第323話 堂杜祐人と襲撃者②
「本当ですか⁉ 秋華さんを狙って?」
「当然、僕はそうだと思ってたんだけど」
ニイナは激しく反応すると同時に頭の中は冷静に高回転している。
(襲撃はあった……となると秋華さんの言うお家騒動は本当なの? しかも突発的な襲撃はほぼあり得ないことを考えると作戦は結構前から練っていたはず)
「敵の本気度と言いますか……実力はどうでしたか? 堂杜さん」
「中々の実力者たちだったと思う。それに慣れた感じの連中だったかな。自分たちの特性をよく理解した連携と作戦で攻めるタイミングも悪くなかったと思う。自分で言うのは何だけど、僕がいなかったら危なかったかもしれない」
「そこまでですか!」
「うん、まあ今回の襲撃者は捕らえたから何か情報が得られればいいんだけど」
「捕えているんですね⁉ それは大きいです。私もその人たちに会えないでしょうか」
「え? うーん……そうだね。まあ、僕の後ろからなら……ちょっと秋華さんに聞いてみよう」
「お願いします。上手く情報を引き出すか、取引ができれば色々と手札ができますし、上手くいけば依頼も終わらせることができるかもしれません。現当主にこれを報告すればいいんですから」
事態は進んでしまったが状況は若干、こちらに有利かのように思える。
だが何故か……ニイナはすっきりしない。
秋華の信用度が低いと見積もっているせいもあるが、どうにも分からない部分が多い。
しかもその分からない部分が話の根本部分なのだ。
(何かしら……何かが引っかかるんです。今日、襲撃しておいて英雄さんは何も知らずに私と面会です。それにそれだけじゃないです。襲撃のタイミングがどうにも……本当に偶然なんでしょうか)
「それとニイナさん、もう一つ気になることがあって。実は襲ってきた連中とは他に何人かの気配を感じたんだ。普通に考えれば仲間だと思うんだけどそいつらは僕が敵を撃退した後に気配を消したんだ」
この祐人の報告にニイナは目を見開いた。
「他に? しかも消えたんですか?」
「うん、消えた。こちらの戦いを見て帰ったみたいだった」
「それはおかしいです。今回、秋華さんを襲うのに様子見は悪手です。やるなら初めから本気かつ全力で行くのが定石です。私たちを警戒させるとかの話だけではありません。どんな理由があるとしても秋華さんは黄家直系なんですかそんな強引で稚拙なやり方では黄家内の人間も支持するわけがありません。秋華さんは何か言っていませんでしたか?」
「いや、特には何も……。撃退したことは喜んでくれたけど」
「何も言わない……ですか。ちょっと聞きますが、こういうのは能力者の家系では当たり前なんですか? 次期当主の跡目争いは分かりますが、こんなすぐに血生臭くなるのは普通で、別によくあることで当人と後ろ盾の者同士でやってくれ、っていう」
「え⁉ いやいや、さすがにそれはないと思うよ。黄家独自の文化だとか言われたらそうかもしれないけど……でも、秋華さんの言い様だと本来は英雄さんで跡継ぎは落ち着いていたって言うし、これは特殊な状況なんだと思う」
それを聞いてニイナは安心と言うか、自分の理解の範疇にあると知れてホッとする。
しかし、となると今感じている自分の疑問は正しい。
「どうしたの? ニイナさん」
ニイナが明らかに腑に落ちない、という顔をしているので祐人は首を傾げた。
「はい、まずどうにも今日、敵が襲ってきたのが妙だと思うんです。秋華さんの話からすれば相手は敵とはいえ身内です。堂杜さんを雇ったのを内密にしているとはいえ屋敷に招いているんです。こんなことはすぐに敵も察知しているはずでしょう。それなのに相手の戦力が増したその日に襲い掛かるでしょうか? 祐人さんの実力は分かっていないとしても迂闊すぎませんか」
「なるほど……。でも、相手によほどの自信があったか、普段、秋華さんを襲うチャンスが中々なくて買い物に出かけるという最大のチャンスがたまたま今日だったという可能性もあるんじゃないかな」
「その可能性はありますが、どうにも……」
「それか相手に焦る理由があったとか?」
「そうですね、もしそれがあるのなら分かります。ですがその理由になる話は何も聞いていません」
そうなのだ。これがニイナをイライラさせる理由でもある。依頼をしてくるのはいいのだが、秋華は細かいところの状況説明が少なすぎるのだ。
「それにそんなに焦っているのなら他で見ていた人たちはなんでしょうか。普通に考えれば一緒になって襲ってくるはずです。ハッ! それともう一つおかしいです。琴音さんがいたじゃないですか! 下手に三千院家の人間を巻き込めば、秋華さんを排除したとしてもその後に三千院家と戦争になるかもしれないって! それはさすがに望んでいないはずとも言っていました」
「あ……」
ここにきて祐人もおかしいと思い始める。秋華を守ることに集中していた祐人は実際、言われた通りに襲われたこともありそこまで考えることはなかった。
だがニイナの今の分析とニイナが面談した秋華を除いた黄家一家たちの様子がどうにもしっくりいかない。
「やっぱり……秋華さんは何か企んでいるのではないでしょうか」
「え⁉ 秋華さんが? でも一体、どんな企みが? 腑に落ちない点はあるけど実際、襲われているし」
ニイナは分かっている状況を整理し、頭の中をまとめるように真剣な顔で顎に右手を添える。何かが見えてきそうなむず痒さがニイナを覆う。
「よろしいですか?」
そこで突然、アローカウネが口を開いた。
「口を挟みまして申し訳ありませんが、堂杜さん」
「はい」
「今日、襲ってきたという敵ですが誰を襲っていましたでしょうか」
「……え? それは考えるまでもなく……うん?」
思わぬ角度からのアローカウネの質問に祐人が驚くとニイナが目を見開く。
「そういうことですか……分かりましたよ、秋華さん。なんていう子なの……それならご両親のあの反応も理解できます」
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