あまたの猫の物語(赤い月なのに……猫のくせに……)
弓月 翼
赤い月なのに……猫のくせに……1
赤い満月の夜は、
不吉だというけれど、
確かに、
みた感じ、
心洗われる清々しさは
かんじられない。
それとは違って、
心ねじられるような、
渇きをおぼえてしまったりする。
けれどそれは、ただのイメージ。
健全な心を忘れないで。
赤い月に、飲み込まれないで。
なにも、起こらないから。
不吉なことなんて、ないから。
ただ、こらえられない叫び声とか、
漏れそうな、心が痛む夜は、
(私と遊んでほしい)
と、ひとり、ほほえむ、
(あなたが、欲しい。)
眠れないベッドで
ごろごろ転がりながら、
あなたが欲しいあなたが欲しい
あなたが欲しい、と、口に出して
小さな声で言ってしまう。
窓の外に
赤い月が、低い夜空に浮かんで、
眼下の街のあかり真近く
触れ合おうとしてみても、
けっして触れることができない。
猫が、
まるで愛する人を呼ぶように
しっとりとやさしくまとわりつくように
にゃ〜ぁ、にゃ、にゃ〜ぁ、と
私の名前を呼ぶのに
私に触れることができないように。
私は、猫なんか、嫌い。
あなたに、逢いたいだけ。
たとえ、今夜が、
外出控えるべき赤い月の夜でも、
あなたに、逢いたいだけ。
猫のくせに、私を呼ぶな。
猫のくせに、やさしくするな。
猫のくせに、甘えさせるな。
猫のくせに、眼を閉じ、泣くな。
私を、寂しそうだと、思うな。
私を、可哀想だと、思うな。
私を、好きになるな。
猫のくせに…………
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