第十話 亡霊と旅商人
前回のあらすじ
少し遅めの灯籠流しを楽しむ三人であった。
三人だけの灯籠流しを朝のうちから済ませてしまい、計画性も何もあったもんじゃないなりに楽しめた。まあもとより私たちの旅に計画性なんてものがあった試しはないけれど。
オンチョさんに別れと感謝を告げるために、オンチョさんがランタネーヨに持っているという商社支部に向かっていたところ、私はふと見覚えのある姿を見かけた。何しろ完全記憶能力持ちのこの私が見覚えがあるなどというのだから、それは見間違いなどではない。
「リリオ」
「なんです? ん? んー……? あれっ」
私がリリオの肩をつついて視線を促すと、それでようやくリリオも気づいたようだった。
そうしてリリオがあっと声を上げるのと同時に、向こうもリリオの間抜け面に気付いたようだった。商人というものは、人の顔を覚えるのも得意なものだからね。
私たちが歩いている先から、のっそりのっそりと重たげな体を揺らして荷を引く大亀、もとい
「おや、まあ、娘さん方じゃあないか。別嬪さんがまた一人増えて、」
「えへへぇ」
「かしましそうでなによりだ」
「もー」
老商人も変わらず壮健のようで、たくさんの荷を積んだ馬車の御者席から、よいこらしょと降りてくる様は、年の割にやはりがっしりとした体つきを感じさせた。
「いや、いや、まさかこんなところで会うとはね。ヴォーストはもう、いいのかね」
「ええ、やっぱり冒険屋ですから、旅に出たくなりまして」
「旅がらすの気持ちはよくわかるよ。これからどこへ?」
「次はムジコへ。それからレモ。南部に入ってはバージョから海路でハヴェノに向かおうと思います」
「河を下った方がバージョまでは速いってのは野暮かね」
「やはり、旅路も楽しみたいですから」
「若いってのはいいことだ。わしはすれ違いで、これからまたヴォーストまで上って、それから辺境まで
北部や辺境では、寒いために蜂がめったにいない。それで
それでも蜂蜜特有の味わいというものがあるから、やっぱり人気は途絶えないようではあるけれど。
「南部では何が売れますかね」
「楓の蜜は変わらず売れるね。あれは風味がいいから」
「土産にいくらかは持ってきてます」
「東部から持っていくとなると、やはり山の幸がいいねえ。茸の干したのなんかはよく売れるよ」
「トルンペートの狙いが当たりだね」
「たんまり採ってきたもの」
「
「
「目利きもいるし、何より数がないと売り物にゃあならないからねえ」
北部や辺境の雪山からとれる
その点、私たちが山で大量に採っては干しておいた茸の類は、やはりいい値で売れるらしい。生の方が希少価値は高いけれど、干した方が味わいも深くなるし、干している間の管理にも手間がかかるから、勿論干し茸の方が高い。
特に私たちは、ただでさえお高い
「ヴォーストで売れそうなものは何かあったかい?」
「うーん、そうですねえ。今年は楓の蜜の出があんまりよくなかったみたいですから、蜂蜜を増やしても大丈夫だと思いますよ」
「フムン、そうかい。まだ少し空きがあるから、増やしてみようかね」
「あとは雪解け水が少なかったですから、
「
「ですよねえ」
長く商売を続けていても、
私も精霊が見えるけれど、それでわかるのはほんのちょっとした質の違いくらいで、あまり具体的なことまでわかるわけじゃあない。同じ値段でちょっといいのを買えるくらいだ。
私は多分、魔法系統の《
同じ《
私たちはしばしそうして歓談してから、至極あっさりと別れた。
久しぶりの出会いに盛り上がるのとは別に、私たちは旅人であるから、それぞれに旅の都合があり、それぞれの旅路があるのだった。
また会えたならそのときもよろしく。
それが旅がらすの挨拶だった。
用語解説
・《
ゲーム内の《
物理攻撃は得意ではないが、多種多様な属性をもつ魔法攻撃を得意とする他、特殊な効果の魔法を覚えるなど、使用者のプレイヤースキルが試される非常に幅広い選択肢を持つ《
・ペイパームーン
ギルド《
《
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