第九十九話 彼女を救う方法

「どうして、ここに?」


 ルチアは、金髪の女性に尋ねる。

 彼女の事を知っているかのようだ。

 金髪の女性は、微笑むだけであった。


「ルチア、知っているのか?」


「うん、幼い頃、育ててくれたの」


 クロスは、ルチアに尋ねる。

 やはり、気になっていたのだろう。

 ルチアの金髪の女性は、知り合いなのではないかと。

 ルチア曰く、幼いときに共に過ごしてきたらしい。

 しかも、親代わりとして。

 だが、見た目の年齢は、ルチアと大差ないように思える。

 と言う事は、彼女は、人間ではなく、精霊か精霊人なのだろう。


「エデニア諸島を守るために、私は、ここに来ました。彼と共に」


 金髪の女性は、説明する。

 エデニア諸島を守るためだというのだ。

 隣にいる金髪の男性へと視線を向けながら。

 金髪の男性は、ただただ、微笑むばかりであった。


「なぜ、貴様がいる」


「どういう事だ?」


 クロウは、金髪の男性をにらむ。

 しかも、彼の事を「貴様」と呼んで。

 クロスも、問いただす。

 まるで、彼らは、金髪の男性の事を恨んでいるかのようだ。

 ここにいることすら、信じられないように思っているのだろうか。


「知ってるの?」


「ああ」


 ルチアは、クロウに尋ねる。

 二人は、金髪の男性と知り合いなのだと悟って。

 クロウは、うなずくが、それ以上は、答えなかった。

 どうやら、金髪の男性と何かあったらしい。

 何があったのか、答えないが。


「私も、同じだよ。罪を償わなければいけないから」


 金髪の男性は、穏やかな表情で答える。

 罪を償う為に、彼女と共にいるようだ。

 それでも、クロスとクロウは、にらんでいた。

 罪を償うと言われても、信じられないのかもしれない。

 許せないのかもしれない。

 ルチアは、聞きたいところであったが、何も問わなかった。

 クロスとクロウの事を気遣って。


「ルチア、ヴィオレットは、まだ死んでいません」


「どうして?」


 金髪の女性は、ヴィオレットは死んでいないとルチアに告げる。

 だが、ルチアは、信じられなかった。

 ヴィオレットは、自分の目の前で、剣を刺し、自害したのだ。

 ゆえに、ヴィオレットは、目を閉じたままだ。

 目覚めることはない。

 ルチアは、そう、思っていた。

 なのに、なぜ、金髪の女性は、ヴィオレットは、死んでいないと断言できるのであろうか。


「この体は、作られた体なのです。宝石が埋め込まれているでしょう?」


「本当だ」


 金髪の女性は、理由を語る。

 今、目の前にあるヴィオレットの体は、作られた体だというのだ。

 その証拠に宝石が埋め込まれてある。

 ルチアも、ヴィオレットの体を覗き込むと、胸元に宝石が埋め込まれているのが、わかった。


「そうだ。私も、確か、宝石を埋め込まれたんだ。戦闘能力を高める為に」


「ええ。体から、魂を切り離して」


 金髪の女性の話を聞いたルチアは、思い出す。

 ルチアも、かつて、宝石を体に埋め込まれていたのだ。

 戦闘能力を高めるためだと説明を受けて。

 だが、今思えば、自分が、なぜ、ヴィオレットに刺されたのに、助かったのか、わかる気がした。

 作られた体であり、魔剣に刺されたから、魂が離れ、聖剣が暴走したから、魂が、元の体に戻ったのではないかと。


「じゃ、じゃあ、ヴィオレットは……」


「まだ、生きているよ。この作られた体から、魂を切り離しただけだからね」


「良かった……」


 ルチアは、恐る恐る尋ねる。

 もし、自分の推測が、正しければ、ヴィオレットは、金髪の女性の言う通り、まだ、生きている可能性があったからだ。

 魂が切り離されただけなのだから。

 金髪の男性は、穏やかに答える。

 ヴィオレットは、まだ、生きているのだと。

 それを聞いたルチアは、安堵し、涙を流した。


「あの、教えて。どうすれば、ヴィオレットは、助かるの?方法は、あるんだよね?」


 ルチアは、涙をぬぐい、金髪の女性に尋ねる。

 藁にも縋る思いで。

 どうすれば、ヴィオレットに会えるのか、知りたいのだ。

 金髪の女性なら知っているのではないかと、悟り、尋ねた。


「ええ、あります」


「どうすればいい?」


「その聖剣を持って、ヴィオレットの体の元へ向かってください。聖剣を掲げ、力を発動するのです。体は、アライアの研究室に保管されているはずです」


「アライア……」


 やはり、金髪の女性は、知っていた。

 ヴィオレットを助ける方法を。

 聖剣を使って、ヴィオレットを助けるらしい。

 聖剣で、ヴィオレットの体を刺すわけではなく、掲げて、力を解放するらしい。

 そうする事で、ヴィオレットは、助かるようだ。

 ただし、ヴィオレットの体の元へ向かわなければならない。

 そうしなければ、ヴィオレットは助からないのだろう。

 ヴィオレットの体は、アライア、つまり、アレクシアの研究室に保管されているようだ。

 「アライア」の名を聞いたルチアは、うつむいた。

 やはり、アレクシアが、体を作り、宝石を埋め込んだのだと、改めて、確信して。


「わかった。ヴィオレットを助ける」


「ありがとうございます」


 ルチアは、強く、うなずいた。

 ヴィオレットを必ず、助けると誓って。

 金髪の女性は、微笑む。

