無職無資格の俺が異世界転生してチートスキルを持ったら

どくどく

異世界転生

「よっしゃー! 異世界転生成功だぁ!」


 俺は目の前に広がる光景を見て、異世界転生に成功したことを確信した。少し白っぽい青空、見慣れない木々、そして地球の動物に似ているけどわずかに異なる動物。遠くに見える煉瓦と土でできたであろう中世風(いつの時代とか知らないけどな!)の建物。

 無職無資格の俺が最後の望みをかけて勝った魔導書っぽい古本。異世界転生物のラノベを周囲に並べて魔法陣を書き、それっぽい呪文を唱える事六十六日。ニートは時間だけはあるから何の苦労もなく、異世界転生に成功した。

 いやいや、待て。ただ異世界転生しただけではないはずだ。そう。チートスキルも一緒にあるはず。


「ステータス……って言えばいいのかって、おわぁ!?」


 異世界転生物のお約束的な言葉を言えば、目の前に展開されるウィンドウ。そこにはこう書かれていた。


『剣スキル:MAX 炎魔法スキル:MAX

 武力:S++ 魔力:S++ 敏捷:S++ 知覚:S++ 運:S++』


 おお、よくわからないけどバッチリだぜ。一般人がどの程度かはわからないが、それなりに強そうなのは間違いない。ふふん、これから俺の異世界転生生活が始まるのだ。三十五年間惨めに暮らしてきたけど、ここから俺の人生が始まるのだ!


「まずは街に行って買い物だな。剣を買ってから冒険者ギルドに登録し、受付のねーちゃんをナンパしつつギルド内で大活躍。新人冒険者と難癖付けてくるベテラン(笑)を軽くいなして喝さいを浴びた後に、ツンデレツインテ金髪剣士と巨乳母性僧侶と無口系ロリっ娘魔術師とハーレムパーティを形成してラッキースケベを繰り返しながら好感度上昇させてハーレムルートを構築しながら女魔王を倒して世界を我が物にする! 完璧だ!」


 うむ。輝かしい未来が見えた。もはや俺の人生バラ色確定! もー、今日はどの娘と夜を過ごそうかなぁ。エロゲ(のみ)で鍛えた俺のテクで幸せに導いてやるぜ!

 こうなれば急ぎ町まで進むのだ。ヒャッホー! 走る俺。途中Monsterらしい気配があったが無視! この俺様の慈悲に感謝するんだな!

 かくして町までついた俺。街ではなく街道沿いの休憩所なのか、門番らしい兵隊はいない。魔物が襲い掛かってくるという世界ではないのか、街の緊張感もそれほど高くはないようだ。


「さて、武器屋武器屋……あれか」


 合計すれば二十にも満たない街の建物。その中から武器屋らしい店を見つけることは容易だった。そこに入り、店の中を見る。剣や斧、槍など様々な武器が並んでいる。武器の価値よくは解らないが一般的な武器屋と言う奴だ。

 まあどうでもいい。たとえなまくらだろうがこの剣スキルマックスの俺が使えば名剣同然。ドラゴンすら両断する伝説に剣に変わるのだ。その時は、まあこの店のことを宣伝してやるか。俺、優しい。


「親父、剣をくれ」

「予算は?」

「この予算内で買える分で」


 異世界転生時になぜか腰にあった袋から金貨を数枚取り出す。チートスキルと言い至れり尽くせりだぜ。


「だったらコイツだな。アンタの体格にもぴったりだ」


 武器屋の親父は壁にかかっている剣を持ってくる。片手で持てる剣だ。だったら二刀流とかで良くね? カッコよくね?


「そいつを二本頂こう」

「馬鹿言うな。見たところ盾も鎧もまだ買ってないんだろうが。服で戦うとか死んじまうぞ」

「心配いらないさ。俺は天の剣の天才だからな!」


 びしっ、と親指で自分を指差す。決まったぜ。

 親父は何故か困った顔をして、渋々もう一本の剣を持ってくる。バカは死ななきゃ治らないなぁ的な表情だ。おい、三十五歳ニートを舐めるな。人の悪意とか読むのは得意技だぞ。

 ちっくしょう、せっかくこの店の宣伝もしてやろうと思ったのにやめだ。そもそも女じゃない時点でマイナス評価なのに。ここしか武器を売っている店がないから我慢してやっているのにその態度は万死に値する。俺がこの国の英雄になった暁にはこんな店――


「んじゃ二本な。帯剣許可書を見せな」


 潰してやる………………は?


「たいけんきょかしょ?」

「は? あんたまさか許可書もないのに武器を買おうとしたのか?」

「はあああああ!? なんで武器を買うのに許可書とかいるの!?」


 何故? ホワイ!? どーして?!? ファンタジー世界で許可書とか何!?


