第2章-4 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい

「01小隊。射線に気をつけろ。絶対、02小隊には中てるなっ! 02小隊は編隊を組み直し、そこから離脱するんだっ! 囲まれるぞ。ネルソンめ、卑劣な真似を・・・」

 01の玲於奈は、ネルソンがセンプウ1機を犠牲にする作戦を立案した、と考えたのだ。1機の犠牲とは、パイロット1名の犠牲と同じ意味を持つ。負け戦で、少しでも多くの味方を退却させる殿と違い、最初から味方の一部を切り捨てる戦闘は、忌避すべき所業である。

 死中に活を求めざるを得ない状況なら致し方無いが、同数のサムライによる戦闘開始直後ではあり得ない選択といえる。そんなパイロット養成コース演習の基本を蔑ろにし、勝利のみを目的とした作戦に怒りを抑えきれず、01はネルソンに対して吼える。

「いくらシミュレーション演習だからと言って、下衆な作戦すぎるぞ・・・戦友を消耗品扱いかっ!」

 ネルソンは作戦立案どころか、このシミュレーション戦闘にすら参加していないのだが・・・。

『01、こちら02。援軍を求む!』

「02! どうした?」

『ライデン6機から攻撃を受けてる。立て直すのが難しい』

 センプウ小隊の戦況を把握するため、玲於奈は02の全索表シスと同期させ、全方位球体ディスプレイの一部に戦場を映し出させる。

 センプウ小隊は、最初に突入した翔太の操るセンプウによって陣形を乱された。そこに6機のライデンが、両手持ちのエンライを全力斉射で3機と1機に分断したのだ。そして分断を更に大きくするよう、翔太の6機のライデンが苛烈な攻撃を加え続ける。

 錐揉みのように翔太のライデン3機が分断した間に入り込み、選抜軍人3機のセンプウを追い払うようエンライと誘導ミサイルを放つ。ライデン3機対センプウ3機の戦闘は、翔太が優位を取り、有利に、着実に、そして確実にダメージを与えていった。

 翔太は緩急をつけたメインエンジンと各部スラスターの推進、それに攻撃の反動を活かした機動で選抜軍人に的を絞らせない。その反面、選抜軍人たちは無反動機能を有効にしたまま攻撃していた。

 宇宙では、レーザービームを放っている短い時間でも、反動によって砲撃の方向がずれてしまう。結果、レーザービームの全エナジーを一ヶ所に叩きつけられず、斥力装甲に弾かれてしまうのだ。翔太の操縦テクニックはベテランパイロットを凌ぎ、エースパイロットに匹敵する。

 選抜軍人たちは、誘導ミサイルを発射する機会を慎重に窺っているようだった。レーザービームと異なり誘導ミサイルは、敵機に命中すれば確実にダメージを与えられる。しかし攻撃重視のライデンでも、搭載弾数は限られている。それがセンプウなら尚更だった。

 通常サムライは、5時間を補給なしで戦闘可能なように設計されている。逆にいえば、被弾していない場合、5時間は敵と戦場で相対する技能がパイロットに求められている。敵機撃破の有効な武装である誘導ミサイルを、無駄弾として贅沢に使用するなど選抜軍人には考えられないのだろう。

 撃墜されてしまえば、ミサイルは無駄になるどころか、自機を破壊する爆薬になりかねない。それにもかかわらず、温存しているのだ。士官学校の教練の成果とみるべきか、自らの思考を放棄した低能者とみるべきか、相手の力量を測れない愚者とみるべきか・・・。

 恐らく全てが当てはまるが故、この局面に至っても有効な反撃が出来ていないのだ。

 玲於奈が02の全索表シスで確認した陣形は無残だった。1機対3機と3機対3機の状況の上、1機は完全に3軸砲火に追い込まれ、ただの的になっていた。センプウ3機の方はバラバラに敵の砲撃を躱しているだけで、1機と2機に分断されそうになっている。

