【☆100達成】おっぱい狂いな無敵の英雄

こむらさき

第1話 鉱山の花嫁

「この溢れんばかりの質量…スライムのようにひんやりとして柔らかな肌触り…そしてなによりもその美しい瓜のような楕円の形…素晴らしい…貴女は私の美の女神です…」


 ここは王都から早馬で駆けて5日ほどかかる位置にある山の一角。ここでは貴重な鉱石が取れるとのことで日々鉱夫たちで賑わっているはずだったが数日からこの山は王都から派遣された兵によって立ち入りを禁じられていた。


「身の丈がうんと高い化物が出た。弓も槍も効きやしない…このままでは採掘なんて出来ねえですだ…」


 そんな鉱夫たちからの訴えを聞いた村長は、王都に使いのものを出し、助けを求めた。

 そして、数日後、やっと王都からは兵たちと共に一人の目立つ顔立ちの男が派遣されてきたのだ。


「ああ…美の女神よ。王からの依頼で遥々やってきましたが…これは貴女に出会うための運命の呼び声だったのですね」


 鎧で身を守った兵士たちの輪の中心で、片膝立ちで跪きながら赤く香しい花の束を捧げている見目麗しい金髪碧眼の男性が、兵士たちも一目置くほどの実力の持ち主である。

 その男はとても美しい見た目をしていた。

 彼の肌は、外に出たことのない貴族の生娘のように真っ白で柔らかそうで、その上、陶器のように滑らかで毛穴すらないように錯覚しそうになる。

 弓なりに弧を描いた少し垂れ目がちの大きな目からは、深い海のような鮮やかな蒼い瞳が宝石のような輝きを放つ。

 すっと通った青年の鼻筋の下には、上品さを感じさせる花びらのような薄くて整った形をした唇があり、微笑んで両端の持ち上げられた口元からは綺麗に生えそろった真っ白な歯がちらっと見えた。

 ただの美青年の求婚というだけならば、周りにいる兵士たちが異様な物を見る表情になるはずはない。

 兵士たちを驚かせている理由は、男性の目の前には、身の丈がその男の3倍はありそうな生き物にあった。

 その生き物は、身の丈が成人男性の倍ほどあるだけではなく、筋骨隆々とした体の大半が褐色のゴワゴワとした固そうな体毛で覆われており、毛の生えてない部分…人間でいう胸部から臀部を隠すかのように獣の皮をなめして作ったであろう擦り切れた衣服を身につけている。

 そのような怪物と評するに相応しい生き物が仁王立ちをしている前で、見目麗しい金髪碧眼の男が片膝立ちで跪いて求婚をしはじめたのだ。慣れていない兵士たちは驚いて、剣を構えるどころではない。

 怪物の方も戸惑っているのか、攻撃をするそぶりはなく唸り声をあげて、目の前の男を威嚇するにとどまっているようだ。

 腹の底に響く凶暴な獣を思わせる唸り声は、周りを取り囲んでいる兵士たちには十分効果的だったようで、兵士たちは身を竦ませ、剣を落とすものまでいた。


 しかし、男は唸り声をあげ両手を持ち上げて威嚇をする怪物に一向に怯む様子もなく、ニコニコと微笑んで花束を怪物に差し出したまま怯む様子も怯えた表情も見せない。


「ああ…何を怒っているのかと思えば…自らの名を名乗る前に不躾な真似をしてしまって申し訳ありません。私の名前はルリジオ」


 ルリジオと名乗った男は、立ち上がってうやうやしく頭を垂れた。サラサラと音を立てて絹糸のような細く柔らかな髪が落ちる様子まで息を呑むほど美しい。

 ルリジオは、顔をあげると突然の行動に身を竦ませて驚いている怪物を怯えさせないように、薄い薔薇色の唇の両端を持ち上げながら言葉を続ける。


「ピオニエーレ国で戦士として育ち、竜殺しの称号を持つしがない放浪者です…名も知らぬ美の女神よ…どうかその微笑みを一時私に注いでほしい…」


 自分に対して全く怯えた様子を見せずに、ゆっくりと近付いてくるルリジオに、美の女神と呼ばれた怪物は思わず丸太のようなその腕を振りかぶり殴りかかろうとした。

 周りを取り囲んでいる兵士たちは、怪物にやられてルリジオが死んでしまうと思ってざわめくが、そんなざわめきなど聞こえていないかのように、微笑みを絶やさないルリジオは片手で怪物の振り下ろした手を受け止める。

 そして、相変わらず怯える素振りを一つも見せないまま。受け止めた怪物の手に、自分が持っていた花束を握らせた。


「美の女神よ…私の求婚を受け入れてくれるということでいいのですか?」


 幾ばくか甘さを含んだ声でそう囁いたルリジオは、怪物に抱擁をするために、掴んでいた怪物の手を離す。しかし、彼女?は彼に背中を向けると、一目散に山の奥へと走り去ってしまった。


