透明な小説 -5

 イマニュエルは眠っていた。眠っている間に、どうやったか知らないが榊と接触した。例えるならばイマニュエルの眠りは運転のようなもので、ハンドルを切って自分よりも大きな鉄の塊を動かして自分の想像力の及ばない範囲まで連れて行ってもらうのだった。榊もまた眠りに就いてからすぐ出発し、ゴーストライターを名乗る人物に出会うという目的を持って出発した。今考えているのはいかに原稿を長く長く書くかということであり、しかしそれは彼が考えていることというよりは私が考えていることに近い、とイマニュエルは思った。原稿を書くことによってイマニュエルは原稿料を受け取ることができるが、それによって少しばかり、いやかなり冗長な原稿が出来上がることを承知していた。イマニュエルは、成果物の提出を迫られるギリギリのタイミングを計っていた。そして連絡を避けて東京駅のホテルに泊まり込み、一泊の夜を明かした。それから売れる小説の続きを考えた、しかし文書の美しさで原稿を取ってもらえるとはとても思えなかった。明らかに私の書くものは美文じゃない、イマニュエルはそう思ってハンドルを右に切るような感じで進んでいくと、榊が偶然現れたのだった。それも唐突に。

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