第252話 四天寺襲撃⑧
マリオンと明良は結果的に堂杜一家の連携奇襲になった間隙をぬって神前功チームの救出に向かった。
実はこの直前に明良は朱音の指示で祐人のところに駆けつけていた。そして、祐人をこの場まで連れてきたのと同時に現状を説明していた。
そしてマリオンは意図したタイミングではなく観覧席に戻ってきたところでオサリバンが放とうとするハルパーの超攻撃を目撃した。それと同時に右側の大型モニターの下から祐人と明良がこの広場に侵入してきたのを見つけたのだ。
マリオンはこの瞬間、祐人がスピードのギアを上げて突入する構えをみせたのを見ると、考える間もなく祐人の向かっているだろうナファスのいる場所へ走り出した。
(あちらの攻撃はさすがに間に合わないです。ということは祐人さんはこのタイミングで、あの瘴気を吐き出している能力者を狙う気……であれば私のできることは!)
「主の御使いたちよ! 清浄なる息吹、静謐な御手、それこそ我らの求める救いにならん!」
マリオンは跳躍してナファスの右側面数十メートルに位置取りすると両手を天に掲げナファスをけん制するように広範囲浄化術を展開する。
「スプレッド・ディバインスペース!」
マリオンの法術が展開されナファスから放出される不浄な瘴気を澄み渡った神気がナファスの右側から浄化していく。
「ぬ……エクソシスト!?」
突然、現れたエクソシストの上位浄化術に気づいたナファスは不愉快そうに顔を歪め、大口を広げて上方から360度に拡散させていた瘴気を首を下ろし口をすぼめて一点に集約した瘴気をマリオンに吹きかけた。
これに対しマリオンは顔色を変えず、右手で大きく十字を切る。
「出でよ、聖盾!」
浄化術を天に掲げた左手で展開しつつ、右手で光属性の盾を展開しナファスの広範囲浄化術を割って迫る瘴気を跳ね返す。その瘴気は聖盾に触れると跳ね返されるだけでなく同時に浄化されていくのが分かる。
「ヌウウ……」
見る者の肝を冷やす異相のナファスはその顔に怒りの色を隠さず、おぞましい目とボロボロに腐食した歯を露わにさせると、首から数珠上に垂らしている3つの球状の黒水晶の一つに手をかけた。
(この小娘、ターゲットの四天寺瑞穂に従っているエクソシストか……。丁度いい、ここで一つ目を使う)
ナファスは黒水晶の一つをちぎると瘴気を吹き出している自身の大口に放り込む。
マリオンはナファスが何かを仕掛けてくると顔色を変えた。そして、それは明らかに事態を一変させる恐ろしい術がくると確信してしまう。何故なら、エクソシストのマリオンが首からさげるロザリオが振動し始めたのだ。
(これは……! 主の警鐘!?)
ナファスは透き通るような肌をしたマリオンの顔を見ると喜色の表情で大口から異常に太い赤茶けた舌を出し、その上に黒水晶を乗せて目を垂らす。
(その肌がどのように腐食するのか……ああ、見たい見たい見たい、見たい!!)
ナファスは瘴気の放出を一旦、止めると宣言する。
「回答する! 今、この場所を
ナファスは自身の最終奥義を解放せんと黒水晶を舌の上から口内に転がしボロボロの歯で噛み砕かんとする。
この術は最凶最悪の超禁術。半径30メートル以内を0.00000000001秒の間、地獄と接続し生けとし生けるものすべてを地獄の凄まじい瘴気に晒すというものだ。【地獄の息吹】と呼ばれ、地獄の司祭である自分以外のものはすべて侵され腐食し、敵も味方も区別なく塵となる。
まさに黒水晶を噛み砕くその時、ナファスはマリオンの表情が視界に入り、怒りが頂点に達する。
何故なら、その表情には余裕と自信、そして生き生きとした未来を勝ち取る若者の笑みを見せていたのだ。
(この異教の糞屑が! 悶え死ねぇぇぇぇ……何!?)
この時、左側面から弾丸のように自分に突っ込んできた少年を察知するナファス。
瞬時にタイミング的に大技が遅れをとると理解する。黒水晶を噛み砕き、術発動のタイムラグの間に攻撃を受ければ術の発動地点が変わってしまう。
(この小娘ぇ! このための牽制か! だが、雑魚を寄こしたところで何も変わらん!)
迫る祐人が左手の拳を振り上げる。祐人が瞬きをする時間よりも速くナファスへの攻撃の間合いに入ろうとした刹那、ナファスは術を切り替え、至近で祐人に瘴気の息を全力で拭きかけた。
(ちい! 喰らえ! 全身を腐食させる瘴気を全身に浴びるがいい!)
祐人の拳よりも半瞬速く、今まで四天寺家のチームの接近を許さなかった不浄な瘴気が祐人の前面に吹き荒れた。
(馬鹿がぁぁぁ!! 誰を相手にしていると思っているのか! この雑魚が……何!?)
ナファスの顔に驚愕に染まる。何故なら、自分が全力で拭きかけた瘴気が祐人に触れる直前にバン! と空気が弾ける音と共に吹き飛んだのだ。そして祐人は何ものにも邪魔をされずナファスの喉元に左拳を突き出すとその手を広げてナファスの喉を強烈な握力で締め上げる。
「ウグゥァァァ!! ぎ、ぎざまぁぁ」
「見てたよ……お前の術は主に息。だったら弱点は喉か肺だね!」
祐人は鋭い目で静かに言い放つと左手で喉元を掴みつつナファスを持ち上げ、そのはるか後方にいるオサリバンを確認する。そのオサリバンは四天寺家の使い手にとどめを刺さんとしているのを見るや深く息を吸い、充実した仙氣を練った。
「はああ!! 仙闘氣掌!」
祐人は喉を放すと同時にナファスの胸に渾身の右掌打を炸裂させる。
ナファスの口や目、耳から血液が噴き出し、その場から隕石のように後方に滑空する。ナファスの両肺は完全に破壊され、その機能と意識を完全に失った。
もはや危険な飛来物と化したナファスがオサリバンに激突したのを見ると祐人はマリオンに柔和な笑みを向ける。
「ありがとう、マリオンさん。マリオンさんのおかげだよ。でも、よく僕の間合いとかタイミングが分かったね」
「祐人さん!」
マリオンは祐人に駆け寄り、はにかんだ笑みを見せた。
「あ、いえ、何となくです。祐人さんなら……間合いを詰めたら何とかしてくれると思って……でも、本当に何とかしてくれました」
「祐人君! 本当に君は何という……」
後ろで祐人の戦闘を目の当たりにし、もう何度目かと驚きの顔を隠さない明良が祐人に駆け寄ってくる。
「まだ、敵はいます。次はあいつを僕が相手にします。二人はその間に負傷者の回収をお願いします」
「分かった! 婿殿!」
「分かりました」
((は? ムコドノ?))
祐人の言葉にマリオンと明良は活力のある顔で返事をしたが、祐人とマリオンは明良の返事に不可思議な単語を聞いたように感じたが気のせいかと意識を前方に集中した。
「あの少年……まさか、全身発勁とは。その勁力で瘴気のガスを一瞬で振り払うようなことは思いついても実戦のさなかに中々できるものではない。仙人昆羊からの紹介とはいえ堂杜祐人……一体、君は何者なのか? いやこれほどまでに私に興味を持たせる君は……」
先ほどの祐人たちの戦闘の一部始終を大型モニター裏の林から確認していた剣聖アルフレッドは、喜びと嬉しさと共に……言いようのない既視感を感じて目を細めた。
(あの足の運び、あの体捌き……私はどこかであれを知っている……?)
だが剣聖はこれ以上は考えず、祐人ともに戦うことを決めた。
(もう分析など無駄だな。あとは共に戦い、共に戦いの空気を吸う。これ以上に君を知るに必要なことはない。いや、違うな……何故だかね、君を見ていると久しぶりに血がたぎるのだな)
剣聖は自然と笑みがこぼれ、祐人たちのいるところへ足を進めた。
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