 江島 ひばりと申しましゅ……あっ」

「ぶふっ! 噛んだな」


 緊張しすぎて、最後で噛んでしまった。それを聞いた章吾さんは思いっきり笑ってるし、章吾さんのお母さんにも「ふふっ」って笑われちゃったし……。とりあえずお土産を渡し、中へと通される。

 出されたおせち料理を食べて、章吾さんとの出会いや今までのことをたくさん話す。章吾さんのご両親はとても穏やかな方たちで、なんだかほっこりしてくる。ご家族もお兄さんと妹さんがいて、気さくに話してくださった。


「本当に章吾でいいのかしら? 苦労したりしない?」

「そんなことないです。確かにしょっちゅうは会えませんけど、会えばとても優しくしてくれますし、大事にしてくれます。逆に私でいいのかなって思うくらいで……」

「あらあら、そんなことはないわ。落ち着きのなかったあの章吾が落ち着いたんだもの、ひばりちゃん効果は絶大なのよ。だから自信を持ってね」

「……はい、ありがとうございます」


 どこまでも穏やかに話すお母さんに、その言葉がスッと入り込んでくる。この方を「お義母さん」と呼べることがなんだか嬉しくて、章吾さんがちょっといなくなった隙に「藤田家の味を教えてください」ってお願いしたら、快く返事をしてくれたし、メアドなどの連絡先も交換した。

 料理はお正月が終わってから、ということになった。

 お昼もご馳走になり、「ドライブに行こう」と言った章吾さんと出て藤田家をあとにする。ドライブと言ってもどこかに行くわけでもなく、明日帰ってしまう章吾さんとお喋りだけする感じだった。

 で、ファミレスで夕飯を食べたあとまたドライブしてたんだけど、昨日あれだけ私を抱いたというのに章吾さんは物足りなかったようで、途中で見つけたらしいラブホに入ると、そのまま激しく抱かれた。



 以前も思ったけど、どこにそんな体力があるんだ、章吾さん……。



 自衛官の体力は天井知らずなんじゃないかって思うくらい激しく、そして珍しく立て続けに二回抱かれて、私は疲れ果てて帰って来た。


 そして翌日の一月二日。章吾さんは元気いっぱいに松島基地へと帰って行った。


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