私の好きな映画
青瓢箪
ヒトラーの贋札
◆皆の予想を裏切る天国のような収容所
紹介する作品はアカデミー賞で外国語映画賞を取った作品です。
外国語映画賞はやはり名作ぞろい。
こちらの作品はナチスドイツの国をあげての紙幣偽造作戦(ベルンハルト作戦)を描いた映画です。
原作は『ヒトラーの偽札 悪魔の工房』というノンフィクション作品。
著者はアウシュビッツから移動させられ、実際に作戦に従事させられたユダヤ人印刷技師ブルガーです。
作戦に参加させられた技術者としてのユダヤ人たちはザクセンハウゼン強制収容所の一画に一枚の壁を隔てて、隔離されます。
そこは、壁の向こう側の世界とはまるで違う世界。私たちが想像する強制収容所とは全く異なります。
ふかふかのベッド、人間らしい食事、ピンポンなどの娯楽も許される。
同じ収容所の同じユダヤ人なのに、まるでその一画だけが、別世界。
この作品は偽札、偽造パスポート、贋作のエキスパートであり犯罪者であるユダヤ人画家のサリーが主人公。
そして著者であるブルガーはアウシュヴィッツで生き延びたユダヤ人の一人として登場。
偽札造りをするために様々な技術者が集められる訳ですが、外の世界では敵同士である銀行家と犯罪者であるサリーが、プロとして同じ場に存在するのはなんとも皮肉でした。
『その場でどう順応して生きるかだ』
と言い切るサリー。
彼は今までにも自分の才能を活かし、先々の収容所で狡猾に生き抜いてきました。そして、この工房でも言葉どおり順応するかに見えます。
そんな彼が若き芸術家の卵である青年との出会いで少し変化します。
『(〇〇教授が)良い絵を見るのは処女を抱く時と同じだって』
同じ美大の後輩である彼の言葉に思い出し笑いをするサリー。
やはり、二人は芸術家同士。
サリーを慕う青年に、サリーもいつの間にか彼を可愛がるように。
『終戦するまでは生きていたい』
哀れにも結核を患った青年を、サリーは懸命に救おうと奔走します。
今まで自分のためだけに生きてきたサリーが他者を救うために努力する。
その姿が私は一番印象的でした。
失敗すれば死、という状況。
工房の環境は快適でありながら、常に緊迫感が漂っています。
命を懸けて不眠不休で仕事をやり遂げる者。
ドイツ軍の作戦を妨害するため、命を懸けてギリギリのところでサボタージュする者。
前者代表が主人公であるサリーで、後者代表が著者のブルガー。
正しいのは後者でしょう。
しかし、観ているこっち側からすると、ブルガーが悪者に見えてくるのです。
終戦間際、壁が壊されて中と外の人間がお互いの世界を初めて知る場面は、衝撃的で息を飲みます。
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