第5話「New Abrupt Marvelous Ability」

 新しい人が来た。

 冒頭にしてはかなり急な一文だと思う。

 しかしこっちだってかなり急な話だった。

「すみませーん、文スタハウスってここですかー?」

 梅雨時期の昼下がり。

 私はまぁいつもの如くソファで寝ていたのだが、インターホンとともにそう呼ぶ声がした。

「居留守しよ……」

 対応が非常にめんどくさかったので、二度寝をしようとした。

「文スタハウスですよねー!」

 堂々と大声で呼び出しするものだから眠れるわけもなく………

 かと言ってどんな運命のいたずらなのか今家には私しかおらず、つまり私が出るしかないのであった。

「違います………帰って、どうぞ………」

 ドアを少しだけ開け、軽くあしらってドアを閉めようとした、のだが………

「あっはは、嘘はダメだと思うんだけど?杏」

 面と向かって会話し、ようやく思い出した。

 強引かつ無茶苦茶なこの男を。それと同時に、思いっきり閉めたくなった。

「貴方こそ…強引なところは直したほうが良いんじゃなくて?真斗さん……」

 中学校以来だったろうか、この男と会ったのは。

 周りを騒がせて楽しむ愉快犯気質なところは当時からかなり苦手だった。

「うわ、そんなかしこまらなくていいじゃないか、とりあえず中入れてくれない?びしょびしょなんだけど」

 まさかこいつ、無理に追い出せないように傘もささずに来たんじゃないだろうか。

「雨やんだら……帰ってよ?」

 そういいつつ、仕方なく家に上げる。

「はいはーい、今日はみんないないの?」

「残念ながら私一人だよ……えいっ!」

 玄関で濡れた衣服を気にしながら話す真斗に思いっきり洗面所から持ってきたタオルを投げる。

 私の思いきりなんて、たかが知れてるのだけど。

「サンキュー、にしても貧弱だな、ちゃんと食べてるのか?」

 ふわふわ飛んでいくタオルを手に取ると、さっきまでとは転じて優しいトーンでそんなことを投げかけてきた。

「別に……陽太のはメシウマだしちゃんと食べてる………」

 騙されまいと警戒しながら玄関で話す。

 真斗は全然読めない。一体何を考えてるんだろう。

「じゃあ運動だな、食って走って強くなれ」

 ある程度服や頭を吹き終えると、彼もまた私に思いっきりタオルを投げつけてきた。

「脳筋はきらい………へぶっ」

 水分を含み重くなったタオルが素早く顔にヒットする。慈悲も情けもなかった。

「まぁ、文スタの活動はよく見てるし、これからって感じだろ?やり過ぎて倒れないように、俺が面倒見てやるよ」

 タオルにあたふたしてるうちに真斗はそれだけ言って出て行ってしまった。

 訳が分からない。でも、どこかで彼が頼りになるんじゃないかと思ってしまったのも、事実だった。

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