─希望─

目を開けると、そこはさっきとは全く違う、なにもないところだった。

──ここはどこだろう。

その時だった。またあの声が聞こえたのだ。

『どうだったボクが見せてあげた夢は』

と。

──え?夢……あれは夢なの……でも確かに、敦君はいたはずなのに……

『戸惑っている様子だね。さっきのは、あったかもしれない未来だよ』

──あったかもしれない未来。

『そうあったかもしれない未来。君がもし、早く中島敦君がいる病室を訪れることができていればあったかもしれない未来だよ』

──私が早く敦君がいる病院を見つけていればあったかもしれない未来なの、あれは。でも、私は確かに……

『確かに、彼と会ったと言いたいのだろ?でも、可笑しいとは思わないのかい?君が彼と会ったと言っている病院には彼はいなかったのだろ?なのに、なんでその病院の病室で彼と会えたのかな?』

──それは……………

『答えられないんだね。それで、君はこの後どうするつもりかな?』

──どうするってなにを?

『彼、中島敦君のことだよ。今から彼を見つけることができれば、今見せた夢みたいになるかもしれないよ。それはわからないけどさ』

──そうなの?

『そうさ、可能性は無限大にあるんだからね』

……可能性は無限大か……でも私は

──私はどうすればいいの?彼の居場所がわからないのに……………

『君は諦める気なのかな?』

──諦めるってなにを?

『中島敦君を探すことを、君の想い人を探すことをだよ』

──諦めるわけがないでしょ!……でも、分かんないもんは仕方がないでしょ!

私は、また涙が出た。

……なんか最近私泣きすぎだな

『そう。どこにいるか分かんないから仕方がない。確かにそうかもしれない。でも、それは君にとって仕方がないで済ませていいことなのかな?』

──言い分けないでしょ!でも、でも………………………………私には出来ることがないのよ

『本当に出来ることがないかな。それはよく君自身で考えてくれ。もう、そろそろ時間だし、最後に最大のヒントをあげるよ』

──ヒント?なんの?

『中島敦君がいるところだよ』

──彼が、敦君がいるところ?

『そう、中島敦君がいるところさ。それじゃあ、ヒントを言うよ。聞き逃さないように。ヒントは、君の近くにいる。それだけさ』

そして声はなくなった。

……君の近くにいるなんて言われても分かるわけないじゃない……

そして、また私の意識はなくなるのだった。

誰かの温もりを感じた。

それに、自分が大好きな、落ち着く臭いだった。

そして、目を開けて、見上げるとそこには少し不安そうな顔したお母さんがいた。

そして、私と目があった瞬間お母さんは私を抱きしめる力を強くして

「心配したんだからね、急に意識を無くすもんだから………」

「ごめんなさい………」

「別に謝らなくてもいいのよ。でも、今日は早く寝なさいよ」

「……うん」

そして、私は自分の部屋へと戻った。

自分の部屋に入ると私は着替えることなくベットに倒れこんだ。

そして、私はそのまま寝てしまった。

琴葉が寝てから、数時間後に寛貴ひろきは家に帰った。

……琴葉に絶対見つけてあげると言ったが、結局無理だったなー。

寛貴の足取りは、だいぶ重かった。

今日会社で、明日から1年間ベトナムまで主出張だと言われたからと言うことと見つけ出してあげることの出来なかった罪悪感で。

「ただいま………」

もう、琴葉も瑞木も寝てしまったのだろう。

リビングに入ると紅茶を片手に持ちながら、座っていた。

いつもなら、俺も貰っていいか?と言っていただろうが、今日はそういうわけにはいかん。

もし、いつもみたいにしてしまったら、絶対話を切り出すことができないだろうから。

「?どうしたの?そんなところで、突っ立て?」

「ん?ああ、なんでもないよ………」

そして、椅子に座った。

それから、沈黙が続いた。

「寛貴さん……ちょっといいですか?」

君がそう言うときは、大体君は分かっているってことだね。

「いいよ。翠さん」

「実は、もう聞いてしまっているの。寛貴さんが、単身赴任でベトナムへ行くことを」

「そうか……どこから聞いた?」

「さっき電話があってね、急に寛貴さんを異動させなくてはいけなくなったからって」

「そうか………」

「単身赴任してしばらく会えなくなるのは、寂しいけど、頑張ってくださいね」

「おう」

やっぱり、俺はこの人の夫になれてよかったと思う。いつでも、俺のことを応援してくれて、いつでも俺のことを見てくれている。

「うん………それで、琴葉のことだけどどうなりましたか?」

「結論から言えば見つからなかった……本当申し訳ないと思う。見つけやるって言ったはずなのにな」

「そうですか……見つかりませんでしたか………」

「だから、俺はもう探してやることが出来ない……せっかく娘に良いとこ見せることが出来るのにな」

「仕方がないことですよ。人事異動なんて」

「そうだな。上が決めたことには逆らえないからな……」

「はい、だから後のことは任せてくださいね」

「うん、宜しく……」

「じゃあ、私もう寝ますので、お休みなさい」

「お休みといいたいところなんだけど……」

「ん?」

ああ、あれはわかっていらっしゃる……

「そのー、俺と一緒にお風呂に入ってくれませんか」

「ふふ、いいですよ」

こうして、俺の最後の夜は終わっていた。


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