第27話 麗羅

「え? サーナさんはミスルトゥで育ったんですか?」


「ちょっと違うのよねぇ、それより、もう少し緊張感きんちょうかんってものを持ったらどうかしら? アナタはアタシに捕まってるんだけど? 焦燥しょうそう不安ふあん絶望ぜつぼうが足りないわ」


 そう言われて初めて、ミノーラは自身が落ち着いていることに気が付く。なぜだろう。


 このままでは、精神支配せいしんしはいを受けてしまうだろう。


 それは理解しているのだけれど。彼女にはあまり実感がなかった。


「あの、1つ質問しても良いでしょうか?」


「……アタシの話聞いてた? ねぇ聞いてた? アタシの話を聞かないアンタの話を、どうしてアタシが聞かなくちゃいけないワケ? そこにどんな道理があるってワケ?」


「……ごめんなさい。確かに、そうですね。緊張も焦燥も不安も絶望も特に感じていないです。どうして感じないのか分からないので、教えてもらおうと思いまして……」


「知らないわよ!! そんなことアンタにしか分かんないことじゃないの!?」


 傍から見ると、こうして言い合っている二人はどのように映るだろうか。


 まるで、姉妹喧嘩のように言い合う二人の中から、敵意が薄れていくのに、左程時間は必要ではなかった。


「……アンタ、変わってるよ。アタシが怖くないワケ?」


「怖くはないです。それに、私は別に変わってないですよ。えっと、お名前を聞いても良いですか?」


「え? ……あぁ、えっと、アタシは、その……」


 名前を教えることをしぶっている様子を見て、ミノーラはそれ以上聞くことはあまり良くないのではないかと考える。


 おとなしくあきらめよう。


「あ、えっと、やっぱり大丈夫です」


「うぅぅぅぅぅ……」


 ミノーラの言葉に一瞬寂しそうな顔を見せた影の精。意外と表情豊かなようだ。


「……レイラ」


「……? 良かったんですか? あまり教えたくなかったんじゃ……」


「そんなことない! 何を言ってるのよ! アタシは別に……」


 焦った様子で何やら言っているレイラを余所よそに、ミノーラは彼女の名前を復唱ふくしょうしてみる。


「レイラ……可愛い名前ですね」


「         」


 止むことのないベルのように喚いていたレイラは、黙り込んだかと思うと、足元の影へと潜り込んでいった。


「?」


 レイラが潜り込んでいった場所をしばらく見つめていると、顔だけのレイラが姿を現した。


「……ありがとう」


「もしかして、照れてるんですか?」


 ミノーラがそう告げると、レイラは再び潜り込んでいった。どことなく、頬が朱に染まっているように見えたが、気のせいだと思う。


「影の精もれるんですね」


 どことなく、気分が晴れやかになったミノーラであった。

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