弍本目 解決は足の上に、真実は床の下に

「糸玉異能力探偵事務所から来ました。事件現場を見せていただくことになっているのですが」

「あぁ、お話は伺っております。どうぞ、ご案内いたします。」

 事件は会議室では起こっていないので、現場検証に来ている。

「ここが最後だよね、お姉ちゃん」

「えっと...ええ、そうね、ここが最後ね。なにか一つだけでも手がかりが残っていればいいんだけど」

「我が社の沽券にも関わりますから、頑張って探しましょう」

 どことなく他力本願のこの人は、このビルを建てた会社の人らしい。途中でたまたま知り合って、建築に関してアドバイスを貰うために同行してもらってる(という名目で付いて来られた)。


 現場は警察が片付けたようで、基礎部分がわかりやすくなっている。瓦礫は退かされていたが、コンクリートの塊がゴロゴロしている。

「事件の全容は報道されていなかったから、工具で壊したりプラスチック爆弾だったりを予想していたけど」

「まさか地下の土台からとはね…」

 今までのは瓦礫だったり、潰れてたりで、分かりにくかったから、やっと手口がはっきりわかった。多分、他のところもこんな感じだったんだろう。

 ビルの基礎は鉄筋ごと溶けて流れ出し、固まっている。

「ねぇー、ビックリですよねー。私も出勤してきたら、ビルが根元から無くなってるんですから、道間違えたのかと思いましたよー」

 どこか人事のように話すこのビルの社員さんを放っておいて、検証を進める。証拠になりそうなものは全て警察が回収済みだろうが、見ておいて損は無いだろう。

「またヴィーナスー?こんなの、人のできることじゃないし絶対そうだよねー。あー今度こそ普通の、いや普通じゃないけど、ヴィーナス関係じゃない依頼だと思ったのになー」

「ビルを何棟も連続で倒すなんてヴィーナスに決まってるでしょ。それに社長が、魁氏の前科はヴィーナス事件の未遂だったって言ってたし」

「そうだっけ?でもまぁそれなら、本格的に魁さんで決まりじゃない?」

「私も最初はそう思ってたんだけど、でも」

 ガッ、ズザー、ゴトゴトゴロゴロガラガラ

「「うぇっ?!」」

 誰かが瓦礫につまづいて、コケた。その拍子に瓦礫が崩れて大きな音がした。砂煙がもうもうと立ち込める。

「あだたたた、くそーっ、こういうところを雑さが、捜査にも出てるんじゃねーか?!クソッタレめ!」

 人影が降り掛かった瓦礫を除けながら立ち上がる。

「ちょっと、ここは関係者以外立ち入り禁止って入り口に書いてたでしょ!」

「ああ?!うるせーな!めっちゃ関係者だよ!」

 砂煙が晴れてゆく。と同時に人影の顔がハッキリしてくる。

「ああー!!魁さん!ちょっ、か、確保ー!」

 ドタバタドタバタと美浜と社員さんが日国を追いかけ回す。

(十分経過)

「はぁ、はぁ、やっ、やっと、つ、捕まえ、ゲーホゲホっ」

「な、なに、しやがる、いきなり、ハァ、ハァ」

 美浜が日国を捕まえた。というよりは、二人揃ってバテてしまった。ちなみに社員さんは途中五分で脱落。

「っていうか、お姉ちゃんも手伝ってよ!犯人だよ、犯人!」

 手足をバタバタと振って抗議する美浜。

「別に捕まえなくていいって依頼だったじゃない。それに魁氏は犯人じゃないわよ」

 ガバッ

「うっそなんで?!これはヴィーナスだって、さっき言ったじゃん!」

「今日一日なにを見てきたのよ。いい?よく見て、基礎の溶かされたところを。むやみやたらに溶かしたんじゃなくて、必要最低限の重要な箇所だけが溶けているでしょう?」

「ん、確かに、そう見えるね。やたらめったらめちゃくちゃ、というより計画的のように見えるよ」

「ここだけじゃない。恐らく今日まわった全部がこうだったのでしょう。私は昔齧ったことがあるからなんとなくわかるけど、見ただけでどの部分が重要か、なんて魁氏のような素人には分かりっこない」

「なるほど。じゃ、じゃあ真犯人は誰なの」

「さぁ?ところで、そこで伸びてる社員さん。どうして事件現場のビルに居たんです?」

 これだけ長く話をしていたのに、まだ伸びていたのか。どんだけ体力ないのか。

「そ、それは、ですね(ハアハア)じ、上司に、自分たちに、落ち度、は、なかったのか、(ハアハア)調査、して、こい、と言われまして」

「じゃあ、なんで今日一日付いてきてくれたんです?仕事は?」

「それは、行くところ行くところ、私の、目的地と、同じだった、からです」

「もうひとつ質問いいかな?この街であなたの会社が建てたビルって、全部倒されたの?」

「きみのよ…じゃなくて、いえ、あとひとつ、残って、います」

「えっ?!お姉ちゃん、それってつまり……」

「今夜は張り込みね」

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