幕間十九ノ二十

 目覚めの瞬間は、ハッキリと感じ取れた。

 その時あの子の傍には居なかったが、何千キロ離れていようと伝わる感覚は、十七年以上前の確信が正しかったと思わせてくれた。これまで自分のしてきた数多の行動が、撒いてきた数々のタネが、ただ人類の敵を増やすだけのものでなかったと安堵する。

 ああ、ついにこの時が訪れてくれた。

 どれほど待ったのか。どれほど望んだのか。どれほど苦労したのか。どれほど悔しかったか。どれほど不安だったのか……短い言葉では言い表せない。されど長々と語るには、今は時間があまりに惜しい。

 思い出に浸るのは止め、今は前を向こう。そう思い、これからについて考える。

 あの子の目覚めのきっかけは、地獄より現れた魔物達に違いない。先の事変は大きな試練だった。何億か、それとも何十億か、途方もない人間が犠牲となった。何より危うく『奴等』が動き出す前に全てが終わるところだった。けれども試練を乗り越え、あの子は大きく成長してくれた。こちらからのアプローチを何度しても、今の今まで目覚めの予兆すらなかったのだから、あの試練がなければ間に合わなかったかも知れない。そう思えば、あの大災厄は必要な『幸運』だったと言えよう。

 ……しかしまだ足りない。

 あの程度では駄目だ。あんなものでは『奴等』に認識すらしてもらえないだろう。もっと、もっと、あの子の本当の力を引き出さねばならない。

 下準備は既に終えた以上、遠回しなアプローチは不要。必要なのは新たな試練だ。されどそれを待つには、残す猶予があまりに短い。それも手頃な相手ではなく、絶対的な、絶望的な相手が必要なのだ。あの子の友では全く相手にならぬ魔物が。しかしそんなものは今、手札にはない。

 唯一その域にあるのは、このちっぽけな我が身一つのみ。

 ならば、この我が身を以てして、恐ろしい試練を与えねばなるまい。

 あの子は恨むだろうか。それとも憎むだろうか。いいや、きっと悲しむだろう。あの子を苦しめてしまうのはとても心苦しい事であるが、必要である以上やらねばならない。もしかしたら憎悪と悲哀の果てに自分は殺されるかも知れないが、覚悟はとうの昔に済ませてある。何時の日かあの子が自分の意図を理解してくれたなら、それで十分……一人で十字架を背負わせてしまう事は申し訳ないが。

 さぁ、行こう。立ち止まってなんていられない。あの子には何もかもを超えた、この星の頂点に立ってもらわねばならぬのだ。

 そうしなければ、この星は終わってしまうから。

 だからやろう。あの子に苛烈な試練を、底のない絶望を、何もかも焼き尽くす憎悪を与えるのだ。












 ボク達の手で人類を、この母なる星を救うために――――






















 第二十章 超越種





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