第328話 堂杜祐人と襲撃者⑦


「それはどういうことですか? 堂杜君」


 雨花が祐人に問いかける。だがその顔からはにこやかさも和やかさも消えている。

 その表情は黄家の重鎮らしい威圧感すら感じるものだ。

 ニイナは少ない時間ではあったが雨花が今まで一度も見せない、というより想像もつかない迫力を感じて背筋に冷たい汗が流れる。

 秋華たちはにこやかに登場したが、部屋内の緊迫した空気に驚く。


「ちょっ、何? どういうこと? ママ……」


「秋華、ちょっと黙っていなさい。堂杜君、もう一度、言いますがどういうつもりの発言か教えてくれますか? あなたも能力者の端くれなら能力者が他の能力者の体を調べる、というのはあまり良いことではありません」


 秋華と同時に入ってきた英雄が瞬時に怒りに染まる。


「何⁉ なんて無礼で無知な奴だ! 父上、こいつを追い出しましょう! こいつは黄家の術を盗もうとか考えているかもしれません。元々、こいつは怪しいと思っていたんだ! こいつはきっと秋華をたぶらかして……」


「お兄ちゃん、うるさい! 堂杜のお兄さん、一体、何があったのよ」


 黄家の人間たちの視線が数方向から祐人に集中する。


「すみません、いきなり結論から提案してしまった僕が悪かったです。配慮が足りませんでした。もちろん、その点も話したいと思いますが……できれば大威さんと雨花さんと僕だけで話をしたいです。その話を聞いたうえで、必要ないということでしたら何もしないです」


「父上、いけません! こいつが刺客の可能性だってあります! こんな失礼な奴はここで……イー⁉」


「お兄ちゃんは黙っててって言ってるでしょ!」


「堂杜君、私たちだけというのは何故かしら?」


その雨花の問いに祐人は困ったような笑顔で頭を掻く。


「すみません、僕も他の人にはあまり聞かれたくないからです」


「ほう……」


 大威がここで初めて面白そうな表情を見せた。

 つまり祐人が言っているのは「自分も自身の能力についての秘密を話すから体をみせてくれませんか」ということだ。

 しかしそれではもし自分が祐人の申し出を断れば祐人は損をするだけだ。しかも内容によっては能力者にとって痛手になる可能性もある。

 どこまでをこの少年が話すかによるが、そもそもこの少年に得になることがない。


「面白いわね……堂杜君。いいでしょう、ちょっと隣室に行きましょうか。時間はどれくらいかかるのかしら」


「時間はさほどとらせません。それに上手くいけば……いえ、それはこれからお話します」


 そう言うと黄家当主夫妻と祐人は立ち上がる。

 秋華と英雄は呆気にとられ、祐人はニイナに「ごめん」の仕草を見せるとニイナは苦笑いしただけで頷いた。

 ニイナにしてみれば「祐人らしい」ということだが、他の人間にしてみれば意味が分からないかもしれない。


「秋華、ちょっとだけ席を外しますね。その間、お客様のお相手はあなたがしていなさい。あなたがホスト何ですからね」


「ええ⁉ ちょっと、ママ!」


 こうして三人は隣室に姿を消した。

 秋華と英雄は驚いたまま動けず、琴音は何故か祐人を尊敬と憧憬の眼差しで見つめる。

 ニイナはため息を漏らす。


「はぁ、もう……祐人さんはこれできっと気に入られてしまうのでしょうね。警戒してください、って言ったのは無駄でした。でもそれが堂杜さんなんですよね」




 隣室の部屋に入ると早速、雨花は祐人に向き直った。


「堂杜君、じゃあ聞かせてもらいましょうか。あなたの話を」


「はい、ではその前に約束をしたいです」


「約束?」


「ここで話した内容と、もし話に納得いただいた場合に僕がすることすべてです。もちろん、逆もしかりで僕が大威さんや雨花さんから聞いた話等々は決して口外しません」


「ふふふ、随分ともったいぶっているように聞こえますが、当然といえば当然ですね。分かりました」


 こうは言っているが強制力はない。

 要は互いの信義に則ってのものになることを確認したのだ。

 祐人は同意してもらったと頷き口を開いた。


「まずですが、大威さんのその状態は仙術によるダメージでいいでしょうか」


「……な!」


 祐人は第一声から雨花を驚かせた。

 だがこれでこの少年の話は聞く価値があるかもしれないと思わせる。


「そうだ……よく分かったな」


「やはり……。僕はその症状を見たことがありました。それは体内を巡る気脈を乱されているんです。ちょっと乱されているくらいなら時間の経過とともに自然治癒しますが、大威さんのは仙道使いの必殺の術を受けたんです。僕にしてみればむしろ、今こうして生活ができている大威さんの方が驚愕です」


「そこまで……堂杜君、あなたは一体、何者なの。あなたはもしや……」


「はい、もう察しているかもしれませんが僕は仙道使いです」


 祐人のこの告白に話の途中から予想していたとはいえ、雨花は驚くことを抑えることはできなかった。

 仙道使いは滅多にお目にかからない能力者なのだ。

 もちろん、その能力も仙氣にも謎が多い。


「それでです。先ほどの話に戻るのですが、大威さんには僕に体をみせてもらい気脈の乱れを正常に戻せないかやってみたいと思いました。ですが黄家の【憑依される者】のことは聞いています。僕ごときが調べたところで分かるとは思えないですが、普通に考えて超機密事項でしょうからお二人の考えに従います」


 祐人はそこまで言うと黙り、二人の決断を待った。



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