第168話 なお、何を食べたいか聞いたら何でもいいよと言われるけど適当なものを提案すると却下されるとする
私は生体アームズであるキキが呼び出しに応じないという危機を迎えていた。そんなところでダジャレしなくていいんだよと思いつつ、何か手立てがあるという先生をじっと見つめる。
彼はラーフルを撫でながら言った。
「ごめんという気持ちを込めて、アームズのイメージに近いものを呼び出すんだ」
「え……?」
「今後、お前がキキを呼び出す為にどのような条件があるのかはまだ分からない。ただ、今回はそうしろ。枠は念のため3つ設けてある。ラーフルやキキも生きているとは言えアームズだ。トリガーを介して、その謝意はきっと伝わる。だから呼び出すものはなんでもいいんだ。ただ、それなら媒介となりそうなものを呼び出した方が一石二鳥だろう」
彼はつらつらとそう述べると、撫でられて耳がくしゃっと折れたラーフルが何故か誇らしげな表情をして鼻息をふんすと鳴らした。何? いきなり可愛いのやめてくれる?
「優人がぼく以外の何かを呼び出すとき、「お前を呼び出さなくてごめん」って感じるんだ。ぼくが言うと、”せっとくりょく”がすごいでしょ?」
「そう、だね」
ニコニコとそう告げると、首を捻って鬼瓦先生の太ももに頭をぐりぐりし始めた。私は、キキとはこういうコミュニケーション取るのは、ちょっとやだな。もうちょっとドライに仲良くしたい。
しかし、これでどうすればいいかは分かった。私はキキにごめんと伝えなければいけないんだ。きっと、キキをイメージした、何かかっこいいものを呼び出せば、より気持ちが伝わるだろう。
彼女と言えば炎だ。燃えるような赤い体に、吐き出される炎。これほどイメージカラーがはっきりしている者も居ないだろう。あ、志音は茶色ね。できるだけうんこっぽいやつ。
「先生、炎と言ったら、何が思い浮かびますか?」
「炎か? ライターとかはどうだ」
「それは火だよね」
ラーフルは笑顔で先生につっこむ。なかなかいい案だと思っていたらしい、先生は一瞬表情を曇らせたが、すぐに腕を組んで「ならばどうする」と言った。
「ごめんねって気持ちを伝えるには、彼女をイメージした何かを呼び出す以外にも方法はありますよね」
「なんだ?」
「彼女の好物を呼び出すんです。気持ちは伝わるし、出てきたときに美味しいものを食べられるし、一石二鳥だと思いません? 儀式の供物的な」
「なるほど……して、その好物とはなんだ?」
「知りません」
「駄目じゃんかー!」
ラーフルはむすっとして声を上げた。可愛いね、ポケットに入れて連れて帰りたい。そんなことしたら鬼瓦先生に殺されそうだけど。
「そうだ!」
「どうした?」
「キャンプファイヤーの木組みとライターを呼び出すのはどうですか!? 枠は3個あるんだし、2つ使っても大丈夫ですよね!?」
「あ、あぁ……それは問題ないし、悪くない案だと思う、が……」
先生は気まずそうな顔をして私から視線を逸らした。彼が何を言いたいのか、おおよそ見当がつく。つまりこういうことだろう。
「それらを私に呼び出せるかって話になってきますよね」
「そうだ。まきびし以外のものを呼び出したことは?」
「一学期の中間テストで、ダウジング装置を」
「あれは素材がそうだっただけでまきびしだったろう」
「あとは、その前にも情報記憶合金のコアを」
「あれも素材がそうだっただけでまきびしだったろう」
「揚げ足取りするのやめて!」
「優人はホントのこと言っただけだよ!」
ラーフルが困った顔でフォローに入る。この会話で気付いてしまった。というか薄々気付いていたけど、改めて思い知らされてしまった。
私、まきびし以外のもの呼び出したことなくない……?
