第18話 そして二人は邂逅する

《2025年8月22日 23:24 フダリオ山》


「さあ残り時間から見てこれが最後の挑戦となりそうです。果たしてミツル選手は無事にこの試練を乗り越えることができるのか! 人生をかけた挑戦です!」

「なんでバラエティっぽいんだよ」


 日付が変わるまでおよそ30分。本当にギリギリの時間になってしまった。しかし昼間と比べてかなり動きは良くなってきた。それこそあともう一息というところまで。


「もう雪山は飽き飽きだ。そろそろ街に帰らせて貰う」


 俺は意を決して坂へと足を踏み入れる。すると待ってましたとばかりのキャノンボールボアの群れが襲い来る。

 群れを突破するための動き方は頭で分かっている。あとは体にそれを実行させるだけだ。


「持ってくれよ、俺の体!」


 トップスピードでイノシシの群れに突っ込む。そして先頭の個体をジャンプでかわす。更にガンブレードから銃弾を放って一体撃破。着地地点を作っておく。そして着地と同時にスライディングで群れの作る僅かな隙間に潜り込む。そして正面に来た奴をガンブレードで切り上げる。けれどずっと迎撃するわけにはいかない。このままではやがて群れに押しつぶされるからだ。


「ならこうだ!」


 今度はキャノンボールボアの体すれすれの所を跳ぶ。それと同時に銃弾を乱射。順調に数を減らしていく。そしてキャノンボールボアの背中を利用し、体勢を整えてもう一度ジャンプ、敷き詰められたイノシシの中の僅かな隙間へ到達する。

 そして追撃も流れるように回避して一気に頂上を目指す。


 一度コツを掴んで、勢いに乗ってしまえば自分でも驚くほどにスイスイと体が動く。まるで自分の体じゃ無いように。だからこそ、そのスピードは今までの自分とはまるで違う。本当に何のタイムラグも無く、思考通りにアバターが動いてくれる。これまでには無い感覚だった。

 そしてこのミニゲームを突破するための運動量は果てしなく多い。だからこそ挑戦を始めたばかりの時は成す術も無く死んでいたのが今では少しずつでも前に進むことが出来ている。そして――


「よっしゃアイテムゲット!」


 結局初挑戦から丸一日以上かかってしまったが無事クリアすることができた。この手のミニゲーム通常なら決まったルートがあるところをわざわざ全部ランダムに設定してあったのでかなり苦戦したがやっと群れを回避できる動きというやつをマスターすることが出来た。

 とはいえその分疲労も半端ではないのだが。


「おめでとミッチー。これで晴れて試練クリアだ」

「まったくだよ。あんだけ格好つけといて本当にクリアできなかったらどうしようかってヒヤヒヤしてたけどな」


 俺は頂上の宝箱に入っていた『ギガキャノンボールボアの骨』を持って坂を下りる。流石に帰り道も後ろから襲ってくるということは無く、普通に歩いて下りた。


「それにしても時間ギリギリとはいえ本当に今日中に終わるとはね本当に驚いたわ。本音を言うと頑張って精々明日クリアだと思ってたから」

「俺も10時回ったくらいはぶっちゃけめちゃくちゃ焦ったけどな。今めっちゃホッとしてる」


 正直見栄とか関係無しに今日中に終わらせなければ俺に勝ち目は無いから本当に焦っていた。

 相手がプロゲーマーである以上、充分な事前研究は必須。それも初見の相手となれば最低3日無ければ勝負にもならない。つまり全てにおいてギリギリだったワケだ。ここまでくると自分のスケジュール調整能力の低さを嘆きたい。

 とはいえ、今年の全国大会を目標に掲げてしまった以上、このくらいのハイペースで力をつけなければとても間に合わない。


「まあでもこれでとりあえず基本はできたわけだ。このことに対して対戦相手のプロゲーマーはどのようにお考えで?」


 その時、莉央が見たのは明後日の方向。木々が生い茂っている場所だった。しばらくその場所を注視していると金髪の少女が木の陰から姿を現した。


「気付いていたならさっさと声をかければ良いのに。相変わらず趣味が良くないわね、LIO」

「いやあこういうのはシチュエーションに拘った方が良いと思って。一週間ぶり、クイーン」


 姿を現したのは一週間前にトライビートに向かう途中に出くわした少女、クイーンだ。体そのものは小柄だが、その身に纏うオーラの仕業か随分と大きく見える。真の強者とはこういうことを言うんだろう。

 こうして相対しているだけで汗が出てくるなんて普通じゃ無い。


「心配しなくても場外乱闘なんてする気は無いわ。ただ顔合わせと連絡事項を伝えに来ただけ」

「顔合わせ?」

「ええ、あの時は名乗らなかったから。ここで改めて名乗らせて貰う。私はクイーン、オメガハートのクイーンよ」


 クイーンはゆっくりとこちらへ歩み寄る。そして俺にその小さな手を差し出した。たぶん握手しろということだろう。

 俺は何となく力を込めてその手を握った。すると案の定クイーンも力を込める。といっても力んでいるワケでは無く、あくまで自然体なのだが。


「思ったより力強いじゃない。ATK極振りの賜物かしら」

「そっちこそその体のどこにそんな力があるんだか」


 そんな挨拶もほどほどにクイーンは手を離す。そして俺へと向けて個別テキストメッセージを送信した。

 そこに書かれていたのは決闘の時間と場所。連絡事項というのは間違い無くこれだろう。


「8月24日の午後7時にエクシードマウンテン第1アリーナで勝負。ルールはランクマッチ同様1対1の一本勝負。あなたが負けたらLIOとのコンビは解消よ」

「俺が勝ったら?」

「二人のコンビを全面的に認める。それにそうなったら全国大会に向けたサポートも当然するわ。条件としては悪くないと思うけど?」


 たしかにプロのサポートを受けられるというのは魅力的な話ではある。しかもブランクたっぷりの身だけに普通にやっていても埒があかない。こちらに失うモノが無ければ泣いて飛びついていただろう。


「確かに悪くは無いけど、それ以前に何で俺と莉央のコンビを認めないんだ?」

「そりゃ大事なチームメイトが得体の知れない奴と大型大会出るって言い出したら止めるでしょ。しかも明らかに実力不足なら尚更」

「俺は女の子に寄りつく悪い虫って所か」

「その言い方は私が頑固親父みたいだからなんか嫌だけど……概ねそういうことよ」


 何でお前にそんなこと決められなきゃならないんだと憤りたい気持ちもあるがクイーンの言うこともごもっとも。しかも莉央はプロである以上一つ一つの大会に人生がかかっていると言っても過言では無い。心配になるのはなんら不思議では無い。


 けれど莉央の方からやろうと言ってくれた挑戦を途中で投げる気は無い。

 だからこそ、ここで勝って認めさせて後腐れも無く全国に行く。


「ならやることはただ一つだ。頑固親父に認めさせて堂々と付き合ってやる」

「だからその言い方やめなさい! まあいいわ、とにかく決着は当日つける。あなたの方が強いのならそれで良いし、弱いのならそれまでだわ」


 言葉こそ余裕をかましているがその瞳に宿った闘志には油断のようなものは一切無い。恐らく決戦の日、コイツは全力で俺を負かしに来る。それでも俺は負けるつもりなど毛頭無い。


「絶対勝ってやる」

「返り討ちにしてあげるわ」


 決戦の火蓋は改めて今切られた。

 決着の時は近い。

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