第98話 偽善と酔狂の劣等能力者③

 祐人は先にマットウ邸一階にある応接室を出た。

 廊下に出ると一階のフロアは慌ただしく、マットウの兵士たちが行き来しており、これから訪れる妖魔の大群を迎え撃つべく準備を急ピッチで進めているのが分かる。

 祐人はそれを見て……顔を曇らせて拳を握る。

 これは本来、ミレマーに起きうるべき状況ではないのだ。


「堂杜様、ここに居られましたか。探しておりました」


 祐人は後ろから話しかけられ、振り向くと、そこにはマットウの執事アローカウネがいた。だが、その姿は執事のものではない。

 アローカウネは軍服を身につけ、全身を武器を巻き付けた物々しい出で立ちだった。今のアローカウネからは歴戦の戦士のオーラが否が応でも伝わってくる。


「アローカウネさん! その恰好は……」


「ははは、状況が状況ですので、私のような者でも後方で安穏としてはいられません」


「そうですか……」


「それよりも、堂杜様に伝えたいことがあります」


「え? それは何でしょう?」


「グアラン首相は亡くなられました。ミンラに向かう途中、車の中で……」


「な! いえ……そうでしたか……。残念です、ミレマーは惜しい人を失いました……」


 祐人はその話に驚いたが、すぐに心を静めて応対した。祐人も分かっていたのだ、あの時のグアラン首相の容体は、深刻なものであったことを……。

 そして祐人は、すぐにニイナのことが気になった。ニイナは重傷のグアランと一緒に車の中にいたはずだ。

 グアラン首相はニイナの実の父親かもしれない人……そのグアランの最後をニイナはどのように見たのか。

 マットウの盟友としてか、それとも……。

 祐人は無意識に目を床に落とした。

 その姿をアローカウネは見つめる。


「ありがとうございます。それを聞けばグアラン首相も浮かばれるでしょう。それと堂杜様にはもう一つ、お話ししておこうと思うことがございます」


「何でしょう?」


「ニイナお嬢様には、私からグアラン首相がニイナお嬢様の実の父親だということを伝えました。そして、マットウ様とグアラン首相の過去の出来事も含め、お伝えしました。グアラン首相が亡くなられる前に……」


 祐人は顔を上げ、アローカウネの顔を見つめる。


「そ、それで……ニイナさんは……?」


「ニイナお嬢様はグアラン首相が亡くなられる直前に……その手を握り、グアラン首相の耳元で“お父様”と声をかけられました。それは……何度も何度も……何度も、グアラン首相が亡くなられるその瞬間まで……」


「…………」


「ただ……奇跡は起きました。私も長らく戦場にいたことがありますが、ああいうことは中々、目にしたことはありません。あの体でグアラン首相は……最後の瞬間に僅かに目を開け、ニイナお嬢様を見て、声をあげたのですから……」


「…………何と言われました?」


「ニイナ、すまなかった、愛している、と……。そして、このミレマーをソーナイン様が望んだ世界に、優しく豊かな国に……と言われたところで、グアラン首相は……」


「……」


 何という最後であろうか、と祐人は唇を噛んだ。

 そして、グアラン首相の最後は本当にここで良かったのか? と思う。何故なら、グアランを殺したのは本来の敵である軍事政権ではないのだ。

 その敵に殺されたのなら、その戦いは対等だ。戦いに身を置く戦士ならば、そうも考えることができる。

 だが、グアランを殺したのは、第三者の組織スルトの剣……。

 スルトの剣の目的を考えれば、スルトの剣にグアランを殺す理由などないはずだ。

 祐人の全身から無意識に濃密な仙氣が高まっていく。

 その祐人をアローカウネは見つめ、今、一番伝えたかったことを言う。

 今から言うそれは、本当は自分の役目かもしれないが、何故かアローカウネはこの少年にお願いするのが良いと思ったのだ。確固とした理由はないのだが。


「堂杜さま、今、ニイナ様は自室に閉じこもり、鍵もかけてしまいました。そこで、申し訳ないのですが、ニイナ様に出てくるように言いに行って頂けないでしょうか? 場合によっては力づくでも構いません。それは堂杜様にお任せします」


