第1章-4 ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”本領発揮

 無事?・・・に風姫の誕生パーティーが終了し、パーティー会場の準備室にテロリスト撃退に貢献したメンバーが呼ばれた。つまりはアキトたちであった。

 風姫から感謝が伝えられた。そしてアキトたちは、改めて風姫の誕生日を祝賀を述べ、お開きとなる流れだった。しかし、ここでジンが皆にとって魅力的で、アキトにとっては煩わしい提案をしてきた。

 ライコウⅢと宝船を見に行かないかと・・・。

 通常の恒星間宇宙船は惑星に着陸せず、静止軌道上の宇宙ステーションに停泊させる。人は宇宙ステーションでシャトルに乗り惑星へと降りるのだ。これは惑星防衛上の措置ではなく、普通の恒星間宇宙船に大気圏突入の機能がないからだ。

 しかし、エレメンツ学部エレメンツ学科で使用する恒星間宇宙船は、大気圏のある惑星に着陸する。

 トレジャーハンティングでは、大気圏のある惑星にベースを置いたり、テラフォーミング状況のデータ収集の装置を設置したりするからだ。

 そしてエレメンツハンティングでは、ダークマターの小惑星に着陸する計画もある。まだまだダークマターは未知の部分が多く、小惑星だからといって大気圏が存在しないとは限らないからだ。ただ惑星ヘルのような大きなダークマター惑星は重力が大きいため、軽い物質が確実に大気圏を形成している。

 エレメンツ学科を卒業するとトレジャーハンターの資格が取得できる。つまりトレジャーハンターに必須のスキルを大学で講義を受け、実習で身につけるのだ。それには恒星間宇宙船の整備や、操船も必修科目となる。

 そのため実習用の恒星間宇宙船が、大学近くの専用宇宙港に配備されたているのだ。エレメンツ学科全学生、が同時に整備実習可能な恒星間宇宙船とハンガーがある。

 専用宇宙港は、エレメンツ学科の理事の名を冠して”一条風姫宇宙港”。

 別名”フェアリーポート”だが、学生は”エレハンポート”と呼ぶ。

 そして蔑称が”破壊魔の拠点”である。

 因みに、恒星間宇宙船と整備用ハンガーは新開グループから寄贈され”新開ハンガー”という。

 屋根と側面が透明な簡易オリビーでアキトたちは、その宇宙港を移動していた。

「20キロ四方はある広大な宇宙港を警備するのに、”モノノフ”が30機満たなくて大丈夫なのかな・・・と思ってたぜ」

 エレハンポートには人型警備用ロボット”モノノフ”の最新シリーズが、20機以上配備されている。サムライシリーズよりひと回り小さく、兵器ではないので機体内蔵の武器はない。警棒2本を腰に装備し、透明な大型の盾で犯罪者を押さえつけ動作を止め制圧するのだ。

「問題ないわ」

「問題ないな」

「問題ありませんよ」

「ああ、味方の内はな」

 アキトはコネクトでカミカゼへ命令をだし、オートパイロットシステムで駐機場から呼び出し済みだ。

「うむ。4機のモノノフが新開ハンガーに急速接近してきてるぞ。サインでも欲しいのか?」

「んな訳あるか。危険な香りしかしないぜ」

 モノノフはコウゲイシより強いが、警察のロボット”ヨリキ”より性能が劣る。

 しかしモノノフは、人より遥かに大きく、比較にならないほど早く動き、圧倒的に力が強い。オリビーに搭載できるレーザービームやレールガンの攻撃では、モノノフの装甲を貫けない。

 そんなエレハンポートを警備するには頼もしいモノノフ機の部隊だが、テロリストの手に渡り敵にまわると非常に厄介だった。

 そして、今のアキトたちは、その厄介な状況にある。

「全機が相手でも構わないわ」

 風姫は幽谷レーザービームの銃身を、一本ずつ両腕のロイヤルリングを取り付け戦闘の準備を始める。

「うむ。それではルリタテハの踊る巨大爆薬庫のお手並み。拝見してやるぞ」

 危機感のまるで感じられない口調でゴウは偉そうに宣い、翔太は風姫の根拠薄弱な強気な暴言にツッコミを入れる。

「いやいや、全機はムリさ」

「カゼヒメ、この世にはね。言霊ってのがあるんだよ~」

 千沙が風姫に運気への配慮を求めた。

 風姫とアキトは何かにつけてトラブルを拾ってくる。なければ探しているのでは、と疑われるレベルだ。

 運勢や星の巡りが悪いのか?

 それとも普段の行いが悪いのか?

