雷神雷霆(ヴァジュラ・ボルト)

「くそったれが!!」

「被害状況は!?」

「小破、中破艦多数! 轟沈した艦はありません!」

「なんとか最悪の事態は免れたか……」

「ですが、頼みの貫通魚雷も効果がないとは……」

「やはり、アレしかないか」

「ええ、考えようによっては、この展開は好都合です。こちらが出鼻を挫かれ、及び腰になっているように見せかければ、敵艦隊を十分に引きつけられるでしょう」

「確かに……よし、各艦、敵艦隊に対して牽制の砲撃を行いつつ徐々に後退! 当てなくてもいい! 互いにカバーしながら、ギリギリまで敵を引きつけろ!」

 乱れた陣形を整えながら、人類軍の艦隊が後退を始める。

 少女はというと、ブリッジをあちらこちらとうろうろしながら戦闘の様子を眺めている。デイブも副官も、指揮に夢中でもう彼女に注意を払ってはいない。


 砲撃を行いながらじりじりと後退する人類軍に対し、超天連側もゆっくりと距離を詰めていく。司令官の慎重さ故か、あるいは余裕の表れか。

「クシナガラの準備はどうか!?」

「エネルギー充填、間もなく臨界!」

「これだけ引きつければ十分でしょう。閣下、ご命令を」

「よし、中央付近の艦隊は射線を開けろ! 砲身、展開!」

 陣形の中央部、要塞へと通じる道が開かれ、無数の艦によって遮られていた要塞の姿があらわになる。恒星クシナガラを覆い隠す、鈍色の球体。その表面が、大きく開いていく。さながら、巨大な単眼のようだ。

 その虚ろな眼窩に、黄金の光が瞬く。

「クシナガラ要塞砲ヴァジュラ・ボルト、発射!!」

 星すら砕く、破壊の光が放たれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る