第20話 三日目
朝は放送の音楽が鳴る前に目が覚めた。起き上がって薫の方を見ると、眠っていた。やった、やっと寝顔が見られた。布団に腰かけ、多分ニヤけてた俺。すると、少し離れた布団から、
「おはよう。」
という声が聞こえた。
「おはよ。」
俺が微笑したままそいつに挨拶を返すと、そいつはふうっとため息を漏らした。
「朝から麗しいねえ。ほれぼれするよ。」
「サンキュー。」
機嫌の良い俺は軽くそう答えた。すると別の奴が、
「何朝から告白してんだよ。」
と言って、
「告白なんかしてないだろ!」
「ムキになるなよー。」
「なってない!」
「なってるじゃんか。ははは。」
と、にぎやかにやり始めたので、部屋のみんなが目を覚ました。そして、放送の音楽が鳴り始めた。
バスに乗り、金毘羅参りへ向かった。階段がたくさんあるので有名な神社で、階段は1368段だとか。杖を貸してくれたり、籠に乗せて登ってくれるというサービスもあるようだが、高校生の俺たちには必要ない。何せ、薫と一緒に登れるのだから、楽しくて仕方ない。もちろん、津田と彰二も一緒だけれど。
観光を終え、今度は電車で瀬戸大橋を渡った。そして岡山で新幹線に乗り換えて京都へ。あと二泊。この京都で絶対に決めるぜ。薫と二人きりになるのだ。
幸い、今度の部屋割りは四人部屋。彰二と津田にどこかへ行っていてもらえば二人きりになれるのだ。宿に入り、イモ洗い状態で入浴を済ませ、夕食を済ませた。今夜は外に買い物に出かけても良い事になっていた。彰二と津田には買い物に出かけてもらって、その間に俺と薫が部屋に二人きり、という計画を立てた。
「じゃあ、行ってくるな。」
彰二と津田は部屋を出て行った。彰二のニヤけた顔がちょっと気に障るけれど、仕方ない。二人の協力には感謝しないと。
「あー、やっと二人きりになれたな。そんなに静かにしなくてもいいし。」
俺がそう言うと、薫は楽しそうに笑った。しかも、珍しく薫の方から俺に抱きついてきた。おお、幸せ。
「薫、好きだよ。」
俺は薫の頭をなでた。
「僕も、」
と、薫が言いかけると、なんと部屋のドアがガラッと開いた。オートロックじゃないのかよ!
「矢木沢くん、UNOしよー!」
どやどやっと、何人か無遠慮に入って来た。なんてことだ。いや、今俺たちがくっついていたの見えてなかったか?自分たちも俺にくっついてくるから、気にしないのだろうか。また俺は誰かにくっつかれている。誰かと誰かと誰かに。だが、今日は薫も離れていかなかった。津田もいないし、行き場がないんだよな、ごめんよ薫。
薫はUNOの間、俺の隣に何とか割り込み、一緒にいてくれた。俺の後ろからくっついてる奴もいるので、俺はさりげなく薫の腰に手を回した。周りからは見えないだろう。でも、そんなんじゃなくて、俺は薫とキスがしたいんだー!心の声。
「はあ?!なんじゃこりゃ。」
彰二と津田が帰ってきて、部屋に入るなりそう叫んだ。せっかく気を利かせてやったのに、と言わんばかりに俺を睨みつけた。俺のせいなのか?俺が悪いのか?
「この狭い部屋に、何人入ってくるんだよ。はい、もう出てってください!」
彰二は一人ずつつまみ出さんばかりの勢いで追い出しにかかった。津田は何も言わずに本当につまみ出していた。
「悪い。ごめん、薫。」
俺は、なんだか悲しいのときまり悪いのとで居心地が悪く、部屋の外に出た。薫が愚痴を言うのを聞いてやってくれ。
部屋を出ても、今は生徒たちの視線がうっとうしく感じられ、そのまま外に出た。街はにぎやかだ。
「あら、お兄さん。これ食べてってー。」
女性に一口サイズの和菓子を渡されて、口に入れた。
「かわいいわねー、どこから来たの?」
などと声をかけられ、愛想笑いだけして立ち去った。また歩いて行くと、コーンからアイスが飛び出してくるようなおもちゃで撃たれた。
「兄ちゃん、イケメンだねー。土産もの、見てってや。」
うーん、街に出ても一人になれない。やっぱり部屋に戻るか。
「ただいま。」
部屋に戻ると、布団が敷いてあった。
「ね、四人でゲームしよう。」
薫が何やらボードゲームを差して、俺に向かってにっこりした。俺はほっとして、布団の真ん中に置かれたボードの元へ座り、四人で楽しく消灯まで遊んだ。鍵をきっちり閉めて、眠った。明日の夜はどこか別の隠れ場所を見つけないといけない。俺はそう心に固く誓った。
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