第五話 白百合と超電磁ブレード

前回のあらすじ

ウルウの胡散臭い教えにしたがい新技を身に付けていくリリオ。

事案だ。






「やばい、熱中し過ぎて近づいてるのに気づかなかった!」

「あれだけ騒いでたらそりゃ怒りますよね!」

「ぶぅもぉおおおおおおおおッ!!!」


 ウルウが珍しく盛り上がりに盛り上がってしまったので気付けば私もついつい盛り上がりに盛り上がってしまった結果がこれです。

 以前境の森で見かけた個体よりは小型ですけれど、それでも十分に育った立派な角猪コルナプロが、すでに至近距離でこちらをにらみつけています。


「ウルウ! 離れて――ますね、知ってました!」

「うん」


 すでにくろぉきんぐで姿を消して、木の上に早々に退避してました。

 別に構いませんけど、ウルウあのくらいの角猪コルナプロだったら素手で断頭できますよね。境の森のアレ、ウルウの仕業ですよね。

 まあでも、私にどうにかできる相手で、ウルウの手を煩わせるなんてもってのほか。

 ウルウにはいつだって格好いい私だけを見てほしいものです。


 まあ、問題は。


「ウルウ、格好いいですかこれ!」

「すごい格好いい!」

「でもこれ攻撃できないんですけど!」

「知ってた!」

「ウルウ!?」


 この『超電磁バリアー改』、見た目は恐ろしく格好いいですし防御性能も言うことないなのですけれど、問題は私自身は全然動けないうえに、このバリアーの内側から出られないので攻撃のしようがないってことなんですよね。

 あと何発か連続で攻撃貰ったら、私の方の集中が持たず雷精がばらけてバリアーも解けてしまいます。

 その前に、その前に何か……。


「その前に何か格好いい攻撃方法ないですか!?」

「まだその『格好いい』思考できるのはすごいと思う」


 私がなんとか角猪コルナプロの突撃をバリアーで受け止めている間に、ウルウはうんうんと頭をひねって考えてくれます。おそらく、かなり見た目が格好いいやつを……!


「リリオ、ちょっと考えたんだけど」

「何でしょう!?」

「考えてみたらそれ、私たちの晩御飯になるわけだよね」

「そうですね!」

「あんまり格好良さにこだわると、素材としての価値が落ちるのでは……?」

「はうあっ!?」


 そうでした。

 今元気にこちらに体当たりかましてくる角猪コルナプロは今夜のご飯になる予定なのでした。格好良さで言ったら抜群に格好良い、バナナワニを切り伏せた一撃みたいのをぶちかましてしまったら、折角の食べる部分が蒸発してしまいかねません。


 しかし。

 しかしです。


「こ、ここまでやって……ここまで格好いい感じでやって、地味に仕留めるのはなんか納得いきません!」

「わかる」


 たった一言でしたが、そこには深い深い理解の色がありました。いうなればそれは、ウルウ曰くのところの『わかりみ』というやつだったのでしょうか。


「わかった。派手めなエフェクトでかつ地味にダメージを与えられる技を伝授しよう」

「なんかよくわかりませんがよろしくお願いします!」

「ではまず準備のためにバリアーを解くんだ」

「はい!」


 私は早速バリアーを解き、突撃してきた角猪コルナプロを横跳びに回避しました。

 バリアーがない今、直撃を喰らえば危険です。しかしバリアーに意識を割かなくていい分、避けるだけなら正直楽勝です。ぶっちゃけバリアーなしの方が楽に戦える気もします。しかしそれを言ってはいけないのです。なぜならあれは格好いい技だから。


「まず、刀身に雷精を集めるんだ」

「はい!」

「あ、そんなに集めなくていい。この前のみたいに大量には要らない」

「えっ、あ、はい」


 ちょっとがっかりすると、叱られました。


「馬鹿。何でもかんでも大きかったり多かったりするのがえらいわけじゃない」

「す、すみません!」

「少ないコストでスマートに片付ける。これもまた格好いい」

「な、なんかわかりませんけど格好いい響きです!」


 私は程々に雷精を刀身に集めます。


「ではその少ない雷精にだけ魔力を食わせるんだ」

「うえっ?」

「雷精を増やしちゃいけない。あくまで魔力だけ増やすんだ」


 これにはちょっと困りました。私が魔力を増やせば、それにつられて自然と雷精は寄ってきてしまうのです。なので増やしたり減らしたりは簡単でも、一部にだけ魔力を与えたりというのは、精霊の見えない私にはちょっと難しいです。


