第5話 ゴミは不要2

「……え?」

 石田と2人、尋ね返すと目を細めて睨まれる。


 すごみが違う。

 さすが、男ばかりの剣道部の中で紅一点でありながら部長を張るだけはある。見たらわかる。すごいやつだ。あの眼力。あかんやつだ。


「捨てる、……とは?」

 伊達がおそるおそる尋ねた。卑怯なことに俺の後ろから尋ねてやがる。


「要らないでしょ、ソレ。邪魔じゃない」

 武田先輩が若干顎を上げ気味に俺達を一瞥した。怖い。目が真剣だ。


「毛利先輩、すぐ戻ると思います」

 石田がうわずった声で返事をし、ぎゅと竹刀袋を胸の前で抱きしめる。「ふぅん」。武田先輩は小さくつぶやき、それから興味なさげにホームの電光掲示板を見た。


「どうでもいいわ、ゴミは。もうすぐ電車が来るから準備なさい」

「あの、ゴミって……?」

 毛利先輩のことですか、それとも毛利先輩の荷物のことですか、と俺は尋ねられず視線だけ忙しなく階段と毛利先輩の防具バックの間で移動させた。


「ゴミはゴミよ。要らない物のことを言うのよ」

 武田先輩は鼻で嗤う。


「あ、あの。毛利先輩を置いていくってことですか……」

 わざわざ石田がゴミが何かを確定させてしまった。


「……一本遅らせませんか」

 石田は果敢にそう提案する。だが、その語尾は潰えた。武田先輩に冷ややかに睨まれたからだ。


「ゴミは置いていくわ。不要よ。錬成に間に合わないじゃない」

「ですが、今日は僕たち、毛利先輩を含めて四人しかいないんです。前田 琉貴亜るきあが休みだから」

 伊達がおそるおそる進言をした。


 今日の錬成会では、石田が先鋒、俺が次鋒、伊達が中堅、副将なしで大将が毛利先輩ということで最初のオーダーを伝えているはずだ。


「ここで毛利先輩を連れて行かなければ、3人では団体が組めても勝てません」

 伊達の言葉に、俺達は一斉に頷いた。


「錬成でしょ? 私がどこかの高校と掛け合って足りない人数を埋め合わせるわ」


「だけど……」

 石田と俺は顔を見合わせた。

 だけど、毛利先輩を置いていっていいものなのか。互いにそんな顔をして見つめ合う。


「ねぇ、はっきりして。あのゴミ、今日要るの? 要らないの?」

 武田先輩は苛立ちを含めてそう言い、「返事は?」と静かに俺達に確認した。その拳が握られる。連日毛利先輩を殴る武田先輩の姿がフラッシュバックした俺たちは、声を揃えた。


「要りませんっ」

 俺達はそう返事をし、ホームの脇に毛利先輩の荷物を放置して、定刻通りホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ。


               ◇◇◇◇


 その日の錬成は、武田先輩が他の高校に掛け合って俺達は混合チームを作り、十戦八勝という戦績を納めた。


 結果的に。

 毛利先輩は要らなかった。

 

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