第76話 作戦
この戦いの前日……出発前のホテルの部屋で祐人は自分が考える敵召喚士と霊力系能力者の連携の方法と今後の作戦を説明した。
「説明の前に……四天寺さん、マリオンさんちょっと僕に近づいてくれる?」
「「え?」」
瑞穂とマリオンは何故か頬を赤らめて祐人の言葉に近づく。
「あ、いや、そんなに近づかなくてもいいから……」
「「!」」
マリオンと瑞穂は、最初は普通に祐人に近づいたのだが、マリオンが一歩前に行くと瑞穂も一歩前に、瑞穂が一歩前に行くと、マリオンも出る、という行動をとったため、やたら二人が祐人に接近することになってしまった。
「マリオン、何やってるのよ……」
「瑞穂さんだって……」
「……えっと、話を進めるね? 今、感じてるでしょ? 僕の霊力を……」
「ああ、これがあなたの……すごい濃密ね……。書類では目を通していたけど……」
「あ、はい。確かに……それに……これはすごい量です……」
「うん……特異体質で出ちゃうんだ……。ほとんどコントロールも出来ないんだけど」
「……これが敵の連携と何が関係してるのよ?」
「うん、敵の霊力の霧だけど……二人はまったくコントロールされた気配がないって言ってたよね? この僕の霊力の質とは違うと思うけど……どこか似てないかな?」
「ああ、確かに祐人さん! これよりはるかに薄いですけれど……このコントロールされていない、漂っている感が似てる気がします!」
マリオンの感想を聞いて祐人は頷く。
「じゃあ、この霊力の広がり方を見てみて」
瑞穂が祐人の周囲3メートルの辺りを一周する。
「円状? に広がっているわ……うん? これは……球状?」
祐人がもう一度頷く。
「そうなんだ。皆は霊力を出すとき、当然だけど同時にコントロールしながら術を完成させるから、気にしてなかったと思うけど、霊力をコントロールせずに広げると……こんな感じになるんだよ。僕の特異体質は例外だから、ちょっと違うんだけど……本来これを実践すると……その霊力の量によって漂う範囲も広がるよ? マリオンさんできる?」
「はい? ええ……やってみます! えーっと……こんな感じでしょうか? ちょっとやったことがないので、慣れませんが……」
すると……瑞穂と祐人はマリオンから霊力が漂うのを感じ始める。
「ああ! 似てるわ! ちょっと、マリオンの方が濃いわね……でもこのコントロールされていない、漂う感じ……」
「うん……今、マリオンさんは霊力をあまり出してないでしょう? だから、広がる範囲もこの部屋ぐらいかな? ただ、これを敵の召喚士と組んでいる霊力系能力者は……おそらく相当量の霊力を出して、やたら広範囲に漂わせているんだと、僕は思ったんだ。あ、マリオンさん、もういいよ」
マリオンは頷いて霊力の発動を止めて、祐人に顔を向ける。
「祐人さん、これで魔力系の敵召喚士は、この霊力の霧の中で感知能力を上げて、多数の妖魔を遠距離からコントロールしてるんですよね? でも……そうなると……敵召喚士は魔力を使って召喚妖魔を感知し続ける限り、微少だとは思いますがダメージを負い続けることになります。それでは召喚士の生命線である集中力が持つんでしょうか……?」
マリオンの言うことはもっともな疑問である。瑞穂もそれは感じていた。
「うん……それは、僕もそう思わなくもないんだけど……。恐らく、この敵はそれを可能にした連中なんだと思う。というのも、そうでないと起きた事象を説明しづらいんだよね。確かに、まだ予想の範疇をでてはいない。でも、可能性も低くないと思う。だから、これを前提に敵に仕掛ける価値はあると思うんだ」
祐人の意見に瑞穂とマリオンは、今までの敵の連携を思い出す。確かに、今はこの可能性にかける価値はあると二人も考えた。
「分かったわ、堂杜祐人。それで……さっきの作戦の説明の続きをしなさい」
瑞穂が促すと祐人は頷いた。
「うん、まず、さっきのコントロールされていない霊力の広がり方を知ってもらったわけだけど、これを利用する」
「え? それはどういう……」
「まあ、簡単な話だけど、敵の霊力は球状に広がっている。敵の連携の方法の仮定が正しいとすれば、敵はこの展開している霊力の範囲内に、僕らと敵召喚士を含ませているのは間違いない」
瑞穂とマリオンは祐人の話に喜色を浮かべる。
「その中に敵の召喚士がいるのね!? それなら大分、敵召喚士の場所を絞ることが出来るわね! それで、敵召喚士のいる場所の特定方法は?」
瑞穂が意気揚々と聞いてくるが、祐人は首を横に振った。
「いや、敵召喚士は探さないよ?」
「は?」「え?」
祐人の言葉に瑞穂もマリオンも呆けた顔をする。