「待ってくれ…まだ君の名前すら知らない…」


 地面を蹴り、崖を飛び降りて去っていく怪物に対して悲痛な声を出しながら追いかけようと崖に走っていくルリジオを、数人の兵士が肩を掴んで止めようする。

 肩を掴まれたルリジオは、足を止めると眉間にシワを寄せながら悲しげに俯いた。


「ルリジオ様…深追いは禁物です。もうすぐ日も暮れますし、一先ず近隣の村へ戻りましょう」


「そうだね。しつこくして更に嫌われてしまうのも困るし…ね」


 兵士の言葉に、がっくりと肩を落としながら答えるルリジオは、地面に無残に落とされた赤い花束を拾う。

 元気ハツラツという感じで山登りを開始したとは思えないほど、トボトボと悲しげに歩きはじめたルリジオは、兵士たちと共に山のふもとにある村へと引き上げて行った。


 村は小さいとはいえ、鉱山へ働いている男たちや、貴重な鉱石を買い付けに来た商人たちで賑わいを見せている。

 一先ずとはいえ脅威は去った。

 怪物が姿を消したということで、村の人々の多くは酒場に集い、鉱山から戻った兵士たちと祝杯を挙げていた。

 小さな村とは言え、鉱夫や商人で賑わっているからか、華やかで露出の多い踊り子の女たちも少なからずいるようで逞しい男たちや、化け物を退けた兵士たちを褒め称えているようだった。


 その中で一人木のジョッキを手にして項垂れている男がいる。ルリジオだ。

 鉱山を脅かしていた怪物を退けた一番の功労者でもあり、金色の髪と真っ青な瞳、薔薇色の頬と唇に陶器のような真っ白い肌といった絵画で書かれる聖なる神の使いのような麗しい見た目の彼の周りには、とりわけ顔が美しくスレンダーな女性が先ほどから入れ替わり立ち代わりお酒を注いだり体を擦り付けたり、甘い言葉を囁いているようだ。

 しかし、当人であるルリジオは踊り子たちには一切関心を示すことなく、相変わらずがっくりと肩を落として無言で酒を喉に流し込んでいるようだった。


「やはり、このような田舎にいる娘たちなどピオニエーレのような大都市でご活躍をされたルリジオ様のお眼鏡には適いませんか…」


 村長は、花にたかるミツバチのようにルリジオの周りに募っていた女たちを、余所へ追いるとルリジオの隣に腰を下ろす。

 ルリジオは、村長の言葉でやっと俯けていた顔を上げる。

 彼の、涙の跡が薄っすら残った頬と、潤んで少し赤みを帯びた美しい瞳は男色の気さえない村長の胸をも締め付けるような美しさだった。

 鉱山を襲った怪物を退けた英雄は、今にも泣いてしまいそうな涙ぐんだ声で村長に答えを返すために薔薇色の唇を開く。


「恋に破れたばかりではどんな魅惑的なことを囁く相手も、まるで道端に落ちている小石のように思えてしまって…」


 そう悲しげに漏らしたルリジオは、再びジョッキに注がれた酒をあおって俯くのだった。

 さすがに気の毒に思ったのか、老人は手をパンパンと二度叩いて体格の良いふくよかな下働きの者を呼びつけた。そして、下働きのものを屈ませると、その者の耳元でなにかを囁く。


「しかし…それは…」


 下働きの者は驚いた顔をしていたが、老人が視線を向けたルリジオのあまりの悲しみ様を見て思い直したような顔をして、力強く頷いて見せると、再び厨房へと戻っていく。


「わが村の恩人が悲しんでおられるのだ…。恋に破れた心を癒すことは出来ませんが、どうかこれで英気を養ってくだされ…」


 料理が運ばれてきたことを確認した村長がルリジオに声をかける。

 村長の言葉で、鼻をくすぐる良い匂いにやっと気が付いたルリジオが顔をあげる。

 ルリジオが目にしたのは木の実と牛の乳や米、鳥肉のすり身を混ぜ合わせて甘く煮たものが乗せられた大きな木の皿に、猪の肉の塩漬けをこんがりとローストしたものにハーブが添えられた肉料理が乗せられた大きな皿だった。