「えーと、そうだな。あの、あれ。水鉄砲。水鉄砲あるじゃない」

「あります、ねえっ!」


 角猪コルナプロの突進を剣の腹でいなすようにしてかわし、私はウルウの言葉に耳を傾けます。


「水鉄砲は水の量を増やしても、勢いがなかったら威力が出ないでしょう」

「はい!」

「逆に、水の量が少なくても、勢いがあれば威力が出る。ね?」

「はい!」

「雷精が水で、君の魔力が勢いだ。君の魔力で勢いよく雷精を飛ばすイメージだ」

「ん、んんんん……?」

「お、迷いがいい具合に働いたな」


 魔力を手元に集める。でも雷精には呼ばない。一部の雷精にだけ上げる。水鉄砲。

 私の頭の中でぐるぐるとめぐる言葉の羅列。ぐるぐると迷う思考につられるように、刀身を私の魔力が渦巻きます。私の魔力がぐるぐる渦巻き、剣の中にたまっていきます。そうすると、刀身に纏わりついた雷精のが、ぐるぐる渦巻く魔力にくっついて巡り始めます。


「いいぞいいぞ。その調子だ。十分にため込んだなら後は―― 一撃だ」


 ぱり、と刀身に青白い電が爆ぜました。感覚としてわかります、これ以上雷精を呼んじゃいけない。呼ばなくていい。これで十分なんだ。水鉄砲の感覚。ぐうと水を押すあの感覚。魔力を刀身に押し込めていく。雷精を逃がさず刀身に張り付ける。そうすれば雷精は膨れて、膨らんでぱりぱりと爆ぜはじめる。


「わかりました。これが、この感覚が、水鉄砲の感覚……」


 刀身にぴりりと張り詰めた感覚が生まれます。これ以上は雷精が爆ぜてしまう。爆ぜるのは、ぶつけてからだ。


「ぶぅううもぉぉおおおおおおッ!!」


 角猪コルナプロがその金属質の角をこちらに向けて、刺し殺さんと突進を決めてくる。

 勢いは十分。だから私は踏み込むだけでいい。ただの一刀、すれ違うように一撃決めるだけでいい。


 ただの――、一撃。


「『超…電磁、ブレーェエエエエエエドッ』!!!」


 交差する瞬間、角猪コルナプロの角に正確に刀身が吸い込まれ、そして直撃の瞬間、溜めに溜め込んだが、私の魔力が、雷精を解き放ちます。

 それは瞬間の輝きでした。青白い閃光がぎらりと空を切り、切り刻み、破壊する。

 そして光よりも刹那遅れて、破裂するような轟音が、耳をつんざく。


 どど、どど、と角猪コルナプロはたたらを踏むようにそのまま数歩突き進み、そしてそのままぐらりと倒れこむや、どうと音を立てて地に伏しました。


 私自身いまの交錯で相応の気力と体力を消耗したようで、思わず膝をつきそうになりましたが、なんとかこらえて、角猪コルナプロのむくろを確かめに向かいます。


 反動でぴりぴりとする私が辿り着いたころには、ウルウが倒れ伏した角猪コルナプロを検分しているところでした。

 角猪コルナプロの立派な角は、私の一撃によって根元から叩ききられていましたが、体には傷一つついていません。わずかに額のあたりに焼けたような跡が残りますが、それだって致命傷とは思えないほど軽いものです。


「し……仕留めた、んですか?」

「いや、生きてるよ」

「えっ!?」


 私がぎょっとして剣を構え直すのも気にせず、ウルウは角猪コルナプロの瞼をめくったり、首筋に手を当てたりしています。


「うん、生きてる生きてる。よくやった」

「え……ええ?」

「『超電磁ブレード』だったっけ。本来ならスタンブレードとでも呼ぶべき技だけど」

「すたん、なんですって?」

「ようするにこれはさ、なのさ」

「きぜ、つ……?」


 ウルウは一通り角猪コルナプロの状態を確認すると、いつものようにあのとんでも容量の《自在蔵ポスタープロ》にずるりと引きずり込んでしまいました。相変わらず不気味な光景です。


「雷精ってのはとにかくおっかないイメージがあるけどね、私のいたとこじゃもうちょっと安全な使い方があってね。いやまあ、安全でもないか、スタンガンは。とにかく、いろんな使い方ができる力なんだよ」


 ぽかんとしている私の額を小突いて、ウルウは言いました。


「剣を振るうばかりってのもいいけど、使い方を覚えると、存外いろんなことができるものだよ」


 今日だけで索敵と盾と剣と三種類もの使い方を覚えたのですから、それは非常に頷ける話ではありましたけれど。


「最初に説明してくださいよぉ……」


 私はなんだかすっかり疲れてしまったのでした。






用語解説


・わかりみ

 わかりみが深い。


・『超電磁ブレード』

 リリオは咄嗟だったので同じような名前を付けてしまったが、フィーリングが大事だ。強そうというフィーリングが。

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