第9話 準備

「そろそろ本題に入りたいと思います。いいですか? サーナ」


 しばらく三人で雑談をした後、サチが提案をした。もちろん、ミノーラもその提案に異議いぎはない。むしろ、いつ本題に入るのかと思っていたところだ。


勿論もちろんさ。異論いろん反論はんろんも無いよぉ」


 そう言ったサーナは一つの首輪を取り出し、ミノーラに装着する。サイズは調整できるらしく、苦しくはない。ただ、少し重量感を感じる。


「これは、クラミウム鉱石を使った首輪だから、一種類のエネルギーによる攻撃に関しては全て吸収してくれるんだよぉ。ただし、あくまでも一種類だからね? だから複数人との戦いとかは気を付けるように」


「クラミウム……? それはどんなものなんですか?」


 ミノーラは聞き慣れない単語に混乱する。と言うか、今のサーナの話はほぼ理解できていない。エネルギーとは何だろうか?


「まぁ、細かい話は道中にでもカリオス君に聞いてみてよぉ。アタシは天才だから、人に教えるのは苦手なんだよねぇ」


 サーナは説明する気が無いらしい。ミノーラの隣に座っているカリオスを指さしている。そんなカリオスは、口元の金具以外は既に解放されている。


 しかし、ずっと座っていた影響か、未だにまっすぐに立つことが出来無いため、座った状態で話を聞いている。


「その男はクラミウム鉱石を加工する技鉱士ぎこうしと呼ばれる人間です。サーナほどではないでしょうが、クラミウム鉱石の基本くらいは知っているでしょう」


 サチのフォローでなんとなく状況を理解したミノーラはカリオスに会釈えしゃくをする。


「よろしくお願いします」


「……」


 声が聞こえていないのか、反応が無い。念のためと思い、彼女は前足を彼のひざへとそっと添えた。


「んんんんんんんん!?」


 ものすごい形相でにらみながら、彼女の前足を払いのけるカリオス。彼の足がよほどひどい状況であることを察した彼女は一言謝罪する。


「ごめんなさい。聞こえてないかと思いまして」


「同情するよカリオス君。さて、君にも武器ぐらいは渡しておこうかねぇ」


 そんなことを言うサーナは何やら棒状の物をカリオスへと手渡した。


「それは籠手こてだよ。ただ、普通の籠手じゃあない! とりあえず装着してごらん?」


 言われるままに右手に装着したカリオスは、手を握ったり開いたりしながら物珍ものめずらしそうに籠手を眺めている。


「右手を前に突き出した状態で、籠手のひじの辺りを見てごらん? 何やら穴があるだろう? その穴がこの籠手の見どころって事さ。実はこの籠手は簡易式のピストルにもなってて、肘の辺りの穴が弾丸だんがんを入れる装填口そうてんぐちになってるんだよ。ちゃんとカバーもあるからね? 専用の銃弾は後で渡すけど、道端の石ころとか、矢とか、そういった物でも発射できるようにしてるから、まぁ、うまく使っておくれ。およ? そんなにきらきらとした目で見つめられてもアタシは原理とか理屈とか教えるつもりは毛頭もうとうないんだけどなぁ……気になる? 気になっちゃう? そうだねぇ、これもクラミウム鉱石を使ってるんだけど、理屈としては……」


「サーナ。それ以上話すなら一時間抱きしめ続けますけど、それでも話を続けますか? そうですか。そんなに続けたいのですか。わかりました。こちらに来てください」


「……話を戻そうかなぁ。ほら、戻すからぁ! いや! やめてぇ!」


 さすがにこれ以上の脱線だっせんは良くないと判断したのか、サチはサーナに続きをうながす。


「ふぅ……はい、続きね、弾を発射する方法だけど…さっきと同じように腕を前にして、左手を右手の甲に添える」


 カリオスがサーナの指示通りに手を動かしている様子をミノーラは眺める。なにやら、添えた左手で甲から二の腕まで籠手をなでるように動かすと、ガチャリと言う音が鳴った。


「そう、そうやって籠手の上部をスライドさせることで弾丸を発射するためのエネルギーを溜めることが出来るんだ。ピストルでは同じようにスライドさせて装填そうてんするけど、この籠手は、エネルギーを溜めてるんだよねぇ。わかるかい? だから、スライドさせる回数が多いほど、弾丸の発射する勢いが上がるってわけさ。くぅー! アタシってなんでこんなに天才なのかな!? あとは、トリガーだね。トリガーはこぶしをにぎめるだけだよ」


 言われるままに、カリオスはこぶしを握り締めたのだろう。低めの音とともに彼の右手が反動で跳ね上げられた。


「そうそう、言い忘れてたけど、空砲とはいえ、溜まったエネルギーを空気が受けるから、腕もそれなりの反動を受けちゃうんだよねぇ。けど、これを利用して攻撃とか移動に使えるかもねぇ」


 こうして話をしているサーナだけでなく、聞いているカリオスでさえも少し楽しげだ。これが技鉱士という人間なのだろうか。


 そんなことを考えていると、「そうそう」とサーナがミノーラへと話しかけてきた。


「ミノーラの首輪にもエネルギー放出用の機構きこうが付いてるからね」


 そういって、彼女はミノーラの首元をもぞもぞといじりだす。


「ほら、ここ。見えるかい?」


 きっと、サーナが話しかけたのはカリオスなのだろう。彼もミノーラの首元を覗き込んでいる。


「ここのボタンを押せば、この首輪に溜め込まれたエネルギーを放出することが出来る。ただし、放出するときは首輪を外すこと! いいかい?」


 分かったとばかりに彼はうなずく。


 それを見て取ったのか、サーナは満足したように満面の笑みを見せた。


「それじゃあ、説明はこのくらいにして、さっそく出発してもらおうかなぁ」


 具体的ぐたいてきな目標を理解していない現状に言いようのない不安をいだきながら、ミノーラは思った。


 何の説明も受けていないのでは…と。

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