殺人鬼少女リィ

影山 雪奈

殺人鬼少女 リィ

僕の名前はロー。ルカーナ帝国の皇帝候補者で、皇女メアリーの婚約者。僕の姉の名はリィ。気高くて、悪態ばかりつくけど、本当は優しくていい子なんだよ。婚約者メアリーは、優しくてお人好しで国民思いな、皇女様。孤児みなしごとしてリィと倒れていたところを救ってくださったんだ。みんな優しいから、僕は幸せだった。


なのに…………。


リィがメアリーの旧友、リファーを殺してしまった。そして、リィは行方不明になった。リファーの死体は顔が剥がれ、体じゅうにナイフが刺され、真っ白で美しかったワンピースはあかに染まり、ズタズタに引き裂かれ、爪は一つ残らず剥いであった。みるも無残な死体をみて、メアリーは4日間寝込んでしまった。ナイフには、リィの指紋がついていた。


その事件から3日後、今度はメアリーと仲が良かった皇女専属メイド、アンが殺された。同じ様に、顔は剥がれ、体じゅうにナイフが刺され、白くて美しかったエプロンは紅に染まり、ズタズタに引き裂かれ、爪は一つ残らず剥いであった。


その2日後にコックが、5日後に将軍が、7日後に召使いが、9日後に、乳母が……。次々に起こる連続殺人事件を食い止めようと、僕は宮廷魔導師、エミリアンにリィの行方を探ってもらった。


数日後、エミリアンはとんでもない事を僕に打ち明けた。

「ロー、貴方はリィ様かメアリー様。どちらかを殺さなければいけません。」

「なっ!どうして?!僕は2人を殺さなければいけないの?!」

「貴方達の両親や親戚をメアリー様が殺したからです。メアリー様は仕立て屋で働いている貴方に一目惚れして、貴方を宮廷に呼ぼうとしました。だけど、両親がそれを嫌がりメアリー様は口論のすえ近くにあったナイフで2人を殺してしまったのです。罪悪感に狩られる一方、貴方が手に入るという喜びが罪悪感にまさってしまい、殺人をしたという事実を実感しなかったのです。しかし、貴方達は親戚の家に預けられました。メアリー様はその度に殺人を繰り返し、ついに貴方達を孤児にして貴方を手に入れたのです。しかし、この事実が、メアリー様の兄、アラン様にバレてしまったのです。

『このままでは、せっかく手に入れた貴方をまた失ってしまう。』

そう考えたメアリー様はアラン様を殺してしまったのです。しかし、愛していた兄を失ったという事実は大きな罪悪感となり、メアリー様は初めて目を醒ましました。この罪を償う為に貴方達を大切に育てているのです。だから、メアリー様はリィ様を捜そうとしないのです。捜してしまったら、自分が犯した罪がバレてしまいますから。」

「そんな……。メアリーが僕達を孤児にしたなんて……。」

「残念な事に、信じられなくても、それが事実です。おそらくリィ様は何処かでその事実を知って復讐をしているつもりなのだと思います。しかし、罪には罰を与えなければいけません。ですからリィ様を……。」

「でっでも、メアリーは殺されずに罪を償う事が出来たんだからリィだって!」

「はい。リィ様を殺さずに済む方法もあります。」

「だったら(その方法で……)」

「メアリー様を殺すのです。」

「えっ……。」

「メアリー様はアラン様を……兄を殺したから目が醒めたのです。ですから、リィ様も復讐を終える……つまり、首謀者のメアリー様を殺せば目が醒めるでしょう。今すぐに答えを出すのは難しいでしょうから、私は隣の部屋にいます。答えが出たら教えてください。直接手をくださなくても大丈夫です。私がなんとかしますから。」

そう告げてエミリアンは部屋を後にした。

「ロー様、ここにいらっしゃるのですか?」

エミリアンが去ってすぐ、ノックの音がしてメアリーの声がした。僕は扉を開け、メアリーを中に入れた。

「どうしたの?メアリー。」

「実は、貴方に謝らなければいけない事があるの。私、貴方の……

ドン!

「メアリー!!!覚悟!」

大きな音がして振り返ると、リィが拳銃を持って構えていた。その後ろには沢山の兵士がこちらに向かって走ってきている。

パァン!

耳をつんざく様な音がして、リィが腕を抑えて座り込んだ。拳銃がリィの手から落ち、僕の足元に転がってきた。

「馬鹿ね、私に勝てる訳ないじゃない。次は眉間をうつわ。最期に言い残す事は無い?リィお義姉おねえ様。」

何処からとりだしたのか、メアリーは拳銃をリィにむけて、笑っていた。このままではリィが殺されてしまう。しかし、話し合いなんてしている時間もない。どんどん兵士はこちらに迫ってくる。さっきメアリーが発泡したのも見ただろう。どちらかを殺さなければ、二人とも処刑されてしまう。僕は拳銃を拾った。

「リィは僕の双子の姉 「メアリーは僕の婚約者

「リィはわがまま 「メアリーは優しい

「リィはいつも独りぼっち 「メアリーは幸せ

「リィは罪を犯した 「メアリーは罪を償なった

「リィは……… 「メアリーは……

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

パァン!

僕の放った銃弾は、少女の眉間を撃ち抜いた。僕は、少女を連れて逃げ出した。




あれから数日後、小さな家で僕達は暮らしている。

トントン

ノックの音がして、扉を開けるとエミリアンが立っていた。

「結局、あの方を生かしたのですね。」

エミリアンは、料理をしている少女を見つめた。

「はい。僕の大切な人ですから。」

「そう。辛かったでしょう。不本意とはいえ、自ら手を掛けたのは……」

「はい……。でも、大丈夫です。2人で乗り越えます。巻き込んでしまってすみませんでした。」

「いいえ、元はと言えば私が

ビュォォォォォ

強い風が吹いて、エミリアンの言葉がさらわれる。

「すっすみません。聞き取れなかったのでも(う一度)

「なんでもないです。風が強くなってきたみたいですので、そろそろ帰ります。」

「はい。あっ、エミリアンさん僕達がここに居るのはご内密にお願いします。」

「大丈夫です。けっして誰かにお話したりしませんから。それとロー様、敬語を使われる様になられたんですね。」

「はい。もう僕も子共ではありませんから、年上の方には敬語を使うよう心がけています。」

「成長されましたね。初めて会った時はまだほんの小さな子供でしたのに。」

「あれから、15年も立ちますからね。」

「ふふっ、そうですね。ちょうど15年前の今日でしたね、リィ様とロー様が宮廷にいらっしゃったのは……。もう宮廷を出られて、独り立ちされたロー様とはお逢いすることもないでしょうけど、どうかお元気でお過ごしください。さよなら、ロー様。」

「ありがとうございました、エミリアンさん。」

エミリアンは哀しそうに微笑んでこの家を後にした。扉を閉めて振り返ると、テーブルの上に美味しそうな料理が沢山並べられていた。僕が席に着くと、少女は笑って、

「いただきます」

と言って食べ始めた。

「美味しい」

と微笑む少女をみていると僕まで幸せになる。やはり貴女を選んで正解だったと心から思う。だって僕は貴女を…………。


~ end ~

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