3-4
このプレハブ小屋はもうすぐ無くなる。
佳くんは東京へ帰ってしまって、顔を合わせることが困難になる。
俊太も、私から離れようとしている。
親は現実を見ろと、私を夢から引き
色々な物が、私から一遍に離れていこうとしていた。
「……っ……」
今はただ、泣くことしか出来ない。
悲しみも苛立ちも不安も、今は我慢せずに、一度すべて流してしまおうと思った。
考えるのは、それからでいい。
――ドォーン……
遠雷が鳴った。
雷はいつも突然にやってくる。
それでも今は、帰る気にはなれなかった。
ここに、居たかった。
「ケイ」
佳……?
私は、突然声のした方を振り返った。
そこには、ドアに手をかけてこちらを見ている俊太の姿。
私の視線は彼には
俊太は私の思いを察したのか、私に静かに歩み寄り、その手を私の肩に置いた。
「俺がケイと呼ぶのは、お前だけだろ?」
静かに響いた彼の声に、私ははっとする。
佳くんの事を考えていたせいで、ケイという〝音〟に反応してしまったのだ。
今まで、こんな事は一度もなかったのに。
「ごめん……」
「……酷い顔だな。どうした? 話してみろ」
「……」
「ゆっくりでいい。一つずつ話していけよ。それとも、俺には話せない事でもあるのか?」
話せない事……。
「そんなことは……」
私の夢を話したら、俊太はどんな反応をするだろうか。応援してくれるだろうか。それとも、私では無理だと笑うだろうか。
「話せる範囲で構わないから話してみろよ。今お前が思ってることを」
最近の俊太は、前よりもずっと優しい。
「……うん」
私は、自分の心に渦巻く感情を、ぽつりぽつりと、俊太に打ち明けていった。
「ミュージカルか。俺にはよく分からない世界だな。そういうのはホシケイが詳しいんじゃないのか? あいつはお前の夢のこと、知ってるのか?」
「うん、知ってるよ。少し前に話して、色々と教えてもらってたんだ」
「……そうか。……俺よりも先に……」
俊太が瞳を閉じる。
彼の眉間には、少しだけ皺が寄っていた。
そして再び私に向けられた眼差しからは、いつものクールな色は抜け落ちていた。
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