「02、07、08。ミサイルを全力斉射! 体勢を整えろっ。全弾使い切ってでも06と合流しろ」

 ディスプレイの一部に映し出したセンプウ小隊の戦闘は酷いものだった。

 01の指示通り誘導ミサイルは放ち、少しだけ態勢が良くなった。しかし、センプウ3機が連携とれるまでに至ってない。

 それどころか、02の頭上をレーザービームの閃光が走る。

 次の瞬間には、背後で誘導ミサイルが爆発し、機体が激しく揺さぶられる。誘導ミサイルの中たり方がよかったのか、幸いにも斥力装甲が吹き飛ばされるだけで済んだ。

 しかし、ライデンからの攻撃は容赦なく02のセンプウを襲いかかり、右肩と左脚の斥力装甲を削り、手に持っていたエンライを破壊した。エンライの破壊された衝撃で右手が損傷したため、予備武装のイカヅチを左手で持つ。

 この瞬間も02のセンプウは全速力で動いているのだが、攻撃の圧力が強く、被弾を余儀なくされていた。

「06、操縦4位の腕をみせろ」

 06の士官学校卒業時の操縦技術順位は4位だったが、指揮官としては10位内に入れなかった。他の科目も良い悪いの差が大きく、総合成績でなんとか10位に入った。そのため、エレメンツハンター学科へと送られてしまい、不満を抱き続けている。

『ムリだ。もう限界だっ!』

 エレメンツハンター学科の講義は適当に流していても、操縦技術にはプライドを持っている06が限界と叫んでいた。

「ミサイルは?」

『ないっ』

 敵による3軸砲火・・・3次元のx軸y軸z軸方向から砲火・・・は、フレンドリーファイアの危険がないせいで熾烈極まりないものとなる。

 1機対3機となった06は追い込まれた際、誘導ミサイルを全弾撃ち尽くして、一旦難を逃れた。

 しかし再び追い込まれ、今や3軸砲火の的となり果て、撃墜判定を待ったなしの状況なのだ。

「10分間でいいから意地をみせろ」

『意地で3機の相手に10分戦えるかっ!』

 02、07、08の救援は間に合わないと、2人は言外に会話している。

「01、03で敵の指揮機を叩きに行く。ネルソンを倒せば、所詮烏合の衆にすぎん」

 もう一度述べるが、ネルソンは作戦立案どころか、このシミュレーション戦闘に参加すらしていない。

『応! 意地でも撃破されん。ネルソンを倒せよ』

 06の気合だけで、どうにかなる状況ではない。

 しかし気マジメに講義を受け、選抜軍人の足並みを乱しているネルソンに一泡吹かせられるなら、空元気ぐらいは出せるのだ。

 ただ3回目になるが、ネルソンは作戦立案どころか、このシミュレーション戦闘に参加すらしていない。

 しかし彼らの中では、ネルソンが作戦立案しシミュレーション戦闘に参加していると、既成事実化されていた。

「当然だ! こんな卑劣な作戦認めん。絶対に勝つ。全機、いいなっ!」

『『『『『『『応!』』』』』』』

 彼らにしてみれば軍人でもなく、士官学校を卒業した訳でもない連中の術中に嵌まり、サムライ戦で劣勢になっているとは想像もできないのだ。だからネルソンが作戦立案と指揮をとり、ハリーがセンプウを操縦し突っ込んできたと確信している。

 連中ではなく、ホントは翔太一人の術中に嵌まり、翔太一人の操る7機に劣勢を強いられているのだが・・・。

 01と03が離脱し、04と05がセンプウ1機を相手にする。いくら操縦技術に優れたハリーであっても、同期の操るライデン2機の火力は躱せない。そう考えての玲於奈の指示だった。事実、ライデン2機の砲撃に対してセンプウは、牽制攻撃と回避を優先し持ち堪えている。

 翔太の腕なら、ライデン2機でも士官学校あがりなんて敵ではない。それにも関わらず、何とか凌いでいる。それは、効率を優先したからだった。

 3機対1機になっている06を先に沈めた方が、結果的に短時間での決着になる。

 さっき、”意地でも撃破されん”と宣っていた06のライデンは、3軸砲火によって瞬く間に宇宙デブリとなった。

「03へ。絶対、ネルソンを落とす」

『当然だ。ここまで虚仮にされて・・・逆転するぞ』

 2人とも怨嗟の声で会話しながら、アキトのラセンを捜すため敵陣へと、ライデンを全速力で侵攻させた。

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