8日目
目を開けるとそこは、1週間前に見た光景だった。
ちゃぶ台の上には、蜜柑が置いてあって、にこやかな笑顔でこちらを見てくる男性がいた。
…………ああ、戻ってきたんだ。
「帰って来たんだね。で、どうだった、きちんと君の想いは君の想い人に伝えることができたのかな?」
「はい、出来ましたよ」
「そう、それは良かった」
男性は、微笑みを浮かべる。
私は、この1週間限定でタイムリープしてきた中で最も、悩んだことについて、この人なら知っているかもと思い、聞いてみた。
「すいませんけど、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「僕に、質問?それは、勿論いいよ」
「ありがとうございます」
「で、その質問とはなんなのかな?」
「タイムリープすることによって、未来って変わるんですか?」
私が、何度も悩んだことだった。
誰かの未来を変えてしまうのではないかと。
「未来を変えるか………未来を変えることだってあるし、ないことだってある」
「え?…………じゃあ、私は誰かの………」
「ん?ああ、ごめん、これじゃあ不安になるよね。僕が言いたいかったのは、タイムリープをしている期間内では、未来を変えることはある。だけど、現実に戻ってきた時に、その現実が変わることはないってこと」
タイムリープした期間内では、未来を変える……ってことは、あの時敦君がいるところが変わっていたのは、私が違う行動をしたからであって、今私はいる時間では、未来が変わっていないってことなんだ………
私はほっとした。と同時に悲しくもなった。
誰かの未来を変えることがなかったのは良かったけれど、でも、巫女や美姫とは仲が深まった気がしたから 。
「……そうですか……」
だから、嬉しいことなはずなのに、こんなにも後悔というのか、なんというのかは分からないけれど、でも、それに似た物には違いなかった。
そんな私の姿を見たからだかろう。
「なにか、後悔みたいなことがあるなーって顔してるね」
と、言ってきた。
「はい、…………後悔っていうのかはわかんないんですけど、それに似たなにかを感じています」
「後悔に似た感情か…………友達の中が深まったとかそういうことで、そう思っているのかな?」
「はい、そうです。私が知っている中では、タイムリープした時に比べてそこまでお互いのことを知り合っていなかったですけど、タイムリープ中は、いろいろな話を深いところまで話すことができたので」
「そうか。過去よりも親密な話ができたと。……それは、確かに後悔みたいなものを感じるかもね」
「はい」
確かに、あの時は、昔より仲良くできたかもしれない。でも、それは、今でも可能であるってことを証明するだけのものだったんだと思う。
だって、私がやったことなのだから、私ができないわけがないんだから。
「あ、そうそう、この部屋で不思議に思ったこととかあったりしたかな?」
「…………」
おかしかったところといえば、1つしか思い浮かばない。
「なんで、蜜柑が置いてあるんですか?」
「正解!」
と、男性は拍手してきた。
…………あれ?さっきのってゲームだったの?
「そうだよね。蜜柑がこの時期に置いてあるなんて不思議だよね。でも、この蜜柑こそが、僕の店にはとても大切なものになっているんだよ」
……この店にとって、蜜柑が大切?
私は、わけがわからなかった。
蜜柑が大切ってことが。
「蜜柑のどこがこの店にとって大切なんですか?」
「知りたい?」
男性は、少しにやつきながらそう言ってきた。
知りたいと言うのは、少々癪ではあったけれど、あのそこまで言われたのに、知ることができないって方がよっぽど癪だから聞くことのした。
「知りたいです」
「そっか。そっか」
男性はとても嬉しいそうに言った。
「いやー、毎回こういうふうに聞くんだけど、なんでか皆いいですって断るんだよね。本当なんでなのかな?」
それは、あなたの笑顔が原因だと思いますよ。
よっぽどそれを言いたかったけれど、我満しておいた。
「じゃあ、話すよ。蜜柑ってさ、苦くもあり甘くもあり、酸っぱくもあるでしょ。つまりは、蜜柑っていう果物は、何種かの味覚を感じることのできる果物だと思うんだ。それで、僕はこう店をやっているだろ。過去に戻すことができるって言う。過去に戻るってことはさ、悲しいことも嬉しいことも、大変なこともある、これって蜜柑と似ているでしょ。だから、蜜柑を置いてあるんだ」
蜜柑が店にとって大切と言われた時は、すこし呆れたけれど、その理由を聞いてみると納得した。
蜜柑が、店にとって大切なものであることに。
「えー、どうだったかな?」
「凄くいい理由だったと思いますよ」
「そう。それは、よかった」
私はそのあと、少し男性と雑談をして、料金をしっかりと払い、
「どうも、ありがとうございました」
と言ってから、店を後にした。
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