朱の錆
人にパロディされる。
所作一挙手一投足全てを揶揄、暗喩で馬鹿にされる。
不服であるが不愉快であるが事実世間はそれらを求め、枯渇しきった土壌の吸水率等しくすぐさま笑いのタイフーンがそこかしこで発生し私のキャリア、コネクション、賃金の上げ下げにまで影響する。
そんなつもりで役者になった訳では無い。
ある種私も、人のパロディをアクト、演技で再現しているが、そこに悪意や隠された真実はなく、見たままを受け止めてくれればそれで良い。そう思いながら下らない映画に出たり素晴らしき講演を仕切ってきた。
時にバラエティに出れば、キャリア相当の不遜な出で立ちで司会する者を慌てふためかせ機嫌よく収録を終え、付きのものに用意させた寿司を半分ほど食ったところで付きのもの、マネェジャア、担当メイクなんかに寿司の乾き具合に注意と改善を促し、自宅までの運転手に今日の文句を吐き出しながら偶にどやして退屈にならぬよう一生懸命努力してきた。それをもう五十年ほどやり続けている。自分でも大したものだと自負できる人生であった。
が、最近になって、最近になってというか、若い世代が若くない世代になり、知らない世代が若い世代に移ろいだ時期辺りから如実に、私をコケにするようなコメディアン?落語もせん芸人もどきがテレビ番組で当たり前のように私のパロディ、つまり私の動きのクセなんかを誇張させ、それを以て客前で賞賛を得る輩が増え始め、私に露骨な揉み手をしていた奴らも番組内で高らかに笑い転げている。
恩知らずめが。
私は私の為に私自身の力でここまで五十年やってきて人を助けてやったことさえある苦労の人間であるにも関わらず、どんどんと私のパロディを披露する場、機会、オーディションが鰻登り、詰まりは笑い転げの連鎖が止まらなくなった。
恩知らずめが。
我慢の限界、沸点に達した私はファクシミリで全局、全マスコミに抗議文を出し、世間全体の謝罪を待つことにした。
その抗議文はワイドショーで連日私の沽券に関わるような演出で、やはり馬鹿にしたまま取り沙汰し、みな笑い転げる。
無言で顔を真っ赤に染めた私は運転手を蹴り飛ばし、今現在生放送している番組に直接出てやろうと車を飛ばさせた。
家人は朝の薬がどうだとか叫びながら止めてきたがもうそういう問題ではない。一秒でも早く、築き上げてきたものを守らなければならないのだ。キャリアの番人にならなければならないのだ。女は来るな。
私は朱の顔で馬鹿でかい局舎を怒りでぷるぷると震えながら腕を組みつつ睨みつけて到着を、まつ、
視界が、
白ける。
急に。
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