こんな勇者はいらないらしい

上叉来 仁志

第1話 8回目

「…イト。カイト!早く起きなさい!」

目が覚めると、30代くらいの女がいる。

ぼんやりとした意識で自分がベットに寝ている事に気づく。

「今日であなたも12歳。あんたみたいな子でも、選別の儀を受ける義務があるのよ。」

女の言葉にイラっとする。

おれを誰だと思っている?

身の程を知らない女だ。

言い返したいが眠気に邪魔される。

「早く支度しなさい!」

そう言うと女は部屋を出て行った。

来たな。

この感覚は転生だ。


どういうわけか、おれは転生を繰り返している。

今回で8回目だ。

転生するタイミングは決まって世界に平和をもたらしたあと。

転生のプログラムは自分でも分らない。


8回の転生で分ったこと。

名前は決まってカイト。

容姿は毎回変わる。

年齢も環境も変わる。

ただ12歳の少年に転生したとしても、その少年の過去が自分で経験したことでもある。


確かなことは分からないが、おれが世界に平和をもたらす、ありがたい勇者であるということは事実だ。


前世で世界を救った記憶に浸る。

我ながら大活躍だった。

そう思うと止まらない。

今までに救ってきた7つの異世界、その冒険のダイジェストが頭で流れる。

その功績をじっくり味わった後、今の世界に目を向ける。


徐々に前世と今世の記憶に整理がついてくる。

思い出した。

さっきの女は母親だ。

ふん

勇者であるこのおれを12年見抜けずにいたとは飛んだ節穴だ。

今に見ていろ!おれが世界を救ってやる。

その時は、皆ひざまづいておれに感謝するのだ。


それにしても勇者の部屋にしては質素な部屋だ。

こんな部屋に長居する気はない。

さっさと行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る