 これで、ヴィオレットを救えると確信したのだろう。


「後、これも、持っていって」


「これは?」


 金髪の男性は、ルチアにある物を渡す。

 それは、赤、青、緑、黄色の宝石だ。

 ヴァルキュリアの宝石に酷似している。

 いや、ヴァルキュリアの宝石に思えてならない。

 なぜ、彼らが持っているのだろうか。

 ゆえに、ルチアは、尋ねた。


「他のヴァルキュリアの宝石。魂が、埋め込まれてるんだ」


「一時的に、非難させたのです。ヴィオレットは、完全に殺してしまったと思い込んでるみたいですけど」


 金髪の男性曰く、ルチアに渡した宝石は、他のヴァルキュリア達の魂が、埋め込まれた宝石なのだという。

 金髪の女性も、続けて、説明する。

 魂をこの宝石に封じ込めたらしい。

 彼女達を助けるためであろう。

 だが、ヴィオレットは、この事を知らず、殺したと思い込んでいるらしいが。


「皆……」


 ルチアは、宝石を握りしめる。

 かつての仲間達の事を思い浮かべながら。


「でも、あの……ヴィオレットの魂が……」


「その事なら、任せてほしい。ちゃんと、助けるから」


 ルチアは、気になっている事があるらしく、尋ねた。

 ヴィオレットの魂は、どうするのかと。

 その事に関しては、考えがあるようで、金髪の男性が、任せてほしいと懇願した。


「本当に、助けるんだな?」


「うん。必ず」


「できなかった時は?」


 クロウは、金髪の男性に問いただす。

 信じられないようだ。

 金髪の男性の事を。

 金髪の男性は、うなずいた。

 クロスは、もし、できなかった場合を尋ねる。

 まだ、信じられないのだろう。


「私を殺せ」


「え?」


 金髪の男性は、失敗した場合は、自分を殺せと告げる。

 ヴィオレットを助けられなかったら、死ぬつもりのようだ。

 これには、ルチアも、金髪の女性も、驚きを隠せなかった。

 静まり返ってしまったが、クロスとクロウは、ため息をついた。


「信じてやる。今は、な」


「ありがとう。クロス、クロウ」


 クロスは、今だけは、信じると告げた。

 一時的にと言ったところであろう。

 金髪の男性は、安堵したようで、お礼を述べた。


「お願いします」


 ルチアは、二人にヴィオレットの事を託し、クロス、クロウを連れて、女帝の間を出る。

 ヴィオレットを助ける為に。

 金髪の女性と金髪の男性は、ルチア達を見送っていた。



 女帝の間を出て、廊下を走るルチア達。

 目指すは、アレクシア、いや、アライアの研究室だ。

 ルチアは、彼女の研究室を知っているようで、クロスとクロウを案内した。


「ねぇ、あの男の人、知り合いなんだよね?何があったの?」


 ルチアは、金髪の男性の事を尋ねる。

 どうしても、気になったのだろう。


「ルチアは、知らなくていい事だ」


「で、でも……」


 クロウは、答えようとしない。

 ルチアには、話したくないのだろうか。

 だが、ルチアは、戸惑った。

 知らなければならない気がして。

 その時だ。

 クロスが、ルチアの肩に触れたのは。


「今は、ヴィオレットを助けることだけ、考えよう」


「う、うん」

 

 クロスは、ルチアに促す。

 今は、金髪の男性の事は、気にしなくていいと言いたいのだろう。

 どうやら、クロスも、話したくないようだ。

 ルチアは、そう、悟り、うなずいた。



 その後、ルチア達は、アライアの研究室にたどり着いた。


「ここだよ」


 ルチアは、研究室に入ろうとするが、鍵がかかっているようで、ドアが開かない。

 よほど、知られたくないのだろう。

 ルチアは、力を込めて、ドアを蹴破った。

 研究室に入ったルチア達。

 研究室の中は、広い。

 しかも、書類が散乱している。 

 アライアが、ここを去った時から、そのままなのだろう。

 誰も、ここに入った形跡がないようだ。

 ルチアは、あたりを見回しながら、ヴィオレット達の体を探す。

 その時だ。

 もう一つの部屋があるのを見つけたのは。

 ルチアは、もう一度、力を込めて、ドアを蹴破り、入ると、ヴィオレット達の体を見つけた。

 それも、結晶の中に入った状態で。


「あったね」


「ああ」


 ようやく、ヴィオレット達の体を見つけたルチア達。

 ルチアは、聖剣を鞘から引き抜いた。


「これを使えば……」


 ルチアは、聖剣を握りしめる。

 聖剣の力を使えば、ヴィオレット達は、助かるのだ。

 そう思うと、居ても立っても居られない。

 ルチアは、聖剣を掲げようとした。

 だが、その時だ。

 クロウが、背後から殺気を感じたのは。


「ルチア、待て!!」


 クロウは、ルチアの肩をつかみ、強引に引きよせる。

 すると、光と闇の刃が、ルチアに襲い掛かろうとしていた。

 クロスが、とっさに、剣を引き抜き、固有技・レイディアント・ガードを発動する。

 そのおかげで、ルチア達は、難を逃れた。

 だが、一体、誰が、発動したのだろうか。

 ルチアは、あたりを見回した。


「た、魂を、魂を……」


 研究所の入り口から、アレクシアが、入ってくる。

 しかも、妖魔の姿で。

 だが、アレクシアは、弱っているように見えた。


「アレクシア!!」

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