第30話

まだ産まれてから4日ぐらいしか経ってないのに、娘はずいぶんと大きくなった。

毎日お乳をたくさん飲んで、よく眠ったからかもしれない。

でも、娘はいつも部屋の真ん中で寝る。

わたしだってたまには横になりたいなって思うけど、娘が真ん中を占領してるんでなかなか難しい。

お乳吸われて少し疲れてるけど、娘の寝顔を見てたらもう少しがんばらなきゃって思う。


娘は少しずつ言葉を覚えてきて、話が出来るようになってきた。

「おかあさん、ご飯っておいしいの?」

そうね。たるちゃんがご飯食べられるようになったら一緒に食べようね。

でも、残さず食べられるかな?

そのときはわたしが残した分食べればいいのか。


部屋の仕切りは棒が1本だけ。

娘は廊下に出て遊べるようになってる。これはチョイナさんのとこも一緒。

まだミニーちゃんと娘の成長具合に差があるから仕切りはつけたままなんだって、壁さんが教えてくれた。

ずっとつけたままでもいいんだけどね。

まだ、娘を目の届くところに置いておきたいもの。


「おかあさん、外で遊んでもいい?」

娘が遠慮がちに聞いてきた。

いいけど、お母さんが見えるところにいるのよ。

そう答えると、娘は廊下に出た。


部屋の右側に出れば娘は見える。

でも、左側に行けばわたしの方からは見えない。

娘が左側に出るたび、わたしは戻っておいでって前がきをした。

それで戻って来てくれるから、わたしも少し安心してた。


でも、この時は違ってた。

娘はミニーちゃんとお話しをしてたみたいで、わたしの声が聞こえてないみたい。

だんだん心配になってきた。

「じきに戻ってくるから心配せんでええやで」と壁さんは言うけど、やっぱり心配。


仕切りの棒は高いとこにあるから、もしかしたらくぐれるかもしれない。

前がきをしながら、少し屈んでみた。

もう少しで出られるかな……。


ズボッと音がして、わたしも廊下に出られた。

もー、早く帰ってこなきゃダメじゃない。

娘にそう言って、部屋に戻ろうとしたんだけど。


今度は入れない。

部屋の中で壁さんが「やっちまったなぁ……」って苦笑いしてる。

横を見たら、チョイナさんとミニーちゃんがびっくりしてる。

すぐにチョイナさんには頭を下げに行った。

「仕方ないねぇ。人間が来るまでしばらくのんびりしてたらいいよ」と、チョイナさんも苦笑いしながら言った。

お言葉に甘えて、わたしは右側の物置になってる部屋に行った。

そこにはわたしの大好きなルーサンが積んである。

娘を気にしながら、わたしはここぞとばかりにルーサンにかぶりついた。


そうこうしてるうちに、時々わたしの世話をしてくれるお兄ちゃんがやってきて、わたしたちを部屋に戻してくれた。

続いてお兄さんもやってきた。どうやら、「カメラ」の向こう側で連絡があったみたい。

壁さんが教えてくれた。


部屋の明かりが消えて、娘は横になった。

わたしも隙間を見つけて横になる。

すると、娘がにっこりと笑いながらこう言った。

「おかあさん、お外、楽しかったね」


うん、そうだね。

また遊ぼうね。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

娘の成長がうれしかった。

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