第10話 白百合と亡霊の顔
前回のあらすじ
少女の寝顔をおかずに少女の朝ご飯を食べつくし涙する閠。
この地に警察などいない。
連れと言えば連れなのですけれど、
私の方も
というのも、
なんとなく距離感に慣れてきたような、まだ掴みかねているような、そのような具合のまま、私は今日の野営地を決めました。
野営地を決めるときのコツは、火をおこしやすいように開けていること、危険な獣や植物の気配がないこと、またここのように旅人の通る道であれば、野営地として何度も使われているうちにそのあとが残りますから、それを目安にすると楽です。
ゴミ捨て場兼用足しの穴を掘りながら、ふと私は気づきました。
間抜けな好奇心からちらと様子を窺おうとして、そして私は全く突然に
いくら相手が
こうなれば覚悟を決める外ないと、決死の覚悟で穴を掘ったにもかかわらず、ちらっと様子を窺った時にはふらっとどこかへ姿を消していました。
助かりました。助かりましたけど、何とも納得がいきません。見られたいわけではありませんけれど、なんだかこう、空回った感じがすごくします。
なんだか気が抜けてしまった私は手早く用を済ませて、それからそそくさと穴を埋めました。いつもはゴミ捨て用の穴としても使っていますけれど、さすがにその、
無性に疲れたような気持ちを引きずりながらも、せっかくいろいろ手に入ったのでご飯の支度を進めました。
時期を見計らって沸かした鍋で
ふわっと立ち上る爽やかな果実のような香りを楽しみ、私は久しぶりの
私はまず
さて、いよいよ本命です。
私は大きく口を開いて齧り付き、この罪深ささえ感じるほどのうまみに頬を綻ばせました。肉を噛み締めるとまず香ばしく焼き上げた分厚い脂がかりっ、ぎゅっと歯を受け止め、じゅわっとたっぷりの脂を吐き出してくるのです。それに気をよくしてさらに歯を突き立てると、今度はむしろさっくりとした歯応えの肉が受け止めてくれます。脂だけでは少しくどいし、肉だけでは物足りない。
森の恵みは数あれど、森で取れる肉で最もおいしいのは、まず鴨の類といっていいでしょう。
私は半身を丸々平らげて、いつものように残りを朝ごはんにしようと考え、そして待てよと思いました。
ちらとわずかに視線を向けると、そこにはこちらをただ黙って観察している
少しの間考えて、私は残り物を革袋で軽く包み、そしてほんの少し
なんだか気になって寝付けないまま、そっと目を開けてみると、
続けて
そこで私はようやく、
それは初めて見るような異国の雰囲気を持った顔立ちでした。
ほっそりとした顔は紙のように白く、小ぶりな鼻はどこか知的で、薄い唇は
なんだか隠されていた秘密を暴いてしまったような、見てはいけないものを見てしまったような、罪悪感と不思議な高揚に私は動揺し、毛布の中できつく目を閉じて夢の中に逃げ込むほかにありませんでした。
いつの間にか眠りに落ちていた私は、朝起きていくつかの不思議なものを見つけました。
昨夜食べてしまった
私がこの素敵な贈り物の贈り主を探して頭を巡らせたところで、もうひとつの不思議なものを見つけたのでした。
すっかり火の絶えてしまった焚火を挟んで向かい側に、黒いものがうずくまっていたのです。
息を殺して近づいてみると、それは確かに
氷のように冷たいかもしれない。もしかしたら触ることさえできないかもしれない。そんな不安と裏腹に、私の指先はほのかに温かな柔らかい感触に、確かに触れることができたのでした。
私は不思議な感動とともにそうしてしばらくの間彼女の頬の暖かさを指先で味わっていました。
彼女は
でも確かにここにいて、霧や霞のように消えてしまうことなどないのだ。
そのことがなんだか言いようのない安心感を私に与えてくれました。
涙の後の残る頬をもう一度だけ撫でて、私は今日という一日をまた新たに始めるのでした。
用語解説
・甘茶(ドルチョテオ)
甘みの強い植物性の花草茶。
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