私は頭を抱えた。そして理解した。なんとなく成功率低いだろうなぁと思ってたけど、こんな私がキャンプファイヤーをイメージしたとしても、どうせ木製のまきびしが現れるだけだ。絶対そう。そんな面白い事態になるのは駄目。ならばどうするか。
発想を変えるの。常人ではあれば、ここで「いい機会だから、まきびし以外のものを呼び出せるようになってから、キキの呼び出しにトライしよう」となるだろう。だけどそれでは駄目。自分でこんなこと言うのも何だけど、それじゃいつになるか分からないし、呼び出しまでの期間が伸びれば伸びるほど、キキのヘソは曲がりまくる。ヘビ花火みたいになる。あのうねうねしたうんこみたいなやつ。いやもうなってるかも。
「先生、私、呼び出すもの決めました」
「ほう……そうだな、ライターくらいならなんとなるだろう。キャンプファイヤーについては別の何か」
「いいえ、ライターもキャンプファイヤーも呼び出しません」
「……なんだと?」
「私が呼び出すのは、これです」
そう言って目を瞑る。自分でも悲しいくらいに強くイメージできるそれにキキのイメージを足す。他のイメージはいらない。この状況で私がやろうとしていることがただ一つの正解であると信じて、それを召喚する!
「はあぁぁぁ!」
現れたのは炎を纏ったまきびし。
成功である。私は燃えるまきびしを呼び出すことに成功した。どうだ、表情でそう語りつつ、一人と一匹を見る。しかし、彼らは怯えるように震え、くっついている。
「ゆーと……急に、人魂が……」
「あぁ……なんて恐ろしいんだ……」
「まきびしです! まきびし!」
二人してお化けが怖いのか。遊園地でお化け屋敷とか入ったらどうするんだ。あ、入らないのか。当たり前だね。
しかし、何を呼び出すのは伝えていなかったので、人魂と勘違いしても仕方がないだろう。私は燃えるそれを空中でヒュンヒュンと動かしてみる。こんな俊敏な人魂嫌だな。
「しかし、自分のアームズとキキのイメージを掛け合わせるのはいいアイディアだ。燃えるまきびしなぞ、当然リアルには存在しない。リアルに無いものをイメージだけで呼び出すのはかなり難しいんだ。リンクが強くなっている証拠でもあるな」
先生は私をべた褒めしながら頷く。そんなに言われると恥ずかしい。でも悪い気はもちろんしない。私はヘラヘラ笑いながら頭を掻いた。
「で、謝罪には応じてくれたのか?」
「あ。謝るの忘れてました」
「むっ!」
鬼瓦先生が口をへの字に曲げて遺憾の意を現している。可愛い。
しかし、呼び出せることは分かったのだ。今度こそ謝意を乗せてアームズを呼び出せばいい。ただ次はない。今度こそ慎重にしなければ。どう謝ろうか考える。もうこれしかない。これなら、きっと許してくれる。
私は両手を合わせて「ごめん!」というジェスチャーをしながら叫んだ。
「キキ、私のキラカード一枚あげるから!」
「どんな謝罪!?」
ラーフルが驚く中、空中に浮かぶまきびしが増える。どうやらアームズの呼び出しには成功したようだ。
私なりに精一杯の誠意を込めて謝罪した。キラカードとかめっちゃ嬉しいじゃん、特にキキは鳥だし、なんとなく光ってるものが好きそう、きっと分かってくれる。私が一人で手応えを感じていると、先生は不思議なものを見るような顔で言った。
「キラ、カード……ま、まぁ、謝罪の仕方は人それぞれだ。それが札井なりの謝罪というなら、それでいいだろう」
「ほんとうかなぁ。ぼくは限度があると思うけどなぁ」
「ラーフルきつくない!?」
「だって、きらかーどって、どうやってここに持ってくるの?」
「あ」
時が止まった。本当だね。どうやって持ってくるんだろうね。いや、待って。違う。この際そういうのはどうでもいいの。分かるかな、ラーフル。
「キラカードをあげてもいいくらい、ごめんって思ってるって意味だから大丈夫」
「それは果たして本当に大丈夫なのか?」
「さて、いよいよキキの呼び出しに移りますか」
「話を逸らすな! 札井!」
先生もラーフルも体が大きいくせに、随分と小さいことを気にする。私は叱責から逃げるようにして、キキの名前を呼んだ。
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