第312話 黄家③


 ——黄家

 言われずと知れた機関にも所属する名家の一つである。

 約八十年前、能力者ギルドを改め世界能力者機関が発足する際に多大な貢献を果たした家や一族があり、その中でも特に『十家三族』が有名である。



十家


四天寺家

柳生家

オルレアン家(フランス)

黄家

王家

シュバルツハーレ家(ドイツ)

アークライト家(イングランド)

ナイト家(イングランド)

サリバン家(アメリカ)

バクラチオン家(ロシア)


三族

クリシュナ族(インド)

エフライム族(イスラエル)

バニヤース族(アラビア半島)



 それぞれに強力な能力者を輩出し、時には財政面、人脈面で機関の組織を支えている、いわば世界能力者機関の中枢とも言える。

 中には明確に機関への所属を表明していない家、一族もあるが機関とのパイプの太さは否定はできないだろう。

 他にも名家と呼ばれる能力者家系は存在するが、ここでは機関発足に多大な貢献した家、一族を表したものである。

 つまり黄家はこの『十家三族』であり、一目置かれる家系なのは間違いない。


 黄家の屋敷の正面で祐人は車から降りると周囲を見渡した。


(それにしても四天寺家といい、この黄家といい、どれだけお金持ちなんだ……。これだけの敷地を持った家があったら一体、何を営んでいる家なのかと疑われないのかな)


 広大な中国庭園と大きな屋敷を見て思わず呆れてしまうレベルだ。

 庶民代表の祐人としては考えても仕方がない疑問が湧いてしまう。


「じゃあ、お兄さん行きましょうか。とりあえずお茶の用意をしましょうね。そこで詳しく今回の依頼の説明をするわ」


 秋華がにこやかにそう言うと、お迎えのために整列している黄家の従者たちの間を意気揚々と歩いていき、琴音もその後についていった。


「あ、ちょっと待ってニイナさんたちがもう来るから」


 するとニイナたちを乗せた車もすぐに到着し、祐人はニイナたちと共に歩き出した。




「それで今回の依頼は護衛だと聞いたけど別に狙われてはいない、ともあるし、どういう依頼なのかな、秋華さん」


 祐人たちの座るテーブルの前にお茶が並べられると祐人がそう切り出した。

 屋敷に入るとどこかの部屋に通されるかと思いきや、建物を繋げる渡り廊下から外に向かい中国庭園にでると非常に大きな池の横を歩いていく。

 途中、素晴らしい庭園の風景が目に入り感嘆するが、秋華は池の中央にある小島に繋がる橋へ足を向けた。

 見れば小島には建造物があり、その建物は四周にガラスを多用した格子状のドアと窓でできている。外からも中からも見通しが良く、中国庭園を360度で楽しめる作りになっていた。


「はいはい、分かっているわ。まずはお茶を楽しんでお兄さん。この茶菓子は上海でも人気なのよ」


 秋華はにこやかに勧めてくるのでいきなり本題は無作法だったのかな、と考えて目の前の中国菓子に手を伸ばした。


(あ、これ美味しい)


 その祐人の表情の変化を見てとると秋華は改めてニッコリとして口を開いた。


「気に入ってくれたみたいで良かったわ。じゃあ、今回の依頼の内容を説明するわね」


 秋華が両肘をテーブルに置き、全員が秋華に顔を向ける。


「手紙にも書いたけど、お兄さんに依頼したのは私の護衛よ。あ、琴音ちゃんもね」


「でも秋華さん、誰からも狙われていないんでしょう? それで僕は何から守ればいいの?」


「そうよ、〝他人からは〟ね」


「え……それは?」


 この言葉に同席しているニイナが眉根を寄せた。

 随分と婉曲的な言い方だが、それだけでニイナには色々と想像はできる。

 というのも、まずはこの屋敷を見るだけでどれだけの資産を持った家なのか、ということは誰でも分かる。つまり大金持ちだ。しかも超のつく。

 その観点からいくと、能力者の家系だろうが通常の家系だろうが、お金持ちである限り逃れられない繊細な問題は存在する。

 それは……相続問題。

 その線を疑いながらもニイナは他の色々な可能性に頭を巡らせながら秋華に聞いた。


「秋華さん、いいですか」


「どうぞ、マネージャーさん」


「はい、ではまず、それはここでお話しても大丈夫な内容でしょうか。ここは随分とオープンな建物で外からも中がよく見えるようですが」


 これもまた婉曲的な聞き方をする。しかし、秋華はニイナのこの言い方に真剣な表情を作ると大きく頷いた。


「大丈夫よ。ここは事前に盗聴器や能力者による〝覗き〟が不可能なように結界を敷いているわ。それとね、窓にはちょっと細工がしてあって読唇術ができないようにしているわ。私たちの口の動きを読もうとすると別の会話が読み取れるようにしてあるの。だから、ここに案内をしたのよ」


 この説明に祐人が驚く。

 それほどに厳重な警戒なのだ。

 そして何よりも、ここは名門黄家の敷地内。

 一体、誰から警戒するというのか。

 というより逆に言えば、誰を警戒しているかは自ずと絞れてきてしまう。


「分かりました。それではこちらは雇われの身ですが、護衛のために必要な質問をしますがいいですか」


「もちろんよ。すべて答えられるかは分からないけどできる限り答えるつもりよ」


「では何点か聞いていきますが黄家の今のご当主はどなたですか? それと健康状態は?」


「ふふふ……いきなり踏み込むわね」


 秋華は呆れたような、それでいて喜んでいるような何ともいえない表情をして肩を竦める。それをニイナは見て、ある程度の確信を得た。


(たしか黄家には黄英雄という長男がいたはずです。四天寺の入家の大祭にも参加していたので覚えています)


「現当主は私の父よ。名前は黄大威(ホン・ダーウェイ)。それで健康状態だけど……」


 これは跡目争いの可能性がある、と。


「今、病床に臥せっているわ。もうかれこれ三年になるわね。最近になって容体が急変してね……なんとか持ちこたえているような状態よ」


(やっぱり……)


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