【22+滴】血と血2
優也はどこまでも続く真っ白な世界で目覚めた。寝てもいなければ両手両足を縛る錠も無い。辺りを見回してもどこまでも続く白。何もない。
首を傾げながらも優也は仕方なく歩き出し、しばらく歩くと突然どこからともなく声が聞こえてきた。
「汝、我が力を求めし者か」
突然の低く禍々しい声に戸惑いつつも辺りを見回し声の主を探す。だがその姿はどこにもない。
「誰ですか?」
「知りたい?」
あまり期待はしていなかったものの一応尋ねてみると待ってたと言わんばかりにすぐさま声が返ってきた。しかもそれはさっきとは打って変わり高めの陽気な声で、ハッキリと聞こえた場所が分かる。
その声がした左後ろを慌てるように振り返ると、そこにはローブを着た骸骨が立っていた。これまでの人生で出会った事があるはずもないその姿に優也は思わず大声で一驚し尻餅をついてしまう。
「あっはっはっは! おもろいな兄ちゃん」
そんな優也の反応に骸骨は無いお腹を抱えて大笑いすると、近づき手を差し出した。
「大丈夫かいな」
「あぁ、はい」
真っ白で細く無駄な肉どころか肉が欠片もない手を掴み立ち上がる。
「さっきの『汝が』ってやつ一度やってみたかってん」
「そう……なんですか」
状況についていけず優也は適当な返事をした。
「どやった?」
「どうって……いいんじゃないですか?」
「せやろせやろ! 雰囲気出取ったやろ」
完全に気圧されていた優也だが、そんなことは気にせず陽気な骸骨は一頻り笑った。そして笑いが治まると今度はやっと名前を名乗り始めた。
「俺はドナや。お前さん、吸血鬼の力が欲しいんか?」
「はい」
「なんでや?」
「助けたい人がいるんです」
「おぉ、愛やな~」
ドナは若干ちゃかすようにだが感心を見せながら言った。
「まぁ、ええで。やるわ」
「え? いいんですか?」
そのあまりにもあっさりとした返答に優也は戸惑いを隠せないでいた。
「ええよ。欲しいんやろ?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
意外そうな表情を浮かべながらも一応お礼を言い頭を下げる。その間も腑に落ちないというわけではないが、何故だか素直に喜べないような不思議な感覚が優也をモヤモヤとさせていた。そんな雰囲気をドナは感じ取ったようだ。
「なんや?」
「いや、もっとこう厳しい試練みたいなのがあるのかなと」
「試練? ないない! 全然あげるって。ほな、準備ええか?」
「は、はい」
相変わらずの軽い口調のドナは軽く広げた手を優也の胸の前に伸ばす。胸と手とには触れない程度の隙間があった。
「そうや、俺は試練とか無しにあげるんやけど、受け取れるかはお前さん次第やからな」
聞き覚えのあるような言葉を口にすると、何かを言う隙も与えず胸に手を着けた。
するとドナから優也へ、赤い血が勢い良く移動し始める。ドナの白い腕の上に出来た幾つもの赤い線は一斉に優也の中へと入っていった。
そしてあっという間にドナの腕から線が消え血が全て入り終えると、次は体内から焼かれるような痛みに襲われた。あまりの痛みに耐え切れずその場に蹲る優也。それはコンダクターから与えられた痛みの比ではなかった。
「今、吸血鬼の血がお前さんの体を住みやすいようにしとるから頑張って耐えや」
焼かれるような痛み、串刺しにされているような痛み、臓器を捻り潰されるような痛み。様々な痛みが巡り優也を襲う。そんなあまりの痛みに意識が飛びそうになるが更なる痛みがそれを許さない。
休憩のように数分に一回、数十秒だけ訪れる痛みが止まる瞬間があった。だが余韻の相手をしているだけでそんな時間もすぐに過ぎ去り、また新しい痛みが体を襲う。
時間の感覚などとうに無く終わりの見えない痛みの中、悶え苦しみのた打ち回る優也。時折、鼻や口からは血が溢れてきた。更には目からも血涙が流れ始める。
するとそんな優也の前に銃が一丁落ちてきた。
「えらい辛そうやな。一発だけ入っとる。それ使うたら楽になれるで」
だが優也はそんな銃に見向きもせず耐え続けた。それからの時間は永遠とも思えるほどの長さだった。精神はもう分けが分からないほど消耗していたが、そんなことなど知らん顔の止むこと無い痛みは続く。
優也の限界はすぐそこまで来ていた。
そしてもう何度目になるか分からないが痛みが止んだ時。痛みの残像の中でとうとう彼の手が銃を手に取る。朦朧としながらも握り締めた銃を見つめていると頭の中では使用を促す悪魔の囁きが響く。
疲労しきった精神はそれに従い銃口を蟀谷へと導いた。仰向けになりながら右手で蟀谷に突きつけた銃。親指でハンマーを引き、人差し指が引き金に添えられる。
そしてゆっくりと人差し指に力が入っていった。
「俺はやりたいこと頑張ってこいって送り出したんだよ。勝手に死ぬな!」
「ゆー君ならきっと出来る自分を信じて! 大丈夫、辛いことが続いてもいつかは終わる。そしてまた、掛け替えのない時間が訪れるから」
まだ諦めていない自分が見せたのか真守と愛笑が怒りに励ましに来てくれた。大切な二人の存在に思わず口元が緩む。
「ごめん」
――バンッ!
呟いた直後、辺りには銃声が鳴り響いた。
だが煙の上がる銃口は何も無い空へ向けられていた。直後、銃を持った右手は力尽き地面へとその身を倒す。
すると手を伸ばせば届きそうな距離でノアが自分へ向け、手を差し出しているのが見えた。それが幻影だと分っていてもその差し出す手に思わず左手が伸びる。しかし手が届く前に優也の意識は途切れ、その手に触れたくても触れられなかった左手は右手を再現するように地面へと落ちていった。
そんな優也の頭上まで来たドナ。ゆっくりと静まり返ったその顔を覗き込んだ。
「六条優也。やっと来たで。これでアイツも報われるとええけど。とりあえず代理やけど
表情を作る筋肉も皮膚もない顔が笑みを浮かべた。
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