第12話 朧月夜《おぼろづきよ》
「伊勢……伊勢はおるか?」
「謙信殿、こんな夜に突然お越しになられても……伊勢姫様はもうお休みになりましたよ」
ふくが、答える。
忙しい謙信ではあるが、伊勢を連れ出したあの日以来、時間を見つけては突然、伊勢の部屋へ訪ねてくる。
伊勢姫もあの日以来、頬を染めて謙信を待っている。だが、こんな夜更けに訪ねてくるのは初めてである。
お転婆姫も恋を知ると、こんなおしとやかな乙女になるものかと、ふくには驚きであった。
「……謙信様? 」
伊勢は、すでに横になっていたが、慌てて起き上がった。
「……伊勢。月夜が美しいぞ」
「まっ。謙信様ったら……」
伊勢は、急いで着物を羽織り、縁側に座っている謙信のそばに駆け寄る。
謙信は、持って来た酒を飲み出した。
「謙信様。本当に美しい
「……秋の十五夜もよいが、春の
伊勢は謙信の横に座る。
「寒くはないか? 」
「……くしゅん!」
返事をする前にくしゃみをしてしまった。
謙信は来ている羽織の中に、伊勢を抱える。謙信の温もりの中、伊勢は謙信の胸に頬を寄せる。
「……謙信様」
「……伊勢。知っておるか? 羽衣伝説を……」
「はい。聞いたことがございます。
「そうだ。偶然通りかかった
「うふふっ……天女はさぞかし困ったでしようね」
「若武者は天女を一目見て心奪われるのだ。……天に戻らず、しばらくはこの地に留まるのはどうだ……と天女に懇願する」
「……本当に困った若武者ですね。でも、天女は、若武者と一緒に暮らすことを選ぶのですよね。……きっと、天女も若武者に心奪われたのでしょう。私には……わかります」
「だが……ある日、天女は若武者に
「きっと……こんな
二人は、微笑みながらみつめあう。
謙信は、そっと伊勢の顎を持ち上げやさしく口づける。
「……伊勢。お前を俺のものにしたい」
「……はい」
謙信は、伊勢を抱きかかえ奥の部屋へと連れて行く。
先ほどまで、伊勢が横になっていた床に伊勢を横たえ・・覆いかぶさる。
「……怖くはないか? 」
緊張している伊勢に優しく呟く。
「……大丈夫です」
そっと目を閉じた伊勢に、謙信は優しく口づけし、首筋を愛撫する。
弾けた着物の裾から、伊勢の心をほぐすように熱い口づけが落とされる。
「……謙信様」
とろける情熱の中……伊勢は初めての情事を知る。
二人は、
溢れる思いをお互いの体で感じあった。
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