 口は禍の元とも言う。千沙としては少しでもトラブルの要因を遠ざけたかったのだ。

 しかし、既に時遅かったか、史帆から残念な報告があがる。

「あの・・・アタシの簡易レーダーに、他にも動いている機体が・・・20機ぐらい?」

 一瞬で会話が止まり、囁くような微風の風音と、迫りくる4機のモノノフのジェットスラスターの音だけになった。

 再起動を果たした風姫が役に立たない教訓を述べつつ、戦闘プランを変更した準備を始める。

「言霊って凄いのね。びっくりだわ。うーん・・・ま、次からは気を付けるわ」

 幽谷レーザービームの砲身から、腰につけたダークエナジー供給源にケーブル接続し、最大出力を確保する。普段なら砲身内に蓄積したダークエナジーだけで充分なのだが、モノノフを一撃で破壊する威力を求めたようだ。

「はあ・・・なんで史帆は、簡易レーダーなんて持っているんだ?」

 溜息のあと、アキトは史帆の装備に疑問を口にした。ホントは答えを聞かなくても分かっている。風姫の誕生パーティーに出席したからだと・・・。

 カミカゼ”エレハン”モデルの機器チェックのため、アキトはクールグラスをかけながら、武装のロックを解除する。乗り込むと同時に迎撃にあたるのだ。

「まあまあ、アキト。そこが問題じゃないし、そんな場合でもないさ。それに史帆に声をかけるなら、簡易レーダーを携帯していた事実を褒め称えるべきだよね」

 適当な言葉を口にしながらも、翔太は七福神ロボに起動命令を下し、妨害電波の強度を確認していた。

 ゴウはクールグラスに史帆の簡易レーダーのデータを送信させ、状況を見定めている。

 現在位置はライコウⅢのあるハンガーから、宝船と七福神ロボのあるハンガーへと移動している最中で、丁度中間ぐらいの地点だった。

 ハンガー間の移動用簡易オリビーは、最高時速が10キロ未満と安全設計。

 現時点では走って逃げた方が早く、壁にすらならないという役立たず設計。

 停止させたオリビーからジンと彩香が降り、淡々と戦闘準備を進めている。明らかに戦闘を避ける意思はない。

「あー・・・アキト! しばらく命懸けの鬼ごっこを愉しんでくれ。俺たちは宝船に行く。生き残っていたら褒めてやるぞ」

 カミカゼがアキトの下に到着した瞬間、ゴウはお宝屋としての行動の判断を下したのだ。

「さっさと行けや」

「まあまあ、アキト。余裕を失ったら操縦ミスするからね。深呼吸でもしようか」

「落ち着いてたら命を失うんだよ」

「あのねアキト。応援するから、少しだけ頑張っていてね」

 お宝屋と史帆はオリビーから降りた。

「い・い・か・ら、走れぇー」

 アキトの怒声が響く前に、お宝屋と史帆は約500メートル先にある宝船のハンガーへと走った。

 エレメンツ学科では通常航行エンジンやワープエンジン、各種装備の整備が実習項目としてある。そのため恒星間宇宙船が爆発した場合を考慮して、ハンガー間は最低1キロメートルの距離をあけている。ハンガーと距離で、他の恒星間宇宙船への被害を抑えるためである。しかし、ワープエンジンが爆発したら、他のハンガーへも被害がでるだろうが・・・。

 走りながら、ゴウは宝船の戦力を確認する。

「史帆、何機の七福神ロボが整備完了しているんだ」

 翔太のマルチアジャストであれば七福神ロボ全機で戦闘可能である。今回のように護衛が必要な場合、動きが鈍い機体でも、盾役として使える意義は多きい。防御力の高い機体へのセミコントロール時間を少なくし、負荷を軽減する操縦方法を翔太は使えるようになっていた。

 そもそも、セミコントロールはマルチアジャストスキルを持つ翔太でなければ、7機同時操縦などできないのだが・・・。

「整備は全機完了」

「そうそう、重力波通信機能はどうかな? ジャミングが酷くてさ」

 電磁波による通信は妨害を受けやすく、七福神ロボのセミコントロールを維持するのは難しい。その事実は、2年前に七福神ロボでアキトと模擬戦をした時から分かっていた。

 しかし、新開グループの研究開発者が2年の歳月をかけ、重力波通信を可能にしていたのだ。ただ電磁波通信と比較すると、重力波通信の性能は余りにも低い。七福神ロボで実証実験の用途として搭載されているのだ。