「なんでって……そりゃ無許可で武器をもった奴らがいたら夜も眠れないじゃねぇか。武器を持つ以上、その身柄と安全性を確保しねぇと。

 許可書のない奴に売ったら、こっちが捕まっちまうぜ」


 ……………………。

 確かに、地球でも刃物持ってうろつくやつはいない。っていうかそれを禁止する法律がある。アメリカでも銃の売買でチェックが必要になるとかそういう話もある。

 いや、でも、異世界ですよ! ファンタジー世界ですよ! そういうものじゃないの!?

 そう無言で訴えるが、親父は困った顔をしてこちらを見返すのみ。『お前常識知らないんじゃね?』と言う顔だ。三十五歳ニートの得意技がこんな感じで役立つとは皮肉なものだ。

 ともあれ、許可書がないと変えないという事実はひっくり返りそうもない。ならその手順を踏むまでだ。クエストとかそう思えばいいや。


「で、その許可書ってどうやったら貰えるの?」

「んなもんも知らないのかよ……。初等学校卒業後、剣術教習所に一年行ってその後に試験を受けて合格すれば――」

「試験!?」


 胸に鉛のような重い物が圧し掛かる。その、その言葉はニートには重すぎる……。

 いや、それ以前だ。一年も教習所に行くとかないわ! そんな我慢できるならニートとかやってねぇーよ!


「いや、試験て言っても教習所でほとんど問題が出るから真面目に通えば誰でも――」


 真面目に、通う。

 むりだわー。ぜったいむりだわー。

 俺は絶望に満ちた顔で親父に背を向け、そのまま重い物を胸に抱えて外に出た。


「……はは、まあチートスキルがすんなり使えればラノベにならないしな。『あるけどつかえない。でも有事になれば仕方なく使って大逆転!』……おお、王道だ。よし、この設定でいこう。

 となると表の顔は剣士じゃなく魔術師だな。普段は天才的な魔術師。魔術師の弱点は近接戦闘。ならば懐に入って――と来た所を弾き飛ばして一言。

『残念だったな。俺は剣も使えるのさ』……よし、これだ」


 困難を前に屈せず前を見る。ふふん、これこそラノベ主人公。俺って素質あるじゃん?

 よし、ならば魔法だ。どの程度の威力か試してみよう。街中でやるのは危険だから町外れまで移動して……。


「『我が魔力に導かれし紅蓮の炎。魔人となりて赤き鉄槌を大地に穿て!

 終撃・滅却邪龍斬エンドオブフレイム!』


 厨二ノートから適当な単語を引っ張って呪文にする俺。ふ、かっこいいぜ。

 熱が手の平に生まれ、炎が発生する。それは瞳を開け、意思があるかのようにこちらに振り向いた。


『本日は炎魔法をお使いいただきありがとうございます。

 お客様は炎の精霊と未契約のため、魔法を使用することが出来ません。契約後、改めてご使用ください』


 ああ、精霊と契約しないと魔法が使えない世界か。異世界あるある。


「分かった。では契約しよう」

『了解しました。毎月魔力を○○ポイント捧げる初期プランと、上限××℃以上の炎を使っても定額の冒険者プラン。お仲間さんすべてが炎魔法を使えるようになるパーティプランとありますがどれにしますか?」


 ……なんかスマホみたい。まあいいや。先ずは初期プランにしよう。困ったらプラン変更すればいいし。


『了解しました。初期プランですね。契約二ヶ月以内は召喚料無料とさせていただきます。

 ではお客様の魔法許可書のIDを教えてください。ID登録後、五分以内に契約書が――』


 んんんんんんんんんんんんんんんんんん?

 なに? ここでも許可書!? 魔法使うのに!?


『無許可で魔法を扱うものがいれば治安が悪くなりますので、一定の信頼と居場所を把握できる相手でないと魔法の使用許可はできないことになっておりますので』

「……ちなみに、許可書を得るにはどうすれば?」

「魔法学校卒業後、二級魔法試験に合格して頂ければ――』

「お前もか、ぶるーたす!」


 俺は泣きながらその場を後にした。

 なんだよこれ!? なんだよこれ!? この世界でも無資格者は冷遇されるのか! 実力があっても資格がないと認めてくれないのか!

 …………ふ。そうだよ。実力を示せばいいんだよ。資格なんかなくても俺にはこの溢れんばかりのステータスがあるんだからなぁ!

 野良モンスターを狩ってお金を手に入れて、それでのし上がってやる! そうとも、俺はこんな程度じゃ負けねぇ! 俺を認めなかった世間に認めさせてやる――


「モンスター狩猟許可書がないので、換金できません」


 モンスターの素材を持って帰ってきて言われた一言で、俺の心はぽっきり折れた。

 所詮、この世は資格なのか……。


 ◇     ◆     ◇


 その後、俺は資格を取るために一から勉強をする――わけもなく。

 運:S++を利用してゴミをあさって食べ物を得て、空き家や施設の隙間で寝泊まりする生活を送っている。

 予定通りにはいかなかったが今更資格とかまっぴらごめんだし、食うには困らないので良しとする。

 いつか、俺の実力が必要になる日が来れば大逆転。無色無資格転生者がチートする日々。そんな明日を夢見て今日もゴミ箱を探る。

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