 下働きの者は、たくましい両腕でそれぞれの皿を片手で持ちながらルリジオの目の前にご馳走を運んでくる。


「これは村で祝いの日に食すものです。どうか勇者様が明日こそは鉱山の怪物をやっつけてくれますように…」


 やけに甲高い声の下働きの者がそういって皿をルリジオの目の前に置いた。

 その料理の豪華さと、良い香りに店の中にいた他の人々からの注目も集まる。


 そこにいる誰もが、ルリジオはその料理を口にし、舌鼓を打ちながら感謝の言葉を口にするだろうと思っていた。

 しかし、その予想は裏切られることになる。

 ルリジオは料理を運んできたふくよかな下働きの者の右手を取りながら片膝を立てて跪いたのだ。


 料理を口にする前に、下働きの者に対してそこまで深い感謝を示すとは…出来た剣士もいたものだと村長や兵士たちが感心しかけた時だった。


「美の女神よ…」


「え…どういうことです…」


 ルリジオから放たれた言葉に、料理を運んできた下働きの者も含めた酒場にいた全員が耳を疑った。


「このような薄汚れた格好や体に合わない大きすぎる服を着ていてもこの私の眼はごまかせません…。大男の手にすら収まりきらないその質量…パンの種のように柔らかそうなその質感…そしてなによりもその弓の名手が放つ矢の軌道のような美しく弧を描く曲線…素晴らしい…私の胸の傷をいやすために天界から遣わされた天女のようだ…」


 ルリジオは、彼女の灰に塗れた右手にそっと口付けをすると潤んだ瞳で目の前のふくよかな下働きの娘を見つめた。

 ざわめく店内、慌てふためく巨体の女性という異常な事態を収めるために我に返った村長は、片膝をついて跪いているルリジオの肩を恐る恐る叩き、しどろもどろになって話し始める。


「申し訳ないが、勇者殿…。確かにこの者は女性であり、女性でありながら力仕事もこなし、とてもよく働いてくれる。しかし…だ…この体格、そしてオークのように上を向いた鼻、魔物に襲われて抉れた傷跡…小さな目…両親も失い、男性と見間違えられるようなこの体躯…醜いと言われ村でも嫁の貰い手はないこの娘をどうしてそのように褒め称えるのだ…」


「でも巨乳ですよ!?」


 ルリジオの真っすぐな瞳に、村長はそれ以上何も返せず、あっけにとられた顔で椅子に座りなおした。

 村の危機を退けた英雄は、目の前の美の女神と呼んだ女性に向き直ると、どこからか取り出した銀色に光る指輪-にしては、普通の体格の女性が付けるにはやや大きいが、その女性の指にはぴったりであろうものを差し出しながらこういった。


「私の妻の一人になってくれ」


「え…でも…妻の一人?」


 戸惑う女性の瞳を見つめながら、ルリジオは怯む様子もなく、熱を帯びた声でさらに言葉を続ける。

 周りの人々は、もはやこの奇妙な光景を息を呑んで見つめるしかないという様子で静まり返り、薪を燃やす炎の音が響いていた。


「私には妻は大勢いる。中にはヒトの言葉が苦手な者もいるが、どの妻も種族や身分を関係なく平等に養えるくらいの財はある。安全も保障する。どうだろうか…」


「あの…見た目も悪くて…そんな…」


「なにをいってるんだ美の女神…名前を教えておくれ…君を幸せにしてみせるとここに誓おう」


「えっと…はい。よろこんで。わたしの名前は、リラです。よ、よろしくお願いします」


 リラと名乗ったその女性の指に銀の輪をはめ、ルリジオが巨体の女性を軽々と抱き上げると、人々は歓声を上げ店中はわけのわからない熱気に包まれた。

 村長も働き者を失うのは惜しいが、村の危機を退けた英雄に娶られた娘この村から出たのは望ましいことだ…と言って涙ぐみながら頷くのだった。


 翌朝、見知らぬ純白の馬6匹に引かれた大きな馬車が村へとやってきた。

 何事かと駆け付けた怪物を追跡する準備をしていた兵士や、仕事の前支度をしている最中であろう村人が見守る中、ルリジオが抱え上げた巨体の女性リラは馬車まで運ばれていく。


「この仕事が終えたら戻るから、そうしたら改めて蜜月の時を過ごそう」


 そう言ってリラの額に口付をしたルリジオは勢いよく駆け出した馬車を見送ると、大きく伸びをして剣と、綺麗な磨かれた石で造られた首飾りのようなものを持って兵士たちの元へ向かっていく。


「さて、では昨日見失ったもう一人の美の女神を迎えに行こうか」


 太陽に照らされてキラキラと光る金色の髪を揺らしながら、爽やかな笑顔を浮かべたルリジオを見て、兵士は不思議そうな顔で言うのだった。


「あの下働きの娘は性格もよく、働き者なので、ルリジオ様が妻にしたいというのもわからなくはありません。ですが、昨日の丸太のような腕を持つ鉱山の怪物はヒトを喰うかもしれない危険な生き物ですよ?何故美の女神と呼んで対話をしようとするんですか?」


「でも巨乳だぞ!?」


 ルリジオの真剣な叫びは、鉱山のふもとの村に響き渡った。

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