6日目
──例えば、って言おうとしたけど、俺その小説読んでないから、どんなふうに終わったのか知らないんだよね」
私は、落胆すると共に、さすが斎藤先生だなーと思った。
「じゃあ、この物語のおおまかなあらすじと最後の部分だけ言いますね」
「ありがとう」
「
ですが、ある日誠実は碧に伝えるのです。自分の命があと1週間しかないと。
それで、最後の部分は、やっぱり言わなくてもいいですか、最後はバットエンドなので」
私は改めて、こうして口に出して『君に私の想いが届け!』は、前半部分は、いやもっと言えば最後の章までは、ハッピーエンドにだって出来た小説だと思った。
でも、最後の章でバットエンドにしている。
それは、たぶんこの小説を書いていた時に敦君が死んでしまい、で、『君に私の想いが届け!』という作品の中でハッピーエンドになんかできないそう思って、バットエンドとして書いたんだろう。
「そうか。バットエンドかー。じゃあ、それをハッピーエンドに変えるのがいいと思うぞ」
「ハッピーエンドにですか?」
「そう、ハッピーエンド。ほらよくあるだろ。ハッピーエンドルートとバットエンドルート的なやつがさ。だから………そうだな、ハッピーエンドルートだと思って書けばいいさ」
ハッピーエンドルートか。
それは、確かにありかもしれない。
………でも、どうやってハッピーエンドにすればいいんだろうか。
決してハッピーエンドにできないわけではないのだけれど、ハッピーエンドが書けるのかがわかんない。
………だって、もう敦君は明日死ぬって分かっているのに、そんな状態でハッピーエンドを書けるわけが………
「神林が、なにに悩んでいるのかは分からないけどさ、神林が書きたいことを書けばいいんだと思うよ。その小説は、短編小説として完成しているのかもしれないけどさ、それは、昔の神林が書いた小説だろ。だからさ、昔の自分が持っていた考えと、今の自分が持っている考えは違うのだからさ………そのーなんだ、今の神林が思うハッピーエンドの物語を書けばいいんだと思うよ」
昔の私が持っていた考えと、今の私が持っている考えは違う。
だって、もうこの『君に私の想いが届け!』を書いたのは、もう10年も近く前に書いた小説なのだから。
「先生、アドバイスありがとうございます。おかげで、書けそうな気がしてきました」
「そりゃ、どうも」
私が、この小説をバットエンドではなくハッピーエンドにするために必要なことは、しっかり自分の想いを乗せて書くってことだと思う。
………ハッピーエンド……碧と誠実が幸せになる話………
私は、この1週間今まで体験してきた人生の中でこの1週間が1番濃密だったと思う。
1番濃密だったからこそ、さまざな体験が出来た。
………私が、経験したことを小説に落とし込みたい。でも、どうしよう。
『嬉しいことが、あれば悲しかったことをなくすことはできなくても、軽減することはできると思うからさ、嬉しいことをたくさん見つけよ。琴葉』
ふと、巫女の声が聞こえた気がした。
今ここにいないのに。
さっきの言葉は、私が敦君が死んで間もなくのことだったと思う。
私は、敦君がいなくなったことが相当悲しくて、身体は疲弊していた時ころだったと思う。
巫女が、私の部屋に勝手に入ってきて、私の頭を叩くと、笑顔で言ってくれた言葉だった。
……そっか。悲しいことを嬉しいことで上書きすればいいんだね。
私は、この1週間で嬉しかったことを思い出していた。
……私が1番嬉しかったこと。それは、敦君に自分の想いを伝えることができたこと。それに、1日限定というとても短い時間であったけれど、敦君の彼女になれたこと。
「よし、わかった」
私は、そう呟くとパソコンの鍵盤を打ち始めた。
*
「か、完成した」
やっと、『君に私の想いが届け!』の最終章をバットエンドから、ハッピーエンドへと書き換えることが出来た。
時間を見ると18時30分。
とうに下校時間は過ぎているのだけど、私が必死に書いていたのを見てくれていたからなのか、ずっと私のそばにいてくれたみたいだった。
斎藤先生も疲れていたのだろう。椅子の座りながら船を漕いでいた。
………先生ありがとうございます。
私は、1時間にも及ぶ執筆で1万文字程書いたらしい。
そして、私は、その完成した小説をコピーして、それから小説投稿サイトを開き、ログインをして、小説を投稿するうえで必要なことをやっていく。
そして、投稿した。
題名『君に私の想いが届け!』
文字数 28000文字
投稿時間 18時36分
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