「な、どういうことよ! 堂杜祐人! じゃあ、あなたはさっきから何の話をしてるのよ!」
祐人は、怒る瑞穂にまあまあと宥める。
「僕の作戦の狙いは……霊力系の敵能力者の方だよ」
「「!」」
「正直、この敵召喚士の場所が絞れても、場所の完全な特定は不可能だよ。霊力の漂っている範囲は相当広いと思うんだ。まあ大体の想像では霊力の展開範囲の中で僕らと一番遠い場所にいるだろうとは思うけどね。でも、それでもかなり不確定だよ」
祐人は話を続ける。
「だけど、ここでは球状に広がる霊力の端の3点を確認できれば、この霊力を出している敵能力者の場所は割り出せる。だから、まずこの霊力系の敵能力者を叩く。そうすれば、この厄介な敵召喚士の出どころ不明な召喚妖魔の自由度はだいぶ狭まるんだ。これは護衛する僕らにとってすごく大きいと思う」
「それは……あ! なるほど!」
マリオンは目を広げて声を上げた。
「ど、どういうこと?」
瑞穂は今祐人のの説明でもピンと来てない。
「つまり……祐人さんは球の外面が通る3つの座標を特定すれば、霊力系の敵能力者のいる場所……つまり、球の中心を割り出せる、ということですね?」
「本当なの!? 凄いじゃない! 堂杜祐人!」
だが、祐人は二人からの称賛にちょっと気まずそうな返事をする。
「うん……それが……その通り! と言いたいんだけど……。実はその計算はすごく難しくて僕では解けないんだよね……」
「はあー? ちょっと! それじゃ意味ないじゃない! 褒めて損したわ」
自分のことを棚に上げて、瑞穂は落胆する。
「あはは……」
「た、確かに……その計算は三元二次連立方程式だから……簡単には……その場ですぐに答えを出すとなると。私たちにはちょっと……」
「笑ってる場合じゃないでしょう! じゃあ、どうすんのよ、堂杜祐人!」
「うん、だから……同じ標高の場所での三点を探す」
「……それは?」
「あ! 祐人さん、頭いい! そうすれば……」
「そう! そうすれば、単純な円の計算にできるんだ」
瑞穂はもう……このパターンに飽きてきたのか、イライラしてきた。
「堂杜祐人! もういいから全部説明しなさい!」
「う、うん分かった。まず、僕の予想では敵の霊力系召喚士は恐らく……上空にいる」
「「え?」」
「それは、この霊力を満遍なく漂わせるのには地形的に山が邪魔なんだよ。間に遮蔽物が多いと霊力の広がりが歪になる。例えば、さっき、霊力が球状に広がるって確認してもらったけど、その僕との間に何でもいいけど……」
祐人はそう言うと、部屋の中にある棚を持ち上げて部屋の中心に持ってきた。そして、瑞穂たちから見て、その裏に身を置く。
「今、僕の霊力がそちら側に届きにくくなってると思うんだけど、どうかな?」
「あ!」
「あ、本当です。少し、感じづらくなりました!」
「うん、霊力は遮蔽物を100%透過しないんだよね。皆も何となくで感じてたとは思うけど。ましてや、薄い霊気を漂わせているだけだと尚更だと思う。そう考えると、敵の連携から、僕らと同じ高さにいることはないと思う。効率が悪すぎるからね。周りは大小の山々に囲まれてるんだから、でかい遮蔽物だらけだし……」
さらに祐人は続ける。
「だから、本来は敵の霊力系能力者がいる高さまで割り出したいんだけど、それは計算がややこしいから……同じ標高……同じ高さのところで3点を確認してこの霊力の広がりを面でとらえる。そうすれば、その中心点の……」
ここでマリオンは力強く頷いた。ようやく、理解の追いついた瑞穂も不敵な笑みを零した。
「その真上に敵はいる!」
祐人も力強く頷きで返した。
「でも、これには前提条件があるんだ。まず、敵の霊力系能力者がその場所を移動しないという条件が必要になる。敵は戦況によって、僕らと敵召喚士の場所の最適化を図ってくる可能性が高い。だから、僕らは敵の襲撃があった場所から動かないことが重要なんだ」
「なるほどね……」
「うん、だから敵の攻撃圧力が増しても二人には踏ん張って欲しい。僕はその間に敵を割り出すために……漂う霊力の切れ目のポイントを3点見つけてくるから」
祐人の説明を終えると、三人はお互いに顔を見合わせて。無言で頷きあった。
そして、瑞穂は生気の溢れた顔で胸の前に右手の拳を左手で握りしめた。
「もう、細かいことはいいわ。そこで私は敵に大技をぶちかませばいいわけね……」
こうして、作戦は決まり……祐人、瑞穂、マリオンは敵の襲撃を待つことになった。
今回は、敵の襲撃に合わせるのではなく、敵を襲撃を利用するために……。
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