 翔太の問いに、史帆が端的に応じる。

「・・・4機」

 史帆の息が荒い。

 通常の人と比べると運動不足、お宝屋と比べると話にならない体力だから仕方ない。

「行けるな、翔太」

「もちろんさ」

 千沙がゴウに尋ねる。

「あたしはどうするの~」

「宝船の緊急発進だな。任せたぞ」

「了解だよ~」

 ゴウは史帆に視線を移そうと、頸を限界までまわす。

 苦しそうに息をしながら走る史帆は、置いていかれまいと必死についてきている姿があった。

 とりあえずゴウは史帆の役割を指示する。

「史帆は重力波通信の安定化と、警察への通信だ」

 宝船に辿り着いてから、もう一度指示する事とし、史帆の様子を気にしながら走る。

 その史帆の後方では、戦いの火蓋が切って落とされるところであった。


「ジン、彩香。いつものフォーメーションでいくわ」

 カミカゼに飛び乗ったアキトは風姫に文句を言う。

「オレもいるんだぜ」

 コネクトをカミカゼのメイン操作パネルにタッチさせ、操縦者認証を行ってから、右腕のルーラーリングにつけた。次にメイン操作パネルの下から素早くケーブルを引き出し、左腕のルーラーリングに接続する。

 風姫は頤に人差し指をあて一瞬だけ考えてから、ジンに丸投げする。

「ジン。どうすれば邪魔にならないかしら?」

 モノノフ4機対アンドロイド2体と2人、カミカゼは1台。

 普通に考えたら勝負にすらならない。

「遅滞戦術要員とするか。後からくるモノノフの援軍を、カミカゼの機動力で引っ掻き回せ。我らとて28機のモノノフと対峙するのは、少々厄介だろうしな」

「いや、厄介で済まないだろ」

「アキト。ジン様は時間稼ぎを命じられました。早々に行動しなさい。私たちの時間を奪うのではなく、モノノフの時間を奪いなさい」

 彩香の苦言に返事はせず、行動で示した。クールグラスに表示される情報から、アキトは次のモノノフが何処からやってくるか推理する。

「アキト、お願いできるかしら。それと、ケガはしないで欲しいわ」

「お互いにな」

 アキトの姿はなく、言葉だけが残り、カミカゼは遥か前方を疾走していた。

 今回、モノノフには遠距離攻撃がない。

 攻撃オプションとしては警棒と透明な盾の他に、レーザービームやレールガンなどの銃やライフルを装備することは可能だ。

 しかし、それは手に持つなりしての外部装備としてであり、モノノフの機体の標準装備ではない。

 モノノフは、あくまで警備用の機体として設計されていて、機体内に武器を装備していない。ルリタテハ王国の法律で禁止されているからだ。因みに七福神ロボはコウゲイシで登録されていて、警備用ではないため王国からの監査が入らないのだ。

 数舜ののち、4機のモノノフが重力制御で浮かせた機体をジェットスラスターで高速移動させ、風姫たちに襲い掛かった。

「行くわ」

 風姫が宙を舞う。

「うむ、まずは4機か・・・。我も参る」

 ジンが突撃する。

「2人とも気を付けてくださいね」

 彩香が離れた位置から幽谷レーザービームライフルで、風姫とジンを援護する体勢を整える。

 先頭のモノノフの1機が大盾を構え、機体を飛び込ませ、うつ伏せでジンを潰そうとした。

 しかし突撃していったジンは、右へと急激に方向転換し、モノノフの側面で装甲の薄い箇所へと幽谷レーザービームを撃ち込んだ。次に、飛び上がる勢いで初期加速をつけ宙に浮き、モノノフの斜め後背と、腰から胸にへと幽谷レーザービーム撃ち込む。

 計3発の幽谷レーザービームで、ジンは胸部にあるモノノフの操縦席の周囲を破壊し、操縦不能にしたのだ。

 風姫はモノノフ2機の警棒4本を右へ左へと方向転換し避け、踊るように空中で旋回しては幽谷レーザービームを放つ。風姫の放った幽谷レーザービームの半分は避けられ、半分は装甲で弾かれていた。

 しかし風姫のダンスに翻弄されているモノノフにもダメージはあった。彩香が離れた位置から、幽谷レーザービームライフルで、モノノフのセンサーやカメラをピンポイントで潰してるからだ。しかも彩香は2、3発撃っては移動し、狙撃を覚られないようにしている。

 そうして、風姫の放った幽谷レーザービームによってダメージを受けているよう錯覚させる。彩香も攻撃対象となると、風姫に危険が及んだ時、適切な援護ができないからだ。

「2人確保した」

 ジンがもう1機のモノノフを無力化し、風姫と彩香に報告した。

 その刹那、2機のモノノフが胸の装甲を貫かれた。

 両腕の幽谷レーザービーム砲の威力を最大出力にし、風姫は黒い2条の砲撃したのだ。最大出力は前方にのみダークエナジーを集中させるため、後方からダークエナジーを放出して無反動にできない。その威力により風姫は、後方へと吹き飛ばされた。

 風姫が撃破したモノノフは操縦席の半分を吹き飛ばされ、パイロットの死亡は確実だった。

 もう1機は彩香の幽谷レーザービームライフルからの砲撃で、操縦席が完全に破壊されていた。

 2人はテロリストの背後関係を調査するため、ジンがパイロットを確保するまで、モノノフの戦力を削るだけに留めていたのだ。

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