 そう言うとアローカウネは祐人にニイナの自室の鍵を差し出した。

 祐人は驚き、アローカウネを見る。


「何故? 僕にこの役目を?」


「分かりません。ですが、強いて言えば堂杜様たちが来て、僅かな間ですが、その間にニイナ様が初めて見せる表情がたくさんあったのがその理由ですかね」


「え……でも、そんな理由で?」


「理由はもう一つあります。これは理屈ではないんですが……何となく似ているんですよ、堂杜様は……」


「誰にです?」


「ソーナイン様です。ニイナお嬢さまの母上の。いえ、堂杜様も女性と似ていると言われても、と思われるでしょうが、そうなのです。あの方は普段はお優しいのですが、事があると男勝りなところもありましたから……」


「……」


「お願いできないでしょうか? 堂杜様」


 アローカウネは深々と祐人に頭を下げる。

 祐人は頭を下げるアローカウネを真剣に見つめ頷いた。


「分かりました……お力になれるか自信はないですが、やってみます」


「ありがとうございます、堂杜様」


 アローカウネは顔を上げて、祐人にニイナの自室の鍵を渡した。




 祐人はアローカウネに言われた通りにニイナの自室の前までやってきた。

 ドアの鍵はアローカウネから受け取ってはいるが、いきなり女性の部屋のドアを開けるわけにもいかないので、まずノックをしてみる。

 予想はしていたが中から返事がなかった。

 だが、祐人がもう一度ノックをしようとしたとき、意外なことにニイナから「どうぞ」という返事が返ってきた。

 祐人はドアを開け、中に入るとニイナはこの広い部屋の窓の前にあるデスクのところで、こちらに背を向けて立っていた。


「ニイナさん……」


 その声に意外な人物が来たと思ったのか、驚いたようにニイナが振り返った。

 祐人はそのニイナの瞼が腫れた顔をみて、つい先ほどまでニイナがどういう状況だったのか推測できてしまう。


「祐人? 祐人が何をしに来たの?」


「うん、アローカウネさんからニイナさんに外に来てもらうよう伝えて欲しいと言われたんだ……」


「…………」


 ニイナは祐人を無視するように、また祐人に背を向け、デスク越しに窓の外を眺める。

 祐人はそのニイナの小さい背中を見つめる。

 そして、祐人はニイナがこちらを見たときに、今、ニイナが懐に隠しているものを見逃さなかった。

 だから、祐人はニイナの考えを改めさせなければと思う。


「アローカウネさんから聞いたよ。グアラン首相のこと……」


 ニイナはその祐人の言葉に一瞬だけ、肩を震わした。


「今、何て声をかければ、良いかなんて僕には分からない。でも、ニイナさんそれだけは駄目だ。その懐に入れている銃をすぐに置いて下さい」


 祐人に指摘されると、顔を硬直させたニイナは振り返り祐人を薄暗い笑みを浮かべながら睨みつける。


「前から思ってたけど、祐人は馬鹿なの? これから私は父の仇をとりに行くのよ? その私が何故、この銃を置いていく必要があるのよ」


 そう言うと、ニイナは表情のない顔で短銃を懐から取り出した。


「ニイナさん……気持ちは分かるけど……」


 祐人がそう言葉を続けようとした瞬間、ニイナは整ったその顔を怒りの形相に変え、祐人の前に走りながら近寄り、祐人の頬を力一杯、その右手で張りつけた。


「気持ちが分かる? 気持ちが分かるですって!? 冗談じゃないわよ! あなたに何が! あなたに何が分かるって言うのよ! 日本っていう平和で豊かな国で生まれた、あなたに!」


 祐人は引っ叩かれた頬をそのまま何も言わずに、涙を浮かべこちらを睨みつけるニイナの顔を見下ろした。


「この状況を見てみなさいよ!」


 ニイナは祐人を睨みながら窓の外に指をさす。


「私の母が! 私の二人の父が! その人生と命をかけて守ろうとしたミレマーの未来を、何の関係もない奴らにめちゃくちゃにされるのよ! それをただ、この三人の娘の私が! ミレマーに生まれた私がただそれを見ていろって言うの? あなたは!」


「……」


「わたしは、このミレマーにこの身を捧げるって決めていたの! 今日、死んだ私の父グアランが、目指した国を実現させるために! だから、私は行かなくちゃならないの! この国と私の三人の親の想いを踏みにじるスルトの剣っていう、ふざけた連中を殺しに!」


 祐人はニイナの鋭い視線を全身で受け、そしてニイナを見つめる。


「無駄だよ。ニイナさん」


「な!」


「ニイナさんが一人、行ったぐらいで倒せるような連中じゃない。ニイナさんが一人、無駄死にして終わりだよ。自分で復讐するなんて、馬鹿なことを考えるくらいなら、今、自分が出来ることを考えることの方がよっぽどまともな考えだよ」


「!」


 祐人の冷たい言葉。ニイナはその事実を突きつけられて、片足が力なく後退る。

 そして今度は祐人が窓の外を指した。


「ただ、一人無駄死にしてそれでいいの? ニイナさんは。 今、ミレマーは確かに大変ことになってる……でも、それこそ、ニイナさんが見てごらんよ、窓の外を! 皆、まだ諦めてなんかいない! 今、外にいる人たちはマットウ将軍を筆頭にミレマーの未来を掴みとろうとしているんだ!」


 ニイナは窓の外で敵妖魔を迎撃するために、せわしく動いているテインタンやアローカウネ、そしてマットウの姿を見つける。

 だが、それを祐人に言われることが悔しくて仕方がない。


「分かってるわよ……」


 ニイナは手に持っている銃を床に落とした。

 祐人はその震えるニイナを見つめる。


「本当は分かってるわよ! 私ごときが行ったくらいで、スルトの剣ってやつらがビクともしないことぐらい! 何の役にも立たないことくらい! でも、どうしたらいいの? どうしたらいいのよ! 母は死んで私の父グアランは殺されたわ! これでこのままミレマーがあの化け物たちに壊されたら、それこそ何のために、父と母は! そして、もう一人のお父様だってこれから戦場に向かうのよ!」


 ニイナは祐人の胸に何度も何度も、拳をぶつける。

 祐人はニイナが今、誰にもぶつけることができない悲しさや悔しさ、そして無力さに涙をしている姿を見つめ、ニイナのしたいようにさせつつ拳を握りしめる。

 祐人は復讐を否定する少年ではなかった。

 自分も復讐に心を塗り潰したことがあるのだ。

 今、ニイナのこの怒りと口惜しさを祐人は理解できる、いや、理解できてしまう。

 それは失ってしまった人間にはもうそれしかないのだから……。


「私で無理なら誰でもいい! 誰でもいいから! あいつらを倒してよ! 倒し……てよ」


 ニイナは祐人の目の前で、膝をつき泣き出す。

 そして、祐人は口を開く。


「じゃあ、誰かに頼めばいい。それが出来る奴に……」


 その祐人の言葉にニイナはハッと顔を上げる。


「ニイナさんは頼めばいいんだよ。全部、自分が出来る必要はないんだから……。ニイナさんの仕事は今後のミレマーを考えることだよ。このスルトの剣を倒すのは他の人間の仕事。だって、これからこの国を良くするのにニイナさん一人では無理なのは分かるでしょう? 国という大きな組織を運営するのは皆で力を合わせなきゃ。ニイナさんは遠慮せずにそれが出来る人それぞれに頼める、という能力が必要だと思うよ」


 ニイナは祐人を見上げ、フッと笑い、立ち上がる。

 そして、祐人の胸に手を当てた。


「ふふふ、何の話をしているのよ、祐人は……」


 ニイナはまだわずかに体を震わせながら気丈に振る舞う。だが、先ほどよりは肩の力が抜けていた。


「ごめんなさい、祐人。祐人は何も悪くないのに、関係ないのを知っているのに……好き勝手言ってしまって……。でも、少し落ち着いたわ……そうよね、祐人の言う通り、これでは何も始まらないわね」


 ニイナは祐人に涙の消えないままの顔で笑って見せた。

 祐人はその顔に少女とは思えないニイナの覚悟を見る。

 それは、最後まで戦うという表情だ。

 それはニイナが仇を討ちたいという自分の心を無理やりコントロールをし、今、ミレマーのために自分のできることをするという決意をしたものだった。


「でも、祐人……一言だけ言っておくわ」


「うん?」


「いい? 出来もしないことを、さも出来るように言うのは偽善よ! 祐人のランクは聞いたわ? ランクDって下から3番目のランクなのよね? それにランクAの瑞穂さんとマリオンさん二人ですら敵わないから、他のさらに上位の能力者と交代するのでしょう? 私の話を聞いてそんな気持ちになったのでしょうけど、それは良くないと思うわ」


 ニイナはそう言いながらも、祐人を責めている感じではない。むしろ、それは祐人へ優しくアドバイスをしているような言い方をする。

 祐人は苦笑いするようにニイナの目を見て頷いた。


「それともう一つ。祐人は優しいわ。すごく優しい。だから私もあなたに甘えて酷いことを言ってしまったの……。でも、祐人、あなたには言っておくけど、何にも得にもならなくて、それをする義務もない事をしようとするのは、ただの酔狂よ? あなたは見ている限り善良で、周りに振り回されることが多そうなんだから、あなたはそれらを断る勇気が必要だと思うわ」


 祐人はニイナの、自分への注意に微笑して、改めて頷いた。


「まったく、ニイナさんの言う通りだね……」


 祐人の言葉を聞くと、突然、ニイナは抑えていた激情が決壊したように大粒の涙を流した。ニイナはその整った顔をクシャクシャにし、大きな声を上げる。


「祐人、ありがとう! 話を聞いてくれて……そして、ごめんなさい! あなたを叩いて」


 祐人は儚げに、だが激しく泣きじゃくるニイナを静かに見つめると、そっと少しだけ自分に引き寄せて、頭を撫でた。


「気にしないで、ニイナさん。僕はこういうのは慣れてますから、大丈夫です」


 ニイナは祐人の胸に額を当てると、震えるように声を絞り出す。


「祐人……私、悔しいの……自分の無力さが! 今、私の三人の親たちの紡ぐ夢が、私と同じだと分かったのに! この4人の夢を関係のない奴らに、滅茶苦茶にされそうなのに! 実の父を今日、失ったのに! 私は何もできない……ただの小娘なのが、悔しい!」


 ニイナは湧き上がる感情を抑えきれず、大きな声で泣き出した。

 祐人はただ、黙り、ニイナが落ち着くまでその小さな頭を撫で続けた。

 数分、そうしていると、ニイナは落ち着きを取り戻し、祐人はそれを見てニイナを静かに放した。


「じゃあ、ニイナさん、外でアローカウネさんたちが待っていますから」


 ニイナは涙を拭くと顔を改めるように、しっかりとした声で返事をした。


「……分かったわ、祐人。ちょっと準備をして庭に行きます。祐人も仕事があるのでしょう? 祐人は先に行ってて。私もさすがにこの顔じゃ、まずいから……」


 ニイナはそう言うと笑顔を作った。

 祐人もニイナに笑顔を返し、ニイナが落とした拳銃を拾い上げる。


「分かりました。じゃあ、先に行ってますね」


 そう言うと、祐人はニイナに背を向けて、部屋を後にした。

 祐人はニイナの部屋を出ると、瑞穂たちのいる部屋の方に向かい歩き出そうとしたその時、祐人に横から声が掛かる。


「どこに行くんですかい? 祐人の旦那」


祐人は声のかかった方向にチラッとだけ視線を動かした。


「ああ、ガストン……ちょっと、やることができたよ」


 いつの間にか廊下の壁に体重を預けているガストンに、祐人は驚くこともなく通り過ぎながら返事をして……フッと笑った。

 ゾクッとガストンは冷や汗が出る。

 ガストンはその祐人の横顔に背筋が凍り、顔を無意識に強張らせてしまった。


(旦那が怒っている……心の底から……)


 そして……ガストンは自分の前を通り過ぎた祐人にさらに質問をする。


「何をしにいくんです? 旦那……」


 祐人は歩みを止めた。

 そして、ガストンに振り返り、普段、優しそうな祐人からは想像できない眼光でガストンの質問に答える。


「僕の偽善と酔狂を貫きに行く」


 ガストンは祐人の答えに震えた。だが、恐怖で震えたのではない。祐人が強い意志で出した、その祐人らしい……自分の主人兼友人の答えに、震えたのだ。

 そして、ガストンは祐人から友人である自分にかけて欲しい言葉を心から待つ。

 祐人はガストンを見つめ、その口を開いた。


「ガストン……」


「……何でしょうか?」


「手伝って欲しい……」


 ガストンはその言葉に自分を抑えられないほどの狂喜というものが全身を駆け巡る。


「いつも、危ないことをするなって言っておいて、勝手な事をお願いしてごめん。でも、今は友達のガストンに頼りたい。ガストンは知ってるんだろう? スルトの剣のいるところを……」


 ガストンは祐人に満面の笑みを見せる。


「もちろんですよ。私は祐人の旦那がそれを聞いて来ると読んでましたからね~。そのスルトの剣はここから北にあるグルワ山の中腹にある洞窟にいます。もちろん、場所の詳細も行き方も調べてありますよ~。いつ行きます?」


「ありがとう……ガストン。今すぐに行きたいんだ、そのスルトの剣という奴らに会いにね」


「分かりました。では、外で車を一台拝借しましょうか」


 祐人とガストンは共に歩き出すと祐人は苦笑いした。


「ガストン、僕は人に説教をしておいて、自分の言葉に気づかされたんだ」


「ほー、何をです?」


「自分に出来ないことは、それが出来る人にお願いしろって……でも、それは僕にも言えることだったんだよ。僕には頼れる友人がいるんだ、ガストン! そしてみんな!」


「は~い、呼んだ? 祐人!」

「お呼びですか? 御館様」

「親分!」

「やったー! 祐人だ!」

「……(コク)」

「呼ばれて嬉しいです~」

「ウガ!」


 突然、廊下に嬌子たちが、現れて心から嬉しそうに祐人を見つめている。

 ガストンもいきなり賑やかになったのには、さすがに驚いた。

 嬌子はガストンを見つけると物珍しそうに寄ってくる。


「うーん? あなたも祐人の友達ね?」


 ガストンは嬌子に、値踏みされるように見られて落ち着かない様子だ。


「そ、そうです、私はガストンと言います。皆さま、初めまして」


 ガストンの自己紹介に玄とウガロンが嬉しそうに寄ってくる。


「あ! あんたか~、一応、あんたの存在は感じてたんだよ! あっしらと同じ仲間がいるってね、よろしく頼みまさ~、ガストン」


「ウガ!」


「な、仲間……は、はい! 今後ともよろしくです」


 ガストンは玄の仲間という言葉に、嬉しそうに返事をする。

 祐人は賑やかにしている、心強い友人たちを見渡すと、傲光が祐人の前に来て跪いた。


「それで、御館様、一体、どんな御用でしょうか?」


 傲光は心なしか生き生きとしたように、祐人を見上げる。


「うん、みんなに頼みがあるんだ」


 祐人がそう言うと、全員が嬉しそうに笑い、祐人に集中する。

 そして、祐人が自分たちに頼みを言うのを、まだかと待っているようだった。


「みんなは、この国の敵召喚士の召喚した妖魔が襲いそうな各都市に行って、この国の、ミレマーの国民を守って欲しい!」


 祐人の頼みに、嬌子は大きく頷く。


「な~んだ、そんなことならお安い御用よ、どこに行けばいいのか、地図はある? それですぐに行けるわよ?」


「地図? この屋敷ならどこかにあると思うけど……」


「あ、ミレマーの地図なら応接室の壁にありますよ、旦那!」


 ガストンにそう言われ、全員でミレマー全体の地図を見に応接室に急ぎ移動し、祐人は嬌子たちにそれぞれの都市防衛を担当させた。

 担当を決めると、嬌子たちの意気が上がる。


「分かった! 祐人! 私たちにまかせて!」


「(コクコク)……まかせて」


 白とスーザンもこれでもかとやる気を出している。

 そこに傲光が改めて跪いた。


「御館様、それでは直ちに現地に向かいます」


「うん、お願い、傲光」


「それで、御館様はどこへ?」


「僕はこの妖魔の大群を召喚した召喚士を叩きに……」


 祐人はガストンに顔を向け頷き、目を鋭く北側に位置する窓の外を睨む。


「グルワ山